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その28 赤竜王ジェニファー

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 ◇◇◇

 ひとしきり地響きを味わったあと、ダイアンは落ち着いた様子でフィリクスに声を掛ける。

「実はお前に伝えたいことはこれだけじゃないんだ」

「まだ何かあるのか?」

 不機嫌な顔で問いかけるフィリクスにダイアンはしばし考える。

「そうだな。いい知らせと悪い知らせが両方と言ったところか。実は、ジェニファーの娘が見つかった」

「ジェニファーの娘だって!?本当なのか!?」

「ああ。しかも、間違いなく竜人だ」

「ジェニファーの娘で、竜人……」

 とても信じられないといったふうに呟くフィリクス。ダイアンもまた同じ気持ちだった。

「ジェニファーが子供を産んだのか。信じられないな」

「ああ、俺も正直驚いた。だが、ロイは出会ってすぐにジェニファーの娘だと気づいたらしい」

「ロイも帰ってきたのか?そうか、ロイがそう言うんなら間違いないんだろうな。それで、ジェニファーは一緒なのか?」

「残念な知らせは、ジェニファーが亡くなったということだ」

「そうか……もうずいぶん年老いて力も失っていたからな」

「ああ。寿命だろうな……」

 途端にしんみりする二人。二人の脳裏に在りし日のジェニファーの姿が思い出される。体力作りと称して笑顔で二人を断崖絶壁から突き落とすジェニファー。飛行訓練と称して二人を足に掴んだまま上空を旋回するジェニファー。

「ジェニファーには本当に世話になったよな。何度逆さ吊りにされたかわからない」

「本当に。彼女が死んだと聞かされても信じられない気分だ」

 やんちゃだった二人は、悪さをするたびにジェニファーから説教を食らっていたが、二人にとってジェニファーは、偉大なる師であり、母のような存在でもあった。

「赤竜王ジェニファー。偉大なる我らが女王陛下に心から哀悼の意を捧げよう。そして、ジェニファーの娘を新たな同胞として迎え入れる準備を」

 フィリクスの言葉にダイアンは大きく頷く。フィリクスがこの国の竜王になる前、この国を治めていたのは赤竜の一族の長であるジェニファーだった。年老いて力を失ったジェニファーは成長したフィリクスを次代の竜王として指名した後、余生は静かに過ごしたいと国を出たのだ。番を持たなかった竜は、自分の死を周囲に悟られないように一人静かにこの世を去る。

 ジェニファーは長い年月を生きた竜人族の女性だったが、ずっと独り身だった。そのジェニファーが娘を遺していたのだから二人が驚くのも無理はない。

「でも、ジェニファーは番を得ることができたんだな……」

「ああ」

 竜人族にとって番を得ることは生涯の望みであるが、出会えないことも少なくない。長い長い竜生の果てに番を得たジェニファーを二人は心から祝福したかった。

「ジェニファーの娘に会ってみたいな。その子の名は何というんだ」

「彼女の名はミイナ。ドラード国の出身だそうだ」

「ドラード国……」
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