亡くなった夫の不義の子だと言われた子どもを引き取ったら亡くなった婚約者の子どもでした~この子は私が育てます。私は貴方を愛してるわ~

しましまにゃんこ

文字の大きさ
3 / 7

3.公爵家での生活

しおりを挟む
◇◇◇

「まぁお嬢様!こんなに早い時間にお目覚めになられたのですか?あまり良くお休みになれませんでしたか?」

 ライザの様子を確認に来たメアリーは、所在なげにソファーに座るライザに驚いた。まだ夜明け前という時間帯だ。

「あ、メアリーさん、あの、私何かお手伝いできたらと思って……台所仕事でもお掃除でもなんでもやりますから」

 ベッドの中であれこれ考えていると結局朝になってしまった。けれども、元々眠りは浅く、寝る時間も限られていたので問題はない。それよりも、ここでどう過ごせばいいかわからずに、落ち着かなかった。

「お嬢様……いけませんわ。お嬢様にそんなことをさせてしまっては、私が奥様に叱られてしまいます」

「そう、ですか……」

 明らかに肩を落とすライザに、メアリーはにっこり微笑んでみせる。

「ですから、私のお手伝いをお願いしてもいいですか?温室から奥様のお部屋に飾る花を選んでいただきたいのです」

「は、はいっ!わかりました」

 ぱぁ~と顔を輝かせるライザ。

「では、着替えたら朝食までの間ご一緒しましょうね」

 部屋に隣接するドレスルームには、すでに色とりどりのドレスが所狭しと並んでいた。ドレスに合わせるように置かれた可愛い靴にキラキラ光るアクセサリー。きっと、この綺麗な石は、高価な宝石なのだろう。

「こ、これを私が着るんですか?」

 ごくりと唾を飲み込むライザに、メアリーはにっこり微笑んで見せる。

「もちろんですわ。この部屋のものはすべてお嬢様のために用意されたものですから」

「だって、私、奥様には昨日初めてお会いしたのに」

「ふふふ、そうですよね。まあ詳しいことは秘密ですが、数日前から慌ただしく用意されていましたよ。ほら、サイズもぴったりでしょう?」

 確かにメアリーが着せてくれた靴もドレスも、可愛い帽子も、どれもライザにぴったりだ。

「お姫様みたい……え、いえ、ち、違うんです!ドレスが!このドレスがとっても可愛くて!」

 鏡に映った自分の姿をみて思わずポツリと呟いた後、羞恥心で真っ赤になるライザ。ちょっと綺麗な服を着せてもらえたからと言って、自分のような孤児がお姫様などとおこがましい。けれどもメアリーは、丁寧に腰のリボンを結ぶと、ライザに優しく語り掛けた。

「ええ。公爵家のお姫様ですわ。ライザお嬢様。お嬢様の瞳と同じ、ブルーのドレスがとてもよくお似合いです。とてもとても可愛らしいですわ。まるで天使のように」

 メアリーの優しい言葉に思わず涙があふれる。薄汚い私生児、恥知らずの娘、薄気味悪いとさんざん罵倒されてきたライザは、誰かから優しい言葉を掛けられることなんてなかったから。

「今までの人生は悪い夢みたいなもの。お嬢様の人生はここから始まるのです」

 ◇◇◇

 サクサクの焼きたてクロワッサンにベイクドエッグ。野菜たっぷりのキッシュにフルーツたっぷりのヨーグルト。黄金色のコンソメのスープからはおいしそうな匂いが漂っている。きらきらした朝食を前にライザは一人固まっていた。

「どうしたの?朝食のメニューが気に入らなかったかしら?」

(いきなり奥様とお食事することになるなんて!!!)

 てっきり昨日の晩と同じように食事は一人で食べるものだと思っていたのに、なぜかローズと同じテーブルに案内されてしまったのだ。綺麗に食べたいと思っても、テーブル作法などまるで分らない。ライザがまごまごしていると、ローズはにっこり微笑んだ。

「マナーなんて気にしなくていいわ。パンはこうして手でちぎって食べられるでしょう?フォークとスプーンもこうして一本だけ使えばいいの。あなたちょっとやせ過ぎよ。遠慮なく沢山召し上がれ」

 ライザは恐る恐るクロワッサンを一つ手にとると、少しちぎって口に入れる。芳醇なバターの香りが口いっぱいに広がり、そのおいしさに思わず目を見張った。

「どう?アルカナ公爵家のシェフは優秀でしょう?食事があまりにもおいしいから、私なんてこの五年間ですっかり太ってしまったわ」

 ため息をつくローズに思わずくすっと笑いが漏れる。慌てて真面目な顔をするライザだったが、ローズは眩しそうに眼を細めた。

「あなたの笑顔、素敵よ」

 最初は緊張していたライザだったが、食べ物の誘惑には勝てず、すっかり完食してしまった。

「あなたにはこれから公爵家の令嬢としてふさわしい教養を身に付けて貰うわ。食事の仕方からお辞儀の仕方、この国の歴史。覚えることは沢山あるの。早速家庭教師を雇ったから今日からレッスンを始めましょう」

「は、はいっ」

「最初は難しいと感じるかもしれないけれど、頑張ったら必ずあなたの役に立つわ」

 ローズの言葉にライザはこくりと頷く。毎日掃除や洗濯に追われる生活を送っていたライザは、何もやることがないとどうにも落ち着かないと思っていたのだ。やることがあって良かったと胸を撫で下した。

「さあ、これから忙しくなるわよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

処理中です...