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31 あなたの幸せだけを願う
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◇◇◇
「キャロル嬢は強いですね」
「かっこよかったね。ロイスが落ちるのも時間の問題かな」
朝食の後ジークと一緒に庭園を散歩する。キャロルちゃんとロイスもまた、話し合いが必要だ。これからどうなるかわからないけど、不思議とキャロルちゃんとなら大丈夫という気がしている。
「ソフィア様は私の身分を知っても変わらないのですね」
ジークがポツリとつぶやく。うん、実はどうしようかなってずっと悩んでた。
「ジークハルト王太子殿下にはご機嫌麗しゅう。アルサイダー男爵家のソフィア・アルサイダーです。……っていまさら自己紹介するのも間抜けじゃない?不敬だと思うなら正すけど」
わざと軽口をたたくとジークは少し泣きそうな顔をして頭を振った。
「お願いです。どうか、そのままで。身分を隠していたこと、申し訳ありませんでした。ずっと私は逃げていたんです。自分の立場からも叔父や叔母の罪からも。アルサイダー商会で、あなたの執事として、ずっと一緒にいたいと思っていた。何もかも捨てて、王族であることも忘れて、あなたと共にいたかった」
「ずっと身内から命を狙われてたんだね……」
それはまだ12歳だったジークにとってどんなに残酷なことだろう。
「私は自分の命が狙われていると分かったとき、ただただ怖くて逃げたんです。戦おうなんて少しも思わなかった。そんな私が王位に相応しいはずがありません。私の身分など、王である父の嫡男として生まれたというだけのこと。叔父が母や私を亡き者にしてまで王位が欲しかったのなら、喜んで差し出したものを」
ギュッとこぶしを握り締める様子が痛々しい。ジークはずっと、傷ついていたんだとわかる。
「駄目だよ。あの男こそ王座にはふさわしくないもの」
いともたやすく殺されかけたことを思い出す。自分以外は心底どうでもいいと思っている驕りがそこにはあった。平気で弱者を虐げるものに王の資質などない。
「そうですね……叔父は、確かに王に相応しい人物ではありませんでした。いえ、人として許されない過ちを数多く犯してきました。でもそれは、叔父や叔母だけに限ったことではありません。ソフィア様、私はね、この国の王族にも貴族たちにも絶望していたんです」
ジークの瞳が悲しみに揺れている。この十年、ジークが不正に手を染める王族や貴族たちを粛正していることには気が付いていた。ジークが王族や貴族を憎む理由は出生の秘密にあるのではないかとも感じていた。
「王族や貴族に生まれたからって立派な人になるわけじゃないもの。でもジーク、貴族の中にも立派な人達はいるよ」
「そう、でしょうか……」
「うん。貴族の中でも信頼できる人はいるし、平民の中にも素晴らしい能力を持ってる人はいる。そうでしょう」
「そうですね……ガイル殿やソフィア様のように……」
「キャロルちゃんも、ロイスも、話してみると好きになれた。これから歩む世界でも、ジークが信じられる人はきっといるよ。これから何人だってできる。それにね、ジークは王に相応しい資質を持っている。ジークが作る国はきっと、虐げられてきた人たちに優しい国になるでしょ。民には何が必要か、何が大切か、ジークにはもう分かってる。アルサイダー商会で過ごした日々は、絶対に無駄なんかじゃなかったはず。だから、胸を張って!立派な王になって!ジークならきっと大丈夫だよ」
「ソフィア様……」
「ジークがどこの誰であろうと、私はずっとジークの味方だよ。それを、忘れないでね」
おずおずと手を伸ばすジークの胸に飛び込んで思いっきり抱きしめる。
「大好きよ、ジーク!」
「ソフィア様!」
ジークに抱きしめられるとほっとする。これからジークは王族として、王太子として人生を歩んでいくのだろう。そしてそこには、ただの男爵令嬢である私の居場所などないのだろう。
だけど、ジークを思う気持ちだけは誰にも負けない。今この瞬間の想い出だけで私はきっと生きていける。ジークがこの先誰を選んでも、笑って祝福してあげよう。それはとても辛いけど……
「キャロル嬢は強いですね」
「かっこよかったね。ロイスが落ちるのも時間の問題かな」
朝食の後ジークと一緒に庭園を散歩する。キャロルちゃんとロイスもまた、話し合いが必要だ。これからどうなるかわからないけど、不思議とキャロルちゃんとなら大丈夫という気がしている。
「ソフィア様は私の身分を知っても変わらないのですね」
ジークがポツリとつぶやく。うん、実はどうしようかなってずっと悩んでた。
「ジークハルト王太子殿下にはご機嫌麗しゅう。アルサイダー男爵家のソフィア・アルサイダーです。……っていまさら自己紹介するのも間抜けじゃない?不敬だと思うなら正すけど」
わざと軽口をたたくとジークは少し泣きそうな顔をして頭を振った。
「お願いです。どうか、そのままで。身分を隠していたこと、申し訳ありませんでした。ずっと私は逃げていたんです。自分の立場からも叔父や叔母の罪からも。アルサイダー商会で、あなたの執事として、ずっと一緒にいたいと思っていた。何もかも捨てて、王族であることも忘れて、あなたと共にいたかった」
「ずっと身内から命を狙われてたんだね……」
それはまだ12歳だったジークにとってどんなに残酷なことだろう。
「私は自分の命が狙われていると分かったとき、ただただ怖くて逃げたんです。戦おうなんて少しも思わなかった。そんな私が王位に相応しいはずがありません。私の身分など、王である父の嫡男として生まれたというだけのこと。叔父が母や私を亡き者にしてまで王位が欲しかったのなら、喜んで差し出したものを」
ギュッとこぶしを握り締める様子が痛々しい。ジークはずっと、傷ついていたんだとわかる。
「駄目だよ。あの男こそ王座にはふさわしくないもの」
いともたやすく殺されかけたことを思い出す。自分以外は心底どうでもいいと思っている驕りがそこにはあった。平気で弱者を虐げるものに王の資質などない。
「そうですね……叔父は、確かに王に相応しい人物ではありませんでした。いえ、人として許されない過ちを数多く犯してきました。でもそれは、叔父や叔母だけに限ったことではありません。ソフィア様、私はね、この国の王族にも貴族たちにも絶望していたんです」
ジークの瞳が悲しみに揺れている。この十年、ジークが不正に手を染める王族や貴族たちを粛正していることには気が付いていた。ジークが王族や貴族を憎む理由は出生の秘密にあるのではないかとも感じていた。
「王族や貴族に生まれたからって立派な人になるわけじゃないもの。でもジーク、貴族の中にも立派な人達はいるよ」
「そう、でしょうか……」
「うん。貴族の中でも信頼できる人はいるし、平民の中にも素晴らしい能力を持ってる人はいる。そうでしょう」
「そうですね……ガイル殿やソフィア様のように……」
「キャロルちゃんも、ロイスも、話してみると好きになれた。これから歩む世界でも、ジークが信じられる人はきっといるよ。これから何人だってできる。それにね、ジークは王に相応しい資質を持っている。ジークが作る国はきっと、虐げられてきた人たちに優しい国になるでしょ。民には何が必要か、何が大切か、ジークにはもう分かってる。アルサイダー商会で過ごした日々は、絶対に無駄なんかじゃなかったはず。だから、胸を張って!立派な王になって!ジークならきっと大丈夫だよ」
「ソフィア様……」
「ジークがどこの誰であろうと、私はずっとジークの味方だよ。それを、忘れないでね」
おずおずと手を伸ばすジークの胸に飛び込んで思いっきり抱きしめる。
「大好きよ、ジーク!」
「ソフィア様!」
ジークに抱きしめられるとほっとする。これからジークは王族として、王太子として人生を歩んでいくのだろう。そしてそこには、ただの男爵令嬢である私の居場所などないのだろう。
だけど、ジークを思う気持ちだけは誰にも負けない。今この瞬間の想い出だけで私はきっと生きていける。ジークがこの先誰を選んでも、笑って祝福してあげよう。それはとても辛いけど……
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