笑って下さい、シンデレラ

椿

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人が殆ど来ず、静まり返った放課後の図書室。
微かに聞こえる運動部員の掛け声と、部屋を暖める暖房のブォォという控えめな音だけをBGMにして、僕は出入り口付近のカウンターという図書委員の定位置に座っていた。
──その隣に、新君を添えて。


ナンデ??


わかる。僕もそう思う。っていうかきっと誰もがそう思う。
現に図書室に入って来る人の10割がカウンター席に居る麗しい新君の姿を何度見かする。当の新君はその有象無象からの視線に一切関心を向けること無く、たいへん堂々とした居住まいだが。
流石新君!痺れるぅ!

新君はこのカウンター席に座った直後から、ノートと教科書を広げて今日出された課題を黙々とこなしていた。僕もそれにつられて何となく課題のノートを机の上に出していたけど、動いたら肩が触れそうな位置に居る新君ばかりが気になってもうそれどころじゃない。

静かな場所で課題がやりたかったのかな?
もしくは僕の勉強デートやりたい欲を察してくれて!?

真剣に問題を解いている新君にドキドキしながら見惚れていると、流石にその視線がうるさかったのか彼はこちらを見て眉を寄せる。

「何」
「ぁ、いや、帰らないのかなって…」
「は?早く帰れってこと?」
「一生居て欲しいくらいです!」

新君の小声の圧が凄くてわけのわからないことを口走ってしまった。
ああ違います新君怒らないで。これは一生図書室に引きこもってろって意味じゃなくて、一生居て欲しいのは僕の隣ってことで、なんて言葉足らずな部分を補完したら更に気持ち悪がられそうなので、賢明な僕は黙っておく。
だって図書室だし!勉強デートだしね!新君の集中を削ぐのはよろしくないし!?

それから約一時間程新君と言葉を交わすことは無く、僕は偶に本を借りに来る生徒の相手をしながら、空き時間には新君のペンが紙を擦る音に聞き惚れて教科書の同じ場所を何度も何度も繰り返し目で追っていた。うーん新君の事ばっかり考えてるから一向に文字が頭に入ってこないな。
そんな呆けたことをしているものだから、新君が課題を全てやり終えた時にはまだ僕の課題ノートは真っ白なままで。
新君が頬杖をついて暇そうに僕の方を眺め出し始めた時には、緊張で僕の頭も自身のノートに負けないくらい真っ白になってしまっていた。

ひい!!全くペンが動いてないのを怪しまれてる!!

そんな時、

「──あれ、珍しいね大路君。勉強中?」
戸田とだ先輩!」

貸し出し用の本をこちらに差し出しながら笑うのは、この図書室の常連と言っても過言ではない3年の戸田先輩。元図書委員長でもある彼は根っからの本好きで、そこから培われた豊富な知識と落ち着いた優しい雰囲気が魅力の皆が尊敬する先輩だ。同じ図書委員だということで関わる機会も多く、僕自身先輩のその面倒見の良さに色々とお世話になっている。こうして図書室で貸し出し当番をする後輩に対して気軽に話しかけてくれるところもその一つだ。
大学受験の勉強が本格化して来てから図書室で姿を見かけることは少なくなっていたけど、基本先輩の息抜き方法は読書だ。受験日が迫るギリギリの時期にも関わらず今此処に来ているのは、日々の勉強の息抜きのためかもしれない。

貸し出しの手続きをしている最中、戸田先輩は僕の白紙のノートを見て首を傾げる。

「どこか分からないところがあるなら教えようか?」
「え!?いや、でも、先輩お忙しいんじゃ…」
「少しくらい大丈夫だよ。僕自身の復習にもなるしね」

僕の遠慮に、先輩からは嫌味の無い爽やかな笑みが返って来る。
相変わらず優しさも気遣いも満点の先輩である。見習いたい。

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘──、」

新君の前で頭の悪いことを認めるような行動をするのはちょっと情けないな、と照れくさく思いながらも僕は先輩の提案に頷こうとした。
──その瞬間、

カツン!

普段の教室で聞いたのであれば意識しないくらいの音量だったが、静寂さが続く図書室でその音は少し大きく響いた。思わずその音の発生源を見てしまうくらいには。

僕と先輩の視線の先。ペンを机の上に落としてしまったらしい新君は、立っている僕達を少し睨みつけるように見上げて告げる。

「…次、人が待ってますけど」
「!ホントだ、ごめんね?」

僕も気付いていなかったが、いつの間にか先輩の身体に隠れるような形で彼の後ろに小柄な女子生徒が並んでいたようだ。申し訳なさそうにする先輩にその女子生徒はブンブンと首を振っている。
それを横目に、僕は後ろに人が並んでいることを教えてくれた新君へお礼を言おうと彼の方を見て──、


「ここで先輩に聞くのは違うだろ」


恨めし気な鋭い視線と、こちらを咎めるような新君の言い方に、僕は自身の軽率な行いを恥じた。

そうだよな…。私語厳禁の図書室で、しかも図書委員が率先してあれこれ喋るのは良くないに決まっている。注意されなきゃ分からないなんて、俺って本当に周りが見えてないんだな…、反省。

女子生徒の本の処理を終えた後席に座りなおした僕は、今一度無言で教科書の問題を見つめる。元々新君が隣に居るから緊張して解けなかっただけで、僕はそんな成績悪いわけじゃないしちゃんと読み込めば問題なく………、……結構難しいなこれ。
一向にペンを動かさないので不真面目だと思われたのか、隣で僕の事をガン見する新君から多少イラついているような雰囲気を感じる。僕も新君にかっこいいとこ見せたいのにーー!

するとその時、丁度図書室の外へと出ようとしていた先輩と目が合った。
彼は一瞬片目を瞑ると、扉の外を指さした後、僕を手招くような動作をする。
何だろう。先輩もさっきの新君の発言を聞いていたから、僕の課題を見てくれるという口約束は流れたものと思っていたけど…。

──あ、そうか!図書室内じゃなかったら話していても誰にも迷惑かけない!流石先輩!頭良い!

「廊下でちょっとだけ先輩に教えてもらってくるね!」

俺は早速新君にしか聞こえない程度の囁き声でそう告げたのだが、新君から返ってきたのは中々に声量のある「何でだよ!?」という苛立ち混じりの言葉だった。
「まあ室外なら…」って感じの返答を期待していた手前、何故そんなことを言われたのか分からずポカンとする僕と対照に、僕達のやり取りを見ていた先輩がおかしそうに笑っているのが印象的だった。



結局新君はあれからずっと不機嫌で、奇跡的に帰りこそ一緒だったものの楽しい会話など出来るわけがなく。しかも、互いの自宅が近づいてきた去り際の僕の「さっきのは図書室の外で教えてもらおうとしてて…」という余計な弁明のせいで、「そこじゃない!!」と更に新君を憤慨させてしまった。そこじゃないなら新君の着火ポイントは一体どこだったんだろう…。
怒りのままに勢いよく自宅の扉を閉ざしてしまった新君に、僕は呆然と立ち尽くすことしか出来ない。

さよならも言えなかったな…。
でも今新君を訪ねても鬱陶しがられるだけだろうから、また明日熱が冷めた頃に改めて謝ろう。

不機嫌にしたいわけでも、勿論怒らせたいわけでもないのに何で毎回新君を不快にさせてしまうんだろうか。
自分の至らない点を再度思い返しながら、しょんぼりと重い足を自宅方向へ動かすと同時、新君宅の玄関扉が今度は勢いよく開かれる。

「追いかけて来いよ!!」
「おわぁっ!?ごめんっ!!」


新君を完全に理解するのは、僕にはまだまだ難しいことのようだ。

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