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またいつか会いましょう
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エリスがいる部屋へ案内すると、団長は一目で状況を把握してくれた。一番高い魔力を持つらしい団長が姉に手をかざし、魔力を流してくれる。
「くっ……、生まれる前からなんて魔力なんだ」
第二騎士団の幹部たちが、交代しながらエリスに魔力を流す。姉は相変わらず苦しそうだが、エリスの体に高い魔力が張り巡らされていく様子はカルナにも感じられた。
(お姉さま頑張って……赤ちゃんも苦しいよね、もう少しで会えるよ)
姉の額の汗を拭き、濡れた布で口を湿らせる。騎士たちによる魔力の注入のおかげでなんとか落ち着き、母子の魔力が調和したようだった。カルナは一晩中、エリスと胎児を励まし続けた。
空が白んできたころ、シビルがそろそろ生まれるよ、と皆に声を掛ける。
シスターが湯を沸かして慌ただしく動き回り、清潔な布を持って待ち構える中、元気なうぶ声と共に小さな命が誕生した。
輝く金色の髪を生やした可愛らしい女の子だ。
カルナが一針一針、丹精込めて縫い上げたおくるみに赤子を包み、エリスの横にそっと置いた。
「お姉さま、可愛らしい女の子ですよ。よく頑張りましたね」
人形のようだった姉の目から一筋の涙がこぼれ、震える瞼の間から美しい緑が覗いた。カルナははっとしてカツラと眼鏡を取り去り、エリスの顔を覗き込む。
「お姉さま!! カルナです、わかりますか?」
「カルナ、ごめんね……。フローラ、この子はフローラよ。カルナ、いつかまた、会えるから……」
「お姉さま……、ふぐっ、はい、また……、いつかまた、お会いしましょう。うっ、うぅっ、ゆっくり休んでくださいね……」
眼を閉じたエリスをシビルが確認し、小さく首を振った。
穏やかな顔でエリスは眠るように息を引き取った。カルナは横にいる生まれたばかりの姪っ子をそっと抱き上げた。
「フローラ、ママを休ませてあげようね。この世界は優し過ぎるママに合わなかったから、笑顔になれる世界へ送って……、うぅ、わ、私がいるから……」
「カルナ、俺たちもいるぞ? フローラ、お前にはたくさんの強いおじさんやお兄さんがいるから寂しい想いはさせないぞ」
「ああ。フローラは俺たちのお姫様だ。カルナ、お姉さんは気の毒だったな……。ティモシー、不自由がないよう色々手配してやってくれ。カルナはしばらく医療班は休んでゆっくりしなさい」
「……うぅ、セオドア団長、……ありがとう、ございます……。ふぐっ、レオ様、みなさま、っ、ありがとう、ございました」
カルナはその後のことをよく覚えておらず、気づくと葬儀は終わっていた。だが、セオドアやレオ、シビル、ティモシー、シスター達と、少ない面々でエリスを静かに見送ったことだけは覚えている。
カルナの腕の中でフローラは泣くこともなくじっとし、ママとのお別れを噛み締めているかのようだった。
いつでも会えるように、エリスはモライディアスの丘にある見晴らしの良い墓地へ埋葬した。ことあるごとに、フローラを連れて行くつもりだ。
◇◇◇
――フローラが生まれエリスが旅立った日
朝日が昇る頃、テラフォーラ帝国では様々な現象が起きていた。小雪がちらついてもおかしくない冬真っ只中、渡り鳥の季節でもないのに鳥たちが空を埋め尽くす勢いで旋回し、凍っていた湖は解けて魚たちが飛び跳ねた。春を待っていたはずの草木や花まで一斉に芽吹き、動物から植物までせわしなく活動している。
季節で言えば冬のはずなのに、まるでいきなり春が訪れたようだ。しかしこの現象は翌日になるとぱたりと止み、鳥たちはどこかへ消え、湖は再び凍り出し、植物は芽を閉じてしまった。
「今年は気温が高かったから、うっかり動植物が出てきてしまったのかね」
しかし、国を治める者たちはそれで済ますわけにはいかない。異常気象ならば今後の備えもしなくてはいけないし、被害が出ていないか帝国全土を調べ、他国の様子を間者に報告させる必要がある。過去に同様の事例があったかどうか、蔵書をひっくり返して調べ返すなど、城は右へ左への大騒ぎだ。
文官から大臣まで昼夜問わず議論が交わされ、様々な対策が取られた。だが、その後トラブルになるようなことは発生せず、いつの間にか異常気象の話題は鎮静化されたのだった。
「くっ……、生まれる前からなんて魔力なんだ」
第二騎士団の幹部たちが、交代しながらエリスに魔力を流す。姉は相変わらず苦しそうだが、エリスの体に高い魔力が張り巡らされていく様子はカルナにも感じられた。
(お姉さま頑張って……赤ちゃんも苦しいよね、もう少しで会えるよ)
姉の額の汗を拭き、濡れた布で口を湿らせる。騎士たちによる魔力の注入のおかげでなんとか落ち着き、母子の魔力が調和したようだった。カルナは一晩中、エリスと胎児を励まし続けた。
空が白んできたころ、シビルがそろそろ生まれるよ、と皆に声を掛ける。
シスターが湯を沸かして慌ただしく動き回り、清潔な布を持って待ち構える中、元気なうぶ声と共に小さな命が誕生した。
輝く金色の髪を生やした可愛らしい女の子だ。
カルナが一針一針、丹精込めて縫い上げたおくるみに赤子を包み、エリスの横にそっと置いた。
「お姉さま、可愛らしい女の子ですよ。よく頑張りましたね」
人形のようだった姉の目から一筋の涙がこぼれ、震える瞼の間から美しい緑が覗いた。カルナははっとしてカツラと眼鏡を取り去り、エリスの顔を覗き込む。
「お姉さま!! カルナです、わかりますか?」
「カルナ、ごめんね……。フローラ、この子はフローラよ。カルナ、いつかまた、会えるから……」
「お姉さま……、ふぐっ、はい、また……、いつかまた、お会いしましょう。うっ、うぅっ、ゆっくり休んでくださいね……」
眼を閉じたエリスをシビルが確認し、小さく首を振った。
穏やかな顔でエリスは眠るように息を引き取った。カルナは横にいる生まれたばかりの姪っ子をそっと抱き上げた。
「フローラ、ママを休ませてあげようね。この世界は優し過ぎるママに合わなかったから、笑顔になれる世界へ送って……、うぅ、わ、私がいるから……」
「カルナ、俺たちもいるぞ? フローラ、お前にはたくさんの強いおじさんやお兄さんがいるから寂しい想いはさせないぞ」
「ああ。フローラは俺たちのお姫様だ。カルナ、お姉さんは気の毒だったな……。ティモシー、不自由がないよう色々手配してやってくれ。カルナはしばらく医療班は休んでゆっくりしなさい」
「……うぅ、セオドア団長、……ありがとう、ございます……。ふぐっ、レオ様、みなさま、っ、ありがとう、ございました」
カルナはその後のことをよく覚えておらず、気づくと葬儀は終わっていた。だが、セオドアやレオ、シビル、ティモシー、シスター達と、少ない面々でエリスを静かに見送ったことだけは覚えている。
カルナの腕の中でフローラは泣くこともなくじっとし、ママとのお別れを噛み締めているかのようだった。
いつでも会えるように、エリスはモライディアスの丘にある見晴らしの良い墓地へ埋葬した。ことあるごとに、フローラを連れて行くつもりだ。
◇◇◇
――フローラが生まれエリスが旅立った日
朝日が昇る頃、テラフォーラ帝国では様々な現象が起きていた。小雪がちらついてもおかしくない冬真っ只中、渡り鳥の季節でもないのに鳥たちが空を埋め尽くす勢いで旋回し、凍っていた湖は解けて魚たちが飛び跳ねた。春を待っていたはずの草木や花まで一斉に芽吹き、動物から植物までせわしなく活動している。
季節で言えば冬のはずなのに、まるでいきなり春が訪れたようだ。しかしこの現象は翌日になるとぱたりと止み、鳥たちはどこかへ消え、湖は再び凍り出し、植物は芽を閉じてしまった。
「今年は気温が高かったから、うっかり動植物が出てきてしまったのかね」
しかし、国を治める者たちはそれで済ますわけにはいかない。異常気象ならば今後の備えもしなくてはいけないし、被害が出ていないか帝国全土を調べ、他国の様子を間者に報告させる必要がある。過去に同様の事例があったかどうか、蔵書をひっくり返して調べ返すなど、城は右へ左への大騒ぎだ。
文官から大臣まで昼夜問わず議論が交わされ、様々な対策が取られた。だが、その後トラブルになるようなことは発生せず、いつの間にか異常気象の話題は鎮静化されたのだった。
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