伊佐治翔太はゲーム脳。

R中TYPE-乙三・改Ⅱ型

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番外編.恐怖の山脈で。

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「現在地!!」
暗闇の中、風雪に耐え男が叫ぶ。
防寒具にマスク、防護眼鏡で誰か判らない。
「現在地、A誘導灯確認。B誘導灯方位誤差なし!」
三脚の水平望遠鏡に張り付いた男が叫ぶ。
精度を出す為に風防もマスクも外している。
頭巾頭が防寒着の安全灯で浮かび上がる。
危険な行為だ。
極地の極低温と強い風の中では全てを奪って行く。
体力と体温、呼吸さえも。
限られた時間の中で各員が最善な仕事タスクを選択して進める。
死の足音を背中に感じながら。
足を踏み、浅い呼吸と鼻や耳を揉む。
全ての最善を尽くした。
何度も計算した結果、ココが極地なのは間違いは無い。
間違いなら我々は全滅だ…。
間違いを正す余裕は無い。
直ぐに撤退しないと我々は全滅だ。
せめて次のアタックの為に墓標になろう。
その程度しか後進への貢献ができない。
俺が失敗しても、何時かはココを通過する者が居るだろう。
目印はこの、第146次北征極地探検隊の旗だけだ。
雪と氷の下の我々の屍は誰にも見つけられないだろう。
「A,B信号返信を確認、我、現在地、北極点!!」
その言葉で隊員の全てが雄叫びを上げる。
「隊長!やりましたな!!」
「ありがとう!」
「ここまで…。ついに。」
「ああ、やっとここまで来た。」
「隊長!俺はもう死んでもかまいません」
「ああ、俺も同意見だ。だが、皇帝陛下フェルッポ8世に奏上するまで死ねなく成った。」
お互い防寒服の肩を叩きあう。
しかし喜びを胸に各員、作業の手を休めない。
俺の仕事を進める。
「作業完了!」「設置完了!」「動作確認!起動確認しました。」
着々と任務を熟す。
終わった隊員が整列する。
隊長が話す。
物心付いた時から夢見た状況だ。
「あー諸君、我々。第146次北征極地探検隊は初代フェルッポ公の念願である、北征…。」
語りながら感動が湧いてくる。
こんな危険な状況を多くの先祖は耐えてきた。
「我々は宣言する、第146次北征我々極地探検隊はついに極地探検を成功させた。」
最後に宣言した、恐らく人類初の偉業であろう。
俺達が達成したのだ。
我が国帝国が達成したのだ。
続ける。
「征服の印に、ここ北極点に記念のプレートと初代フェルッポ公の肖像画と愛用したとされる振り子の錘を埋め北方極地征服を宣言する。」
冷たい風に掻き消える言葉。
聞こえた隊員が涙を拭く。
「我が皇帝陛下はロジーナ王国オキノ伯を祖とする初代フェルッポ公の意思を継ぐ為…。」
そうだ、北極を征服する為に我がフィリッピン帝国は存在するのだ。
未知に立ち向かう為だけに過酷な極地に町を作り、技術を求め、行政を敷いて他の種族を平定、帝国を名乗った。
多くの種族を従えるフィリッピン帝国第16代皇帝、フェルッポ8世は建国の使命を果たす事になる。
我が帝国の全ては初代フェルッポ公の精神を受け継ぐ者だけだ。
「ビーコン動作、返信確認。結果良好。」
「よし!撤収準備!!」
一斉に動き出す隊員。
「積載完了!」
「出発進行!!」
先頭から車列の橇が動き出す。
大きく橇が揺れる。
「隊長!」
「あ?」
橇から投げ出される視界に暗い氷の地面が最後の光景だった…。

「あ?」
何も無い空間にデブでハゲの大男が立っている。
非常に古臭い軍服で騎兵の腰革を装備して…。
お芝居の悪役の様な邪悪な達磨髭の大男だ。
「ここは?」
「ああ、お前の魂が彷徨っていたので呼んでみた。成功した様子だな。」
「あの…。貴方はどちら様で?」
「お前の先祖だ。」
「え?ではフェルッポ公殿。」
「いや…。違う、お前のエルフの血が混じっているだろう。」
「はい。」
「なら、ソレだ。俺はビゴーニュだ。」
「え?ハルト・フォン・ビゴーニュ公?」
初代ビゴーニュ公はハーフエルフで在ったと言う。
私の母方の祖母がそう子孫だったと聞いている。
「ソレは…。俺の息子。いや孫だな。俺がビゴーニュだ自分で名付けた。それ以外の何物でもない。」
強い口調で胸を張るデブが揺れる。(S波)
歴史に残るのは凡人の北帝国を滅ぼしたのがハルト・フォン・ビゴーニュ公でハーフエルフだという話だ。
エルフである母の名は公式では最も多くの子供を産んだと言う記録をもっている。
普通の凡人に見えるデブのビゴーニュ…。
ハルト・フォン・ビゴーニュの父を名乗る男…。
デービスの魔人達と言われる魔人種両性の子孫達の創造主だ。
「ビゴーニュ様が…。なぜ?」
おとぎ話では多くの娘っ子を攫って〇〇してハーレム作って領地を開拓しながら酒飲んで暮らしたらしい。
そのついでに、新人種を勝手に創造して神に挑んだ男だ。
王国の始祖の魔法使いデービスに並ぶ伝説級のデブだ。
「いや…。色々と子孫に苦労を掛けて済まないと思っていた所だ。一言、言いたかった。謝罪だ。」
「どのような?」
確かビゴーニュ領の人口問題の原因と言われている女性に施す紋章の開発者だ。
我が帝国の住民の半分はビゴーニュ領からの入植者の子孫が多い。
只野伝説だ…。
「フェルッポに極地の話をしたのは俺だ。学生の時に魔法学園の図書室でな…。」
「え?あの…。それは?」
初代フェルッポ公だと直ぐに理解した。
「君達がこの場を目指したのは俺が原因だ。すまなかった。」
我々はフェルッポ公の意思を次いで来たのだ。
「我々は望んでこの地に来ました。未知に立ち向かうのは賢者の本質です。」
「そうか、ふむ…。良かった。うむ、時間だな。」
納得して、あらぬ方向を見るビゴーニュ公。
「あの…。」
途端に視界が不明瞭になる。
「ああ、あの振り…は俺…作っ…物だ…。」
掠れる声でも理解は出来た。
あの皇帝陛下自ら託されたフェルッポ公の遺品。
帝国の秘宝を作ったのはビゴーニュ公なのだ。
「隊長!!大丈夫ですか!!隊長!!」
声を掛ける獣人とエルフの混血の男。
「う…。俺はどれだけ気を失っていた?」
見上げる空は真っ暗で…。
橇から落ちたのだと理解した。
「ホンの一瞬です。」
身体を起して異常が無いか確認する。
「夢を見た。」
心配そうに見る隊員。
「はい?」
よし、怪我はない。
「大丈夫だ。隊列は?」
暗闇にいくつか後尾灯が見える。
車列は停止している。
「異常ありません。」
「よし、帰るぞ!故郷フィリッピンに!」
「はい!!」
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