なんで俺ばっかり!

黒滝ヒロ

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全く驚いたことにこの世界では会計をするという概念が存在していなかった。
よくそれで国や領が運営できたな、と思うほどに全てにおいてどんぶり勘定で、お金が足りるか足りないかという感覚だけでやってきたらしい。

そりゃいくら稼いだってジリ貧になるよ。貨幣文化はあるのになんでそれを計算しようと思わなかったのか、本当に疑問ではあるが、一度この領の政府に当たるドゥーガルの管轄範囲内で、概算で収支を計算することにする。

この館の全ての収入と支出を伝票を見て整理していく。本来なら、この建物や土地、馬なんかも全て会計上にあげる必要があるのだが、とりあえずはこの1年間での収支だけでも計算してみよう。
俺は1週間、ドゥーガルの執務室内に机を用意してもらって、ひたすら伝票を見ながら仕訳をしていた。

収支計算した結果、収入に対してかなりの支出があることがわかった。支出を適切に切り詰めて、いくらか翌年に繰越しておかないと作物が取れなかった場合にかなり危険なことになる。それと作物自体の備蓄も必要だ。

支出で最も大きい費用は治安維持にかかる費用と魔導研究予算。あと女神教会への寄付。
魔導研究予算はおそらくレメが主導で運営しているあの魔導塔関連だろう。レメの稼ぎ出す魔導研究の成果がかなりの収入をもたらしているので、この辺は潤沢に予算があったほうがいいだろう。

治安維持にかかる費用が意外とでかい。ドゥーガルは割と民衆からは好かれていると聞いていたが、暴動などが頻発するのだろうか。もちろんこの中にはルシアーノが管轄する騎士団の人件費や装備の費用も入る。人件費を削減するのはちょっと迷うなあ…やる気が削がれるかもしれないし、就職できないと余計治安維持にかかる費用が高くなるかもしれない。ここも手をつける優先度は低いな。

最後に女神教会への寄付。う~ん思ったよりも高いな?実際に顕現する神様だから、元いた世界よりも身近でありがたい存在なのかもしれない。それにしても領予算の2割以上というのはかなりかかりすぎだ。しかもこの後の儀式とやらでこの出費がさらにかかることになる。

ここまでの計算で、今年はどうあってもこれまでの貯蓄をある程度取り崩さないといけないことがわかってきた。そのために切り詰められる方法をいくつかあげてドゥーガルに提案していく。

「サトル。異世界のカイケイとやらはすごいものだな。確かにこのような表にすれば1年で何にいくら使ったか、どれくらいの余裕があるのかが具体的にわかる。」
「そうそう。豊かになるにはまず会計から始めないとな。」
「君がいくつか提案してくれた切り詰める方法を、いくつか試しやすいところから進めていくことにしよう。ありがとうサトル。本当に君という人は…」

ドゥーガルが目をうるうるさせて俺の手をとる。手が熱い。
「本当に素晴らしい。君はもしかしたら我々を恨んでいるのではないかと心配していたが、このようなことまでしてくれるとは思わなかった。本当に感謝している。」
「いやいや、ここにきてから不自由なく生活させてもらってますから、そのお礼ですよ。」
「そのような謙虚な振る舞い…サトル私は心からあなたを愛している。どうか私の横に末長くいてほしい。」

ドゥーガルが跪き、俺の右手の甲にキスをした。この世界に来てからこういうことが度々あるので変に慣れてきたところがあるのだが、美形の青年にこのような態度をされるとどう返答していいか今でも対応に困る。

元の世界ではノーマルだった俺だが、こちらの世界で割と誠実に求愛されると性別なんてどうでもいいかと最近は思うようになってしまっている。
それでも、まだ俺の中では元の世界での俺の常識が「いやいや男だろ。子供作れないだろ。」と告げてくる。

俺の将来の漠然とした人生設計は、綺麗で小柄な奥さんと子供2人、犬1匹でマイホームを購入することだった。親に孫の顔も見せてやりたいし、守る存在というのも自分の生きる目的になる気がしていた。
30になるまでなんの行動にも移せていなかったけれども、それでもいつかはそういう生活をすると思っていたのだ。

そんな俺の中で漠然と積み上げられた常識が、この人たちの誠実な求愛に対する自分の気持ちと拮抗している。「いや無理!」という気持ちと「嬉しい」という気持ちとで葛藤してしまう。
優柔不断な自分に気づき、彼らに対してなんだか申し訳ない気持ちになる。

「あ、ありがとうございます…。ただ、私は、その…。」
「サトルの世界での常識や同性での結婚が通常のものでないことはよくわかっている。それでも、私の気持ちは伝えさせて欲しい。あなたの返答を急かしているわけではないから。」
「すみません…」

本当に紳士だな…。俺にこのようなことを女性にできただろうか。いやあと10歳歳をとっても無理だと思う。自分の容姿や能力に自信がない俺は、きっとあのまま待ちの姿勢でいても一生結婚なんて無理だったのだろう。
これ以上は対応に困るので、聞きたかった疑問を口にする。

「あ、ところでいくつか質問があるのですが。」
「サトルにならどのような質問にも答えよう。なんだい?」
「この治安維持にかかる費用ってなんですか?」
「実はこの領は隣国との国境に位置する辺境でね。隣国との睨み合いのためにある程度の兵力は必要だ。さらにここ最近では領内の動物が急に凶暴な行動を取るようになってね。それに対応するためにさらに人を集めないといけなくなってしまった。」
「な、なるほど…動物が急に凶暴になるというのは不作とかですか?」
「いや、そんなことはない。今年も作物は豊作であったし、雨も十分に降っている。原因は今でも調査しているところだが、あいにくまだわかっていないのだ。それと、3年前に隣国と戦闘があってね。それでこちらも大きな被害がでた。だからこの辺りの費用を削減するのは今は難しい。」
「わかりました。そういうことなら仕方ないですよね。あ、あと女神教会への寄付ってかなり大きいですが…。」
「それはな…。女神様を敬う気持ちに嘘はないが、ここまで寄付する必要があるのか疑問がある。しかし、教会関係者が必要だというのを無下にすることもできまい。教会の者に睨まれると民衆が敵に回る。」
「な、なるほど…」

しばらくその他削減できそうな項目はないか一つずつ相談した後、ドゥーガルは報告の知らせを聞いて部屋を出て行った。
費用はかかるが、理由もそれなりにある。今まで出ていた予算を事情も伝えずに削減することはできないので、それは今後の検討事項だということにしておいた。
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