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6.語られる真実
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◇◇◇
「あなたのお父様、ライアン殿下はね、あなたと同じ闇属性の持ち主だったの」
「え、私のお父様も?」
「ええ。闇属性は光属性と同じ希少属性。でも、当時は闇魔法のことがあまり知られていなくて。彼は自分の魔力属性が王族として相応しくないと悩んでいたの。わたくしはそんな彼の悩みを少しでも減らしたくて魔術学園で闇魔法の研究を始めたの」
「そうなんですか」
「でも、わたくしの研究は遅々として進まなくて。そんなとき魔術学園で講師をしていたあなたのお母様と出逢ったのよ。リアナ先生は光属性の持ち主で、学園で魔法属性の研究をしていた私に協力してくれていたの。先生の屈託のない笑顔と魔術で多くの人を救いたいと願う強い信念が私は大好きだったし、とても尊敬していたわ。彼女は属性と同じ、眩しくて光のような存在だった。そして、彼女の協力のお陰で、闇属性魔法には光属性魔法と同じように癒やしの力があることがわかったの。そのことであなたのお父様がどれほど救われたか。二人が恋に落ちるのに、そう時間は掛からなかったわ」
「そんな!お義母様が研究して下さったおかげではないですかっ!それなのに二人で裏切るなんて!」
「わたくしとライアン様の婚約はわたくしが生まれたときに決められたもので、彼から見たら私は小さな妹のような存在だったと思うわ。わたくしも実の兄のように慕っていたの。でも、わたくしにはライアン様の心の闇を心から理解して寄り添うことができなかった。リアナ先生だけが根気よく彼に寄り添い、頑なだった彼の心を開いたの。光と闇が惹かれ合うのは、運命のようだと思ったわ。そしてわたくしは、そんな二人の恋を応援しようと心から思っていたの」
「そう、だったんですか……」
「ライアン殿下はリアナ先生と新たに婚約を結びたいと陛下に申し出たわ。王太子の身分を捨て、これからはリアナ先生と共に魔術の発展に力を注いでいきたいと願ったの。殿下の熱意に陛下も折れて、内々に私との婚約破棄の準備や、新たな婚約者としてリアナ先生を紹介する準備も行われていたわ。けれどあの日、ライアン殿下が恐ろしい魔獣に襲われてしまって。───あなたのお母様は、自分の持てる力の全てを使って必死に治療を施したけれど、助からなかった。その後リアナ先生は魔術学園を辞め領地に帰ったのだけど、そのときすでに先生のお腹の中にはあなたがいたのね」
ローズは、ライザの頭を優しく撫でる。
「無事に生まれてから報告しようと思ったのか、王家にあなたを奪われて引き裂かれることを恐れたのか。今となっては分からないけれど……これだけは分かるわ。あなたは誰よりも愛しあう二人から生まれた子どもよ」
「お義母様……」
エリックもまた、ローズの話に驚きを隠せなかった。
「そう、だったのか。僕も兄のことを誤解していたようだ。君に辛い思いをさせた兄にずっと怒りを感じていたし、そのことについて君とろくに話そうともしなかった」
「あなた、ライアン殿下の話をするとすぐに不機嫌になるんだもの。あれほど話をしましょうと言ったのに。今日だって、ライザのことがなければここに来なかったでしょう?」
「君が、今も兄を想っていると思うと辛かったからだ。じゃあなぜ君はアルカナ公爵家との縁談を受けたんだ?兄以外と結婚したくなかったから、自暴自棄になって受けたんじゃないのか?」
エリックの追求は止まらない。
「私もずっと不思議でした。どうしてお義母様はアルカナ公爵様と結婚したんですか?」
うら若い乙女がなぜ老公爵と結婚したのか。ライザもそのことが一番気になっていた。
「アルカナ公爵はね、あなたの本当のお父様のお祖父様に当たる人なの」
「公爵様が?」
驚くライザにエリックが頷いてみせる。
「ああ、アルカナ公爵家は王妃である僕たちの母の家門なんだ。つまり君はひ孫だね」
「私が、公爵様のひ孫……」
「公爵閣下はライアン殿下をいつも気にかけていてね。私のことも孫のように可愛がって下さっていたの。ライアン殿下が亡くなったあと、公爵家の跡継ぎになる予定だったエリックは王太子になったでしょう?それで、自分はもうすぐ亡くなるから、私がもっと大人になったとき自由に結婚相手を選べるようにって結婚を申し出て下さったの。奥様のミレーネ様もその一年前に亡くなっていて、ミレーネもローズなら笑って許してくれるだろうとおっしゃっていたわ。好きな殿方を婿に迎えてもいいし、公爵家の財産を持参金代わりに嫁いでもいい。一生独身でも困らないようにって。ライアン殿下が亡くなったことでわたくしの身の回りも騒がしくなっていて、新たな縁談が次々と持ち込まれたのだけど、とてもそんな気分になれなかったの。それに、魔術の研究にはお金がかかるから、公爵家の財産を自由に使える立場は正直ありがたかったのよ」
「そんな理由だったのか。お祖父様も僕に一言くらい相談してくれても良かったじゃないか」
「あなたも突然王太子に選ばれて忙しかったでしょう?その代わり手紙を預かっているわよ。あなたが落ち着いたら渡してほしいと仰っていたわ」
ローズがそっとエリックに手紙を差し出す。エリックは手紙を開き、少し目を見開いたあと、静かに手紙を閉じた。
「……お祖父様は何もかもお見通しだったんだな。すまない、ライザ。君が男爵家で辛い目にあったのは全部僕のせいだ」
「なんて書いてあったの?」
「ミレーネお祖母様は、兄上が愛したリアナ嬢を養女に迎えようと考えていたらしい。固辞されてしまったらしいが、いつでも訪ねてきて欲しいと家宝のサファイヤを渡したと書いてあった。僕にも、彼女が幸せに暮らしているか気にかけてやって欲しいと書いてある」
「そうだったのね……お二人もライザが生まれたことを知っていたらどんなに喜んだかしら」
ローズの言葉にライザは涙を流した。
「私は、本当にここにいていいんですか?本当に?」
「ええ。言ったでしょう?ここは貴方の家だって。王家と公爵家の血を継ぐ正統な後継者であるあなたが現れた以上、むしろこのアルカナ公爵家にふさわしくないのはわたくしのほうだわ。あなたが成人して立派に家を継いだら、わたくしは領地の片隅にでも隠居するつもりよ」
静かに微笑むローズに今度は二人が慌てる。
「そ!そんな!嫌ですお義母様!!!そんなことおっしゃらないでください!」
「ローズ!?君はそんなことを考えていたのか!?」
二人の酷い剣幕に驚くローズ。
「二人ともどうしたの?ライザがちゃんと成人するまでは責任をもってわたくしが立派なレディーに育てるから安心して頂戴」
「そんなことを聞いてるんじゃない!君の幸せはどうなるんだ!君自身の幸せは!?」
「そうです!お義母様はこんなに若くてお美しいのに、一生を義理の娘の子育てに捧げるなんてどうかしています!」
思わず立ち上がった二人の姿に、ふふっとローズから笑いが零れる。
「まあ、そっくり。やっぱり血は争えないわね」
エリックとライザは顔を見合わせるとこくりと頷いたあと、小声で話し合った。
「僕はローズには誰よりも幸せになる権利があると思っている。ライザ、君もだ」
「ええ、私もお義母様には絶対に幸せになってもらいたいです」
「意見が一致して嬉しい。そこでどうだろう、僕の娘になる気はないだろうか?」
「お義母様のお気持ち次第ですね」
再びこくりと頷きあう両者。
ローズはきょとんと首を傾げた。
「なあに?二人してこそこそ話して。わたくしを仲間外れにするなんて寂しいわ」
「二人のこれからの人生設計に、僕を加えてはもらえないだろうかと話し合っていたところだ」
「エリックを?」
「君は露ほども気が付いてないと思うけれど、僕は君をずっと愛してる。今この瞬間もだ」
「え……?あなた、そんなこと一言も……」
「言えると思う?兄の婚約者だった君に。そして、お祖父様の未亡人となった君に。君は、立場上僕のお祖母様になるんだよ?初恋の令嬢がお祖母様だなんて悪夢以外のなにものでもないと思わないか?」
「確かにそうね……」
真剣に悩むローズにエリックは思わず吹き出す。
「僕も幸せになってもいいと思わないか。ずっとずっと、君への想いを我慢してきたのだから」
「エリック……」
見つめあう二人から、ライザはそっと離れた。
「あなたのお父様、ライアン殿下はね、あなたと同じ闇属性の持ち主だったの」
「え、私のお父様も?」
「ええ。闇属性は光属性と同じ希少属性。でも、当時は闇魔法のことがあまり知られていなくて。彼は自分の魔力属性が王族として相応しくないと悩んでいたの。わたくしはそんな彼の悩みを少しでも減らしたくて魔術学園で闇魔法の研究を始めたの」
「そうなんですか」
「でも、わたくしの研究は遅々として進まなくて。そんなとき魔術学園で講師をしていたあなたのお母様と出逢ったのよ。リアナ先生は光属性の持ち主で、学園で魔法属性の研究をしていた私に協力してくれていたの。先生の屈託のない笑顔と魔術で多くの人を救いたいと願う強い信念が私は大好きだったし、とても尊敬していたわ。彼女は属性と同じ、眩しくて光のような存在だった。そして、彼女の協力のお陰で、闇属性魔法には光属性魔法と同じように癒やしの力があることがわかったの。そのことであなたのお父様がどれほど救われたか。二人が恋に落ちるのに、そう時間は掛からなかったわ」
「そんな!お義母様が研究して下さったおかげではないですかっ!それなのに二人で裏切るなんて!」
「わたくしとライアン様の婚約はわたくしが生まれたときに決められたもので、彼から見たら私は小さな妹のような存在だったと思うわ。わたくしも実の兄のように慕っていたの。でも、わたくしにはライアン様の心の闇を心から理解して寄り添うことができなかった。リアナ先生だけが根気よく彼に寄り添い、頑なだった彼の心を開いたの。光と闇が惹かれ合うのは、運命のようだと思ったわ。そしてわたくしは、そんな二人の恋を応援しようと心から思っていたの」
「そう、だったんですか……」
「ライアン殿下はリアナ先生と新たに婚約を結びたいと陛下に申し出たわ。王太子の身分を捨て、これからはリアナ先生と共に魔術の発展に力を注いでいきたいと願ったの。殿下の熱意に陛下も折れて、内々に私との婚約破棄の準備や、新たな婚約者としてリアナ先生を紹介する準備も行われていたわ。けれどあの日、ライアン殿下が恐ろしい魔獣に襲われてしまって。───あなたのお母様は、自分の持てる力の全てを使って必死に治療を施したけれど、助からなかった。その後リアナ先生は魔術学園を辞め領地に帰ったのだけど、そのときすでに先生のお腹の中にはあなたがいたのね」
ローズは、ライザの頭を優しく撫でる。
「無事に生まれてから報告しようと思ったのか、王家にあなたを奪われて引き裂かれることを恐れたのか。今となっては分からないけれど……これだけは分かるわ。あなたは誰よりも愛しあう二人から生まれた子どもよ」
「お義母様……」
エリックもまた、ローズの話に驚きを隠せなかった。
「そう、だったのか。僕も兄のことを誤解していたようだ。君に辛い思いをさせた兄にずっと怒りを感じていたし、そのことについて君とろくに話そうともしなかった」
「あなた、ライアン殿下の話をするとすぐに不機嫌になるんだもの。あれほど話をしましょうと言ったのに。今日だって、ライザのことがなければここに来なかったでしょう?」
「君が、今も兄を想っていると思うと辛かったからだ。じゃあなぜ君はアルカナ公爵家との縁談を受けたんだ?兄以外と結婚したくなかったから、自暴自棄になって受けたんじゃないのか?」
エリックの追求は止まらない。
「私もずっと不思議でした。どうしてお義母様はアルカナ公爵様と結婚したんですか?」
うら若い乙女がなぜ老公爵と結婚したのか。ライザもそのことが一番気になっていた。
「アルカナ公爵はね、あなたの本当のお父様のお祖父様に当たる人なの」
「公爵様が?」
驚くライザにエリックが頷いてみせる。
「ああ、アルカナ公爵家は王妃である僕たちの母の家門なんだ。つまり君はひ孫だね」
「私が、公爵様のひ孫……」
「公爵閣下はライアン殿下をいつも気にかけていてね。私のことも孫のように可愛がって下さっていたの。ライアン殿下が亡くなったあと、公爵家の跡継ぎになる予定だったエリックは王太子になったでしょう?それで、自分はもうすぐ亡くなるから、私がもっと大人になったとき自由に結婚相手を選べるようにって結婚を申し出て下さったの。奥様のミレーネ様もその一年前に亡くなっていて、ミレーネもローズなら笑って許してくれるだろうとおっしゃっていたわ。好きな殿方を婿に迎えてもいいし、公爵家の財産を持参金代わりに嫁いでもいい。一生独身でも困らないようにって。ライアン殿下が亡くなったことでわたくしの身の回りも騒がしくなっていて、新たな縁談が次々と持ち込まれたのだけど、とてもそんな気分になれなかったの。それに、魔術の研究にはお金がかかるから、公爵家の財産を自由に使える立場は正直ありがたかったのよ」
「そんな理由だったのか。お祖父様も僕に一言くらい相談してくれても良かったじゃないか」
「あなたも突然王太子に選ばれて忙しかったでしょう?その代わり手紙を預かっているわよ。あなたが落ち着いたら渡してほしいと仰っていたわ」
ローズがそっとエリックに手紙を差し出す。エリックは手紙を開き、少し目を見開いたあと、静かに手紙を閉じた。
「……お祖父様は何もかもお見通しだったんだな。すまない、ライザ。君が男爵家で辛い目にあったのは全部僕のせいだ」
「なんて書いてあったの?」
「ミレーネお祖母様は、兄上が愛したリアナ嬢を養女に迎えようと考えていたらしい。固辞されてしまったらしいが、いつでも訪ねてきて欲しいと家宝のサファイヤを渡したと書いてあった。僕にも、彼女が幸せに暮らしているか気にかけてやって欲しいと書いてある」
「そうだったのね……お二人もライザが生まれたことを知っていたらどんなに喜んだかしら」
ローズの言葉にライザは涙を流した。
「私は、本当にここにいていいんですか?本当に?」
「ええ。言ったでしょう?ここは貴方の家だって。王家と公爵家の血を継ぐ正統な後継者であるあなたが現れた以上、むしろこのアルカナ公爵家にふさわしくないのはわたくしのほうだわ。あなたが成人して立派に家を継いだら、わたくしは領地の片隅にでも隠居するつもりよ」
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「そ!そんな!嫌ですお義母様!!!そんなことおっしゃらないでください!」
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二人の酷い剣幕に驚くローズ。
「二人ともどうしたの?ライザがちゃんと成人するまでは責任をもってわたくしが立派なレディーに育てるから安心して頂戴」
「そんなことを聞いてるんじゃない!君の幸せはどうなるんだ!君自身の幸せは!?」
「そうです!お義母様はこんなに若くてお美しいのに、一生を義理の娘の子育てに捧げるなんてどうかしています!」
思わず立ち上がった二人の姿に、ふふっとローズから笑いが零れる。
「まあ、そっくり。やっぱり血は争えないわね」
エリックとライザは顔を見合わせるとこくりと頷いたあと、小声で話し合った。
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「ええ、私もお義母様には絶対に幸せになってもらいたいです」
「意見が一致して嬉しい。そこでどうだろう、僕の娘になる気はないだろうか?」
「お義母様のお気持ち次第ですね」
再びこくりと頷きあう両者。
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「なあに?二人してこそこそ話して。わたくしを仲間外れにするなんて寂しいわ」
「二人のこれからの人生設計に、僕を加えてはもらえないだろうかと話し合っていたところだ」
「エリックを?」
「君は露ほども気が付いてないと思うけれど、僕は君をずっと愛してる。今この瞬間もだ」
「え……?あなた、そんなこと一言も……」
「言えると思う?兄の婚約者だった君に。そして、お祖父様の未亡人となった君に。君は、立場上僕のお祖母様になるんだよ?初恋の令嬢がお祖母様だなんて悪夢以外のなにものでもないと思わないか?」
「確かにそうね……」
真剣に悩むローズにエリックは思わず吹き出す。
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