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日光 de らんでぶ~
第十一話
だから陽太は自分の母親に頭を下げてお願いしたという。今の高校は自分には合わなくて、ついていけないから辞めたいということと。美容師になりたいのでちゃんと別の高校に入りたいから翌年に再度、受験しなおしたいということ。
「あんなに、かあちゃんと向き合って話したのは初めてだった」
陽太の母親は、自分が高校を卒業後、看護の専門学校に進んだということもあり、陽太には大学に行ってほしいという想いがあったのだという。さらに父親がいない、片親だけで育てているという意地のようなものもあったので教育に対しては特に、社会に出たあと陽太に悔しくて惨めな想いを味わわせたくないという考えが強かったのだそうだ。
でもそれはあくまでも自分の母親としてのエゴであり、押し付けであって、陽太自身のことを考えてのことではなかったと逆に謝られたらしい。そして自分は、陽太のことを信じているから、やりたいようにやればいい。母親の自分はそれしかできないけれど、応援するし支えるからと言ってくれたそうだ。
だから陽太は強いんだなと灯里は思った。
陽太の年齢で、自分の将来をはっきり決めることができるというのもなかなか凄いと思うが、その陽太ときちんと向き合い、支えていこうという大人が身近にいてくれるからこそ、安心して陽太は強くなれるのだと思う。
やっぱりうらやましい。
この前、髪を銀色にして学校から注意を受けたという中学時代の話を聴いたときもそうだった。たとえ片親でも、一緒に過ごす時間が少なくても、陽太を囲む家族というものが、とても暖かいものに思えた。私には父と母が揃っていた。けれど陽太のところとは決定的に違う環境だった。
決定的なもの。
この間は認めたくなくて、それを心にしまい込んだけど本当はわかっている。この、うらやましいと思う気持ちが灯里の本音だ。
灯里の目から涙があふれてきた。そして、
「私、陽太がうらやましい」
と、陽太に向かってつぶやいていた。
陽太は、えっ、と驚いた表情をしてみせたが、灯里が涙をこぼしながらも、まだ何か吐き出したいことがあることを察し、黙ったまま灯里を見つめ返した。灯里も陽太を見つめながら言葉をつなげた。
「私の家は、お父さんも、お母さんもいる普通の家族だと思ってた。でも、どこか心のなかではいつも寂しかったの。それがなんでだか、陽太の話を聴いててわかっちゃった」
カップに半分残ったままのカフェラテは、夏とはいえ、すっかり冷めてしまっていた。陽太の目の前のアイスコーヒーも、グラスの氷はすべて溶けだしてしまったようだ。
灯里は陽太から視線を反らすと、湖面の遊覧船を目で追う。
父も、母も、そして灯里も、家族というのは名ばかりで、みんなそれぞれが好き勝手な方向を向いて生きていた。それは決して悪いことではない。だけど、陽太の母や祖母は、陽太を中心にみんなが向き合い、支え合って生きてきたように感じた。ただそれだけのことが、灯里にはとてもうらやましかった。
相手を気に掛ける。
相手に興味をもつ。
それは無関心とは正反対のもの。
ときには面倒なことがあるのかもしれないけれど、それによって「つながっている」という感覚が味わえるのだと思うと、灯里が手に入れることができなかったものを持っている陽太のことが無性にうらやましかった。
止まらない涙に、なんとか落ち着こうと、ふーっと息を吐いたところで、灯里の頭の上にパンダの大きな右手が覆いかぶさってきた。それは優しく二度、ぽんぽんと灯里の頭を撫でると、
「そろそろ帰ろっか」
見上げるとそこには陽太の笑顔があった。
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