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32 吹き荒れる粛清の嵐

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 ◇◇◇

「この学園も寂しくなったわね」

 閑散とした学園の庭園を眺めてため息をつく。あれから一カ月以上がたち、王都の厳戒態勢が解除されたおかげで学園も無事再開した。

 しかし、明らかに生徒の数が減った学園は以前のような活気がなくどこか寂しい印象を受ける。ジークを中心にこれまで不正に関わってきた貴族の粛正が行われていることが原因だろう。

 ラファからの情報によると、長年王宮を離れていたジークには貴族や官僚に信頼できる相手が少ないため、父やラファまで駆り出されて連日忙しく働いているらしい。

 ラファの家も近いうちに男爵の叙勲を受ける予定だったので、このまま側近として残る可能性もあるとか。

 この間ラファにあったとき、ジークは人使いが荒いとぶつくさ言っていたが、ラファならジークのいい相棒になれそうだと思っている。

 ラファとは同い年だからそのうち彼も貴族学園に入学することになるだろう。案外ラファならこの窮屈な学園でも喜々として情報収集を行っているかもしれない。あいつはそういう奴だ。

 ロイスはシリウス伯爵夫妻の罪が確定するまでシリウス伯爵家で謹慎処分となっており、まだ学園には戻ってきていない。ロイスは高等部の3年生だから、本来なら今年卒業となる。せめて卒業はできるといいのだけど。

 つらつらと考えていると自然とため息が漏れる。やることも無いので何となく庭園を歩いていると、制服を可憐に着こなしたキャロルちゃんがやってきた。

「お姉さま、ここにいらしてたんですね。よろしかったらランチをご一緒しませんか?」

「キャロルちゃん……誘ってくれてありがとう。じゃあ食堂に行く?」

「そうですわね。今日のおすすめランチはなにかしら。この間食後に注文したフルーツのタルトは絶品でしたわ。今日はチーズケーキを食べたいと思ってますの」

「ふふ、私も頼んじゃおうかな」

 ジークのいなくなった学園生活で唯一の救いはキャロルちゃんと逢えることだ。キャロルちゃんは私の一つ下の15歳で学園では中等部に所属しているのだが、高等部の校舎まで足しげく通ってくれている。

 もともと中等部ではトラブル続きだったので親しい友人もいないらしい。私も貴族令嬢とは距離を取っていたので、キャロルちゃんは学園でできた初めての女友達だ。

 キャロルちゃんと食堂まで向かう途中、5~6人で歩いている貴族令嬢の集団にでくわした。

「ああ~らあ~ごめんなさい?あなたたち、そこ、邪魔ですわ。どいてくださる?」

 貴族の令嬢たちがくすくすと笑いながら上から目線で言ってくるのはいつものことだ。何も言わずに道を開けようとした私に対して、キャロルちゃんがすっと気色ばむ。

「あなた、今私達にどけとおっしゃったの?」

「あら、聞こえなかったのかしら?平民上がりは大人しく道をよけるのがこの学園でのマナーなのよ?口答えするなんて生意気だわ。あなた、その制服中等部の生徒でしょう?ここは高等部の校舎よ。とっとと中等部に戻りなさい」

「……お姉さま、この方たちはいつもこのようなことを?」

「ん?そうね。でも私特に気にしてないから大丈夫よ」

 正直いけすかない態度だとは思うが別に殴り合いの喧嘩をしかけてくるわけではない。こんなことはしょっちゅうで怒るのもばかばかしいほどだ。ところがキャロルちゃんはそうではなかったらしい。

「なんてことっ!私のお姉さまにこんな失礼な態度許しませんわ!」

「何よ?何か文句があるのかしら。成り上がり男爵家ごときが」

 くすくすと笑う令嬢たちに向かってキャロルちゃんは声高く宣言した。

「私の名前はキャロル・ソード!私の尊敬するソフィアお姉さまへの失礼な態度は許しません!」

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