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番外編 灰被家
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父、母、息子。
この家に住む3人が集ったリビングには、どこか緊張感のある厳かな雰囲気が漂っていた。
「…それで?大事な話っていうのは…?」
神妙な面持ちの母親が、息子の新へ問いかける。
ゴクリ
誰のものかわからない唾を飲む音が聞こえた後、ややあって新は意を決してその口を開いた。
「ま、」
「真白君ね?」
「真白君がどうした」
「こ、」
「ここ告白されたの!?」
「告白!?真白君から!?それで新は何て答えたんだ!?」
「……べ、」
「『別にいいけど』ーー!?何でそんな冷たく返しちゃったの!本当は嬉しいくせに!本当は叫びたいくらい凄く嬉しいくせに!!」
「『別にいいけど』だと!?馬鹿!そんな時は「俺も愛してる!真白!」って熱いハグ一択だろう!」
「いいえ!新の10年の想いを伝えるのにハグだけじゃ足りないわ!キスぐらいしなきゃ!」
「そうだぞ新!キスだキス!」
「「キース!キース!」」
「俺よりはしゃぐな!っていうか言葉の予測エグいな!!」
「「間違ってた(か)?」」
「一言一句合ってますけどクソッタレ!流石俺の親!」
はあはあと呼吸を落ち着ける新に、「あ!大事なことを言い忘れてた!」とまるで我が事のように嬉しそうな表情をした両親が告げる。
「真白君と付き合えて良かったな新。おめでとう」
「ずっと好きだったもんね、おめでとう新。今日はお祝いね!」
「…あ、ありが、」
「いやあ、正直『経験豊富になる!』とか言って恋人を取っ替え引っ替えしては手も繋がない清い関係のままお別れするという行為に何か意味があるのか甚だ疑問だったが真白君のお眼鏡にかなったようで良かった!」
「習い事の会費を何とか真白君から渡してもらうように手引きしたのに、何年経っても『うん』とか『ああ』とかいう返事しか出来なくてそのチャンスを全然活かせていないにも関わらず『話せた!』って毎回嬉しそうな空気を醸し出す貴方を見てこれ真白君と付き合えるの100年後くらいになるんじゃない?って心配してたけど良かったわ!」
「一言余計なんだよ!!」
②
新が真白とめでたくお付き合いを始めた翌日の朝。一足先に家を出た父親がすぐさま引き返してきたことで、灰被家の状況は一変する。
「あれ?お父さん忘れ物?」
「いや、ちょっと新に……、新!いつまで髪の毛のセットしてるつもりだ!真白君がもう家から出てきてるぞ!」
「は、嘘だろ!?まだいつもの時間より30分は早いけど!?」
「真白君が!?お父さんナイス伝達!新!早く制服着て出ないと真白君行っちゃうわよ!」
「わかってる!…~っ、でも前髪がっ、」
父親は玄関から靴を履いたままの状態で洗面所を長く占領する新に呼びかけるが、何やらまだ髪のセットが決まっていないらしい。困惑の声が響くが、その気持ちは両親とて一緒だ。
早く早く!せっかくの恋人関係初日の登校なのだ。毎朝大路家の玄関を見張っては真白君が出て来るのに合わせて登校しているくせに、今日その力を発揮出来ずにどうする新!
「真白君、今日はえらく早いな…。もしかして新と付き合えたのが嬉しくて早起きしたんじゃ…、」
「まさか!一晩中ベッドでバタバタ興奮して早朝の数時間しか寝れてない新じゃあるまいし~」
「それもそうか!」
「「はははは!」」
自分達の息子の喜び具合が微笑ましくて笑っていると、ドタバタと洗面所から話題の中心人物が駆け寄って来る。いつも以上にセットに時間をかけているだろうに、こちらからはいつもとの違いが全く分からないのはよくあることだ。
「なあ!これ前髪変じゃない!?大丈夫!?」
「中途半端に上げるより全部おろした方が真面目っぽくて良いんじゃないかしら?」
「前やってたセンター分けの方が似合ってなかったか?」
「時間無いのに今更惑わすな!!」
「「聞かれたから答えたのに…」」
③
帰宅した父親は、リビングにて向かい合う自身の妻と息子の異様な雰囲気に思わず首を傾げる。
「新、『これ』は何?」
「ん?新のスポーツタオルじゃないか?洗濯機に入れ忘れたのか?まあそんなこともあるさ。母さんもそんなに目くじらを、」
「新、答えなさい。これは何?と聞いているの」
「……、」
新は、母親によって机に置かれた何の変哲もないスポーツタオルを見つめながらだんまりを決め込んでいるようだ。
「…?まあまあ、今日は俺が代わりに洗っておくから、新も今後は気をつけて、」
「「ダメッッッ!!!」」
「痛ーーっ!?」
よく分からないまま対立しているらしい二人を諫めようと机の上のスポーツタオルに手を伸ばすと、二人して凄い剣幕で手を弾かれる。一体何だというのだ。
「──っ!やっぱりね!新!貴方これ、『そう』なのね!!」
「っ…!!!」
「痛ぁ……、何だ?全く話が見えないんだが…」
「ふっ。毎日洗濯を繰り返しているプロウォッシャーの鼻は誤魔化せないわよ。…これは、ズバリ真白君の使用済みタオル!!」
「くそっ!!」
ダンッ!
母親からの指摘に、新が堪らず拳を机に打ち付けた。タオルの横に謎に並べられていた空のジップロックが振動で少しだけ動く。
「真白君の使用済みタオル!?」
「ジップロッ○で密封して隠し通そうとしても無駄よ。こういう貴重品は必ず家族会議で提出するように言ったじゃない!何故守らないの!私達は貴方の恋を応援したいだけなのに!」
「変態臭くて恥ずかしいからに決まってんだろーが!!!」
「変態じゃなかったらそもそも大事にジップロッ○に真白君の汗付きのスポーツタオル入れないでしょうが!!」
「正論!」
大体状況が掴めた。
……しかしそうなると、新と同じ男として気になることが1つ。
「待ってくれ母さん!!…待ってくれ。母さん」
「お父さん…?」
言い合いを止めた父親に、二人の視線が集中した。
「新。……もうこれは使用済みなのか?」
「何を言ってるのお父さん?だからこれは真白君が……──っは!!」
「もう洗濯してもらって結構ですーー!!」
急に席を立って自室へと駆け出した新の背中を追いかけるように、かわるがわる両親の声がかけられる。
「ちょっと待ちなさい新!まだ話は終わってないのよ!!使用済みなの!?健全に自室で使用済みなの!?」
「本当にもう悔いはないのか!?本当に洗ってしまうぞ!!」
「うるせーー!!大声出すな!!隣に聞こえたらどうすんだよ!!!!!」
誰よりも大きな新の声が、家中に響き渡った。
④
「「デートに誘われたーー!?」」
「ん」
迸る嬉しさを完全には閉じ込めきれていないやや落ち着かない様子で、新は証拠となる真白から受け取ったチケットを両親へと見せた。
「あれ?確かこれ前cmで見て新が見たいって言ってた映画じゃない!?新の好みに寄せてくれたの?きゃー!真白君優しい!」
「少し心配していたが順調そうで何よりだ。日時は決まってるのか?」
「日曜の朝9時から」
「服何着ていくか決めなきゃ!」
「いやいやそれよりデートプランを練るのが先だろう!新がリードしないと!」
「どうする!?薄暗い映画館の中で手とか繋いじゃう!?」
「ポップコーンとか分け合っちゃうか!?」
「だから俺よりはしゃぐなって!!」
⑤
朝の事。
昼食用のパンを普段より多く鞄に詰める息子の新に、母親は目を瞬かせて問う。
「あらどうしたの?そんなにパン持っていって。いつもの2倍はあるじゃない」
「…今日は真白と昼飯一緒に食べるから、もしあいつが自分の分の弁当食べ終わっても教室に戻らないように繋ぎ止めるためのパンも追加で」
「ありったけ持っていきなさい」
~~新帰宅後~~
「えーー!!真白君お手製のお弁当!?」
「ん」
「やったじゃない新!!だからお昼用のパンが余ってたのね!きゃー!」
「…しかもさ、あいつ、俺の方に綺麗なのばっかり詰めて、自分の方にはちょっと焦げたやつとか形が歪なやつとかばっか入れてんだよ…。もう健気過ぎんだろ!これ以上好きにさせんな!」
「真白君、天使かな??」
「多分そう。…あーもー、今も思い出しただけで心臓がヤバいくらいときめいてんだけど。…くっそ、ましろぉ…」
「やだお母さんもキュンキュンしてきたー!ましろくぅん…」
胸を押さえて幸せそうに机に俯せる、似た者同士の母親と息子であった。
⑥
「弁当は最高だったとして…その後だよ。
…宙太に俺が真白のこと好きだってバラされた…」
ひとしきりときめきにジタバタした後、打って変わって今度は両手で顔を覆い、いかにも「絶望しました」という風に項垂れる新に、母親は「何言ってんだコイツ」という怪訝な視線を隠そうともしない。
「え?本当の事でしょ?ていうか、もう付き合ってるのに好きバレも何も無くない?何が悪いの?」
「普段ツンケンしてる俺の方が内心スゲェ真白のこと好きとか、ダサいだろ!!」
ダサいだろっ、ダサいだろっ…、ダサいだろ……
少し顔を赤くして叫んだ新の声は、思いの他このリビングに響き渡った。
母親は、そのエコーが鳴り終わった後にふう、と一息ついて。
「そんなつまらないこと言ってるからまだ手も繋げないのよヘタレ息子!!」
「違っ、真白が避けるんだよ!!」
「何で避けられてるのよ!!」
「俺だってわかんねーよ!!」
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ご感想ありがとうございます🥰