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26.
その日の夜、ルカスの屋敷ではルカスとテオンがワインを楽しんでいた。
ルカスはチラチラと幼馴染みの顔色を窺いながら、アンティパストを口に運ぶ。
「ルカス、何か言いたいことでも?」
「……クロエちゃん」
「クロエが何?」
その言葉を聞き、ルカスは眉を上げ興味深そうにテオンに尋ねる。
「絶世の美女マダムジョスティーヌに俺は会ったことがないけどさ、なんていうか……。クロエちゃんって、なんか印象に残らないよね。普通過ぎるのかな」
国一番の美人の娘。それがクロエ・ガルシアなわけだが、確かに全く似ていない。強いて似ている箇所を探すなら、金色がかったアンバーの瞳くらいだろうか。顔の造りはどのパーツも小さめだし、スタイルだってメリハリのある体型ではなく、ふわふわとしている。
華奢な儚い美女というわけでもなく健康的。だからと言って運動神経もない。そして食欲は旺盛。そう考えるとクロエの女性としての長所はどこなのだろう、とテオンは眉根を寄せる。
「……なあ、テオン。おまえ、クロエちゃんの純潔をもらった後、どうすんの? 用は済んだからじゃあサヨウナラって、ちょっとひどくないか?」
「男と女なんてそんなもんだろう。それにこれは目的のためだ」
(そういえば、クロエは母親と連絡を取っていないと言っていたし、マダムジョスティーヌとはあまり仲が良いとはいえないようだ。それこそ、比較されるのを嫌がって家を出たんだろうか)
それにしても、テオンだって娘と付き合った後にその母親が後ろ盾になるなんて、さすがに悪い噂が流れてもおかしくない。
だけど、そもそもテオンとクロエとの噂が立たないから、実のところ問題にすらならないだろう。
あれだけ堂々とクロエを誘っているし、一緒にいる姿だって目撃されているのに、全く噂が流れないのだ。
誰もかれも、テオンとクロエが本気で付き合っているとは思っておらず、王城内で一緒にいてもなぜかクロエは部下だと思われている。しかも、クロエに至っては周囲に顔すらも覚えられていない。
「クロエは影が薄すぎるな……」
「おまえの隣にいたら大抵そうなるさ。俺を見ろよ。こんだけ派手な赤い髪をしているからなんとか認識してもらってるんだぞ? だから俺が唯一の親友としておまえのそばに残れたんじゃないか」
「よく言うよ。おまえの存在が俺で霞むわけがない」
国内屈指の資産家であるヴァンターブルック侯爵家の三男で、王太子の複数名いる執務官のひとり。上からの覚えも良く出世街道まっしぐら。顔ヨシ、性格ヨシ、家柄ヨシの全てを兼ね揃えている男だ。
テオンから見れば国一番の美男子の称号を与えられるより、よほどルカスが羨ましい。
「なあテオン。おまえはクロエちゃんのこと、本当はどう思ってんの?」
「クロエ? そうだな……おどおどしていて自分に自信がなくて、……流されやすい女?」
ルカスはそうじゃなくて、と呆れる。
「クロエちゃんの性格じゃなくてさ、おまえがどう思っているのかってことだよ。好きなの? 嫌いなの? なんとも思っていないのかって聞いてるんだよ」
「好きか嫌いかで言ったら、嫌いではない。人畜無害だからな」
「確かに。話を聞く限り、クロエちゃんは無害だな。控えめで常識があって、初心で……。じゃあ冷たいテオンに捨てられたクロエちゃんは、俺が慰めてあげるしかないか」
「は?」
テオンは楽しそうに考え込む幼馴染みの顔をじっと見つめる。
「裏表のある女やヴァンターブルック目当ての女、王太子と繋がりを持ちたくて近寄ってくる女とか、もううんざりなんだよ。その点、クロエちゃんは今どき珍しいくらい初心。いないよ、そんな純情な子。癒し系だな」
いつものクールな顔を崩さないテオンにルカスがにっこり笑う。
「だから、クロエちゃんの処女をもらってバイバイしたら、そのあと俺が誘っても問題ないよな?」
「問題ないというか……」
「傷心のクロエちゃんを慰める役は俺に任せてくれ。だからテオン。早く済ませてとっととマダムの元へ行け」
「……」
(クロエは確かにいい子だ。だけど、俺はこれからの人生をマダムにかけて出世してやる。リミットまで五十日を切ったし、そろそろ本気を出さないとな)
今までもたくさんの女を相手にしてきた。だけど心よりも体メインでの付き合いをしてきたから、後腐れももめ事もなかった。ひどく縋られることもなく、断ればただ惜しまれるだけだった。
だけど、クロエには恋心を利用している自覚はある。
だからだろうか。
(罪悪感ってやつか……胸がチクっとするし、すっきりしない。ルカスのやつ、冗談なのかわかりづらいが……まあ、ああ言ってるが、クロエを相手にすることはないだろう)
今までにいなかったタイプのクロエが気にならないかといえば嘘になるが、かと言って恋愛対象になるほど何かに惹かれるわけでもない。
マダムジョスティーヌの条件がなければ近づくこともなかっただろう。
(きっと、柄にもなくいつもとは違って優男な対応をしているせいだ)
苦労してクロエに合わせているから、彼女が気になるのだと、テオンは自分に言い聞かせた。
ルカスはチラチラと幼馴染みの顔色を窺いながら、アンティパストを口に運ぶ。
「ルカス、何か言いたいことでも?」
「……クロエちゃん」
「クロエが何?」
その言葉を聞き、ルカスは眉を上げ興味深そうにテオンに尋ねる。
「絶世の美女マダムジョスティーヌに俺は会ったことがないけどさ、なんていうか……。クロエちゃんって、なんか印象に残らないよね。普通過ぎるのかな」
国一番の美人の娘。それがクロエ・ガルシアなわけだが、確かに全く似ていない。強いて似ている箇所を探すなら、金色がかったアンバーの瞳くらいだろうか。顔の造りはどのパーツも小さめだし、スタイルだってメリハリのある体型ではなく、ふわふわとしている。
華奢な儚い美女というわけでもなく健康的。だからと言って運動神経もない。そして食欲は旺盛。そう考えるとクロエの女性としての長所はどこなのだろう、とテオンは眉根を寄せる。
「……なあ、テオン。おまえ、クロエちゃんの純潔をもらった後、どうすんの? 用は済んだからじゃあサヨウナラって、ちょっとひどくないか?」
「男と女なんてそんなもんだろう。それにこれは目的のためだ」
(そういえば、クロエは母親と連絡を取っていないと言っていたし、マダムジョスティーヌとはあまり仲が良いとはいえないようだ。それこそ、比較されるのを嫌がって家を出たんだろうか)
それにしても、テオンだって娘と付き合った後にその母親が後ろ盾になるなんて、さすがに悪い噂が流れてもおかしくない。
だけど、そもそもテオンとクロエとの噂が立たないから、実のところ問題にすらならないだろう。
あれだけ堂々とクロエを誘っているし、一緒にいる姿だって目撃されているのに、全く噂が流れないのだ。
誰もかれも、テオンとクロエが本気で付き合っているとは思っておらず、王城内で一緒にいてもなぜかクロエは部下だと思われている。しかも、クロエに至っては周囲に顔すらも覚えられていない。
「クロエは影が薄すぎるな……」
「おまえの隣にいたら大抵そうなるさ。俺を見ろよ。こんだけ派手な赤い髪をしているからなんとか認識してもらってるんだぞ? だから俺が唯一の親友としておまえのそばに残れたんじゃないか」
「よく言うよ。おまえの存在が俺で霞むわけがない」
国内屈指の資産家であるヴァンターブルック侯爵家の三男で、王太子の複数名いる執務官のひとり。上からの覚えも良く出世街道まっしぐら。顔ヨシ、性格ヨシ、家柄ヨシの全てを兼ね揃えている男だ。
テオンから見れば国一番の美男子の称号を与えられるより、よほどルカスが羨ましい。
「なあテオン。おまえはクロエちゃんのこと、本当はどう思ってんの?」
「クロエ? そうだな……おどおどしていて自分に自信がなくて、……流されやすい女?」
ルカスはそうじゃなくて、と呆れる。
「クロエちゃんの性格じゃなくてさ、おまえがどう思っているのかってことだよ。好きなの? 嫌いなの? なんとも思っていないのかって聞いてるんだよ」
「好きか嫌いかで言ったら、嫌いではない。人畜無害だからな」
「確かに。話を聞く限り、クロエちゃんは無害だな。控えめで常識があって、初心で……。じゃあ冷たいテオンに捨てられたクロエちゃんは、俺が慰めてあげるしかないか」
「は?」
テオンは楽しそうに考え込む幼馴染みの顔をじっと見つめる。
「裏表のある女やヴァンターブルック目当ての女、王太子と繋がりを持ちたくて近寄ってくる女とか、もううんざりなんだよ。その点、クロエちゃんは今どき珍しいくらい初心。いないよ、そんな純情な子。癒し系だな」
いつものクールな顔を崩さないテオンにルカスがにっこり笑う。
「だから、クロエちゃんの処女をもらってバイバイしたら、そのあと俺が誘っても問題ないよな?」
「問題ないというか……」
「傷心のクロエちゃんを慰める役は俺に任せてくれ。だからテオン。早く済ませてとっととマダムの元へ行け」
「……」
(クロエは確かにいい子だ。だけど、俺はこれからの人生をマダムにかけて出世してやる。リミットまで五十日を切ったし、そろそろ本気を出さないとな)
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だけど、クロエには恋心を利用している自覚はある。
だからだろうか。
(罪悪感ってやつか……胸がチクっとするし、すっきりしない。ルカスのやつ、冗談なのかわかりづらいが……まあ、ああ言ってるが、クロエを相手にすることはないだろう)
今までにいなかったタイプのクロエが気にならないかといえば嘘になるが、かと言って恋愛対象になるほど何かに惹かれるわけでもない。
マダムジョスティーヌの条件がなければ近づくこともなかっただろう。
(きっと、柄にもなくいつもとは違って優男な対応をしているせいだ)
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