【完結】貶められた緑の聖女の妹~姉はクズ王子に捨てられたので王族はお断りです~

魯恒凛

文字の大きさ
19 / 33

高魔力を持つ胎児

しおりを挟む
 テラフォーラ帝国へ来て9か月が近づき、いよいよエリスの子供がいつ生まれてもおかしくなくなった。暖かな頃にやってきたが、季節は巡り冬を迎えている。

 カルナは騎士団での仕事をしばらく休み、姉と共に過ごすことにした。別れが近づいていることが頭ではわかっていても実感が湧いてこない。これからもずっと一緒にいたい気持ちと、大変な思いをした姉を俗世から解き放ってあげたい複雑な想いが混ざり合う。

 お産は産婆の経験があるシスターが来てくれる予定だが、シビルも万が一に備えて来てくれるそうだ。ヤギのミルクの手配や赤ちゃんのベッドも用意した。準備万端だ。

 穏やかな日々を過ごしていたある日、とうとうエリスが産気づいた。

 夜半から苦しそうな表情をし出したエリスに気づき、シスターを呼んで様子を見てもらった。万全の準備を整え見守っていたが、夜も更けた頃から始まった陣痛は朝を迎え、昼を過ぎてもなかなか生まれてこない。

 寝たきりで体力が落ちているエリスの身体も心配だ。シスターが魔力を流して確認してくれたが、状態が良くないらしい。


 シスターは額に汗をかきながら、深刻な顔でカルナに告げる。

「胎児がエリスへ流していた魔力を引き上げたことでバランスが取れなくなったんだわ……。
 胎児の魔力が高すぎてこれじゃあ出てくるまで母体が持たない。エリスの身体に魔力を流しているけど、私の魔力では足りないわ。高魔力を持つシビル先生か副団長を呼んで来てちょうだい!」

「は、はい!」

 カルナは部屋を飛び出すと第二騎士団が常駐する練武場へ向かって駆け出した。

 息が上がるのも構わず、転んで膝から血が流れても立ち上がり、練武場をひたすら目指す。走れば15分ほどで着くはずなのに永遠の道のりに思えてくる。睡眠不足の体が重く、気を抜くと意識が飛びそうになる。

 敷地内に入ると建物へ向かって一目散に駆け込み、団長室をノックした。セオドア団長の侍従であるティモシーがドアを開けてくれたが、押しのけるように中へ入る。

 大きな楕円形のテーブルを囲み、団長と副団長であるレオ、シビル医師、ティモシーが打ち合わせを行っている最中だった。

「……医療班の助手の子か?」

 膝から血を流し、息も絶え絶えだが、面会を取り付けるための時間も挨拶をしている気持ちの余裕もない。

 団長が口を開きかけたのも構わず、カルナはその場で膝をつき、泣きながら頭を下げた。

「お願いします、お願いします! 助けてください、この通りです! 魔力を、高い魔力をっ」

「「カルナっ!」」

 シビルとレオが駆け寄りカルナを立たせようとする。

「何があった?」

「ひぐっ、胎児が、魔力が高すぎて……お姉さまが耐えられなくて、ひっく、、高魔力を持った人が必要で、」

「――カルナ、立ちなさい」

 団長の低いけど穏やかな声が耳に残る。走り疲れてガクガク震える足を叱咤し、レオの手を借りながらその場に立ち上がる。赤髪に金瞳の美丈夫がにやりと笑った。

「よくわからんが高魔力が必要なんだな? 水臭いぞ、俺も行く。ティモシー、馬を用意しろ。全員で行くぞ」

 カルナはセオドアの馬へ乗せられ、4名の高魔力持ちを連れ修道院へと向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...