水月

みじん粉

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序章

ある姉妹の記録

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姉弟の会話より。

 雨が屋根を激しく打ち付ける。
 小屋の中には二人の姉弟。
 
 「みず?」
『そう。水。』
 「水って…」
『そのままの意味。』
 「うっそだぁ」
『ほんとだよ。』

 
 「…なんでさ?川が駄目でも海に沢山あるじゃんか。本にあったよ!向こうが見えないぐらいにでっかいって…」
『海水は塩が多くて使えないわ。飲めたもんじゃあないし、田畑に撒いたら土ごときっちり枯れちゃうのよ。』
 「そっかあ…」
『海とは違って…ここは川の根本…"飲める""農業に使える"水がたくさんあるの。』
 「川の根本?此処から川の水が流れていくの?」
『そうそう。』
 「ここを塞いじゃうと…他の所はどうなるの?…困っちゃうよね?雨水だけじゃ不安だし…」
『分けてあげればいいじゃない。』
 「…それだったら…奪う意味ないよね?」
『あるよ。』
 「……足りなくて奪うのならわかるけど…」

 納得のいかない顔の弟。
 姉は背を向け、ほんの少し戸を開けて外を見る。
 水溜りに兎が映る。淡い光が差し込み、中を照らす。

振り向いて、ぴしゃりと戸を閉める。ぎらりと琥珀の目が光る。


 『ふう……水の話してたら喉乾いてきちゃった…お水ほしい?』
 「うん!欲しい!」

 皮の水筒を懐から取り出した。意地の悪い笑顔を浮かべて渡しもせずに手元で弄んでいる。

 「どうしたの?」
『ただじゃないよ』
 「え?」
『ほしいなら…そうだなぁ……踊ってよ。』
 「な、なんで?いやだよ…だって…」
『踊らないとあげないよ?』

 弟はちょっと不満そうに踊りをこなした。
 姉は滑稽な踊りを笑いながら見ていた。

『うふふ…相も変わらずしにかけのカエルみたいね。』
 「ひどいや!だから踊るのいやなんだよ!」

『…こんな感じに持っているってだけである程度は思いのままにできるのよ。飢餓とかもーっと辛い状態だったら…』
 「うう…たしかに…何でも言う事聞いちゃいそう…」

『飲み水にしろ、農業にしろ…当たり前になければ困る。奪ってから与える立場になれば…みーんなかんたんに言う事を聞いてくれるよね?』
 「そんなのって…ひどい……」
『でもそうでもしないと思い通りに踊ってくれないじゃない。だからみんな此処を奪い合ったの。そして…』

 此処、月高原は大陸最大の水源である。天だけではなく地からも月がよく見える。
 血塗れの歴史は厄介だ。我等が人である限りは何度底に沈めても浮き上がり、何度殺しても蘇る。繰り返し、繰り返し、繰り返し…
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