21 / 33
フローラとの生活
しおりを挟む
「え? 女子寮にフローラとですか?」
フローラが生まれて3か月後。カルナは団長室に呼び出されていた。目の前にはセオドア団長と副団長のレオがいる。
「ああ。もしアクアリア王国が動いたら修道院では防げないだろう。第二騎士団の女子寮は女性騎士が住んでいるから安心じゃないか? 空き部屋も多いんだ。医療班にフローラを連れてっても構わないし、寮に住んでみたらどうだろう?」
「いいんですか? ありがとうございます……。騎士団の寮なら安心して暮らせます。よろしくお願いします」
「良かった。部屋はすぐ使えるようにしてある。ティモシー、修道院へ行ってシスターに話をつけてくれ。運ぶ荷物もあるだろうから、カルナと一緒にちょっと行ってきてほしい」
「かしこまりました。カルナ、行きましょう」
カルナたちが退出するのを見届け、セオドアとレオは安堵のため息をついた。
「ふぅ、カルナは入寮を断るかもと危惧していたが良かったな。まったく、何から何まで手配したくせに、ライオネル殿下も自分から言えばいいものの……。それにしても、殿下が言ってたウォルトン姉妹を探しているという者が気になるな」
「ええ。姉妹を探しているとなると辺境のケアード家か王族でしょうか? カルナの話だとエリス嬢の妊娠は修道院で発覚したそうなのでフローラのことは知らないはずですが……」
「フローラがエリス嬢の娘であることは隠した方がいいな……。2人の護衛とフローラの世話ができる者をライオネル殿下が手配済みだそうだ。しばらく様子を見よう」
◇◇◇
女子寮は男子寮の横に建てられているが規模は小さい。こじんまりとした3階建ての建物は無駄な飾り気のない素朴な外観だが、中に入ると落ち着いた赤茶色の絨毯や瓶に入った野花が温かく迎えてくれた。初めて来た場所なのに、ほっとする雰囲気だ。
カルナとフローラには、2階にある広めの部屋を割り当てられた。
寮を管理するヘレーネは最近雇われたばかりだそうで、若い頃は乳母をやっていた経験もあるとのこと。フローラのお世話を買って出てくれ、子育て経験がないカルナはほっとした。
それに、女性騎士たちと生活を共にできるのも心強い。困ったことはいつでも相談するようにみんなに声を掛けられ、たくさんの姉ができたような気分だ。
ヘレーネに案内された部屋はすぐに生活できるよう必要なものが全て揃っているだけでなく、ベビーベッドやおもちゃまで用意されていた。
「……ヘレーネさん、いろいろ揃えていただいたようですが、どなたにお礼をしたら良いのでしょうか」
「そんなこと、カルナさんは気にしなくて大丈夫ですよ。食事は隣にある男子寮の1階の食堂で、朝は6時から夜9時まで自由に食べられます。女子寮のキッチンは誰でも使えますが、ここの女性騎士たちはあんまり料理していません。使えるなら使って大丈夫ですよ」
とりあえず夕食までゆっくり過ごすように言われ、カルナは持ってきた荷物を整理することにした。
「フローラ、今日からここが私たちの家だよ。あれ……? クローゼットにも引き出しにもいろいろ入ってる……。フローラの服もいっぱいあるわ」
ベビー服からカルナの普段着、制服やタオル、化粧品まで、あらゆるものが揃っていた。いたせり尽くせりで恐縮するが、誰かが気を配ってくれたことに温かい気持ちにもなる。
(フローラを立派に育てて、仕事でちゃんと恩返ししていこう)
日中、仕事に行く時はフローラをヘレーネさんに預けることにした。
いつの間にか職場にはベビーベッドが用意されていたので、ヘレーネさんが休みの日だけ一緒に出勤する。
今日は一緒に出勤したが、フローラはぐずることがほとんどなく大人しく過ごしている。
新しく看護助手として入ったヒルダはカルナ付きとして、薬草のすり潰しや畑の手入れ、フローラの世話まで何から何まで手伝ってくれた。
グレーの髪に水色の瞳が一見冷たく見えるが、かわいいものが大好きなクールビューティーな女性だ。
「フローラちゃーん、ミルクの時間ですよ~。ヒルダお姉さまが飲ませてあげますからね~」
「おい、ヒルダ。お前はカルナに薬草のすり潰しを指示されてただろう。俺がやる」
「いや、待て。俺は娘がいるミルク飲ませのプロだ。俺に任せなさい」
初めはおっかなびっくりだった騎士たちも、フローラの首が座り、ほとんど泣かないことがわかると皆で可愛がってくれるようになった。大男に囲まれてもフローラは怖がることなくニコニコと笑っている。愛嬌がよく、このままだと人見知りをすることもなさそうだ。
その第二騎士団の騎士たちはカルナたちのサポートもあり、以前比べて怪我が格段に少なくなった。体が強くなったことで疲れにくくなり、訓練の精度が上がって更に強くなる良い循環が生まれていた。
定期的に行われる第一騎士団との対抗戦では常に負けていたのに、とうとう団体戦で勝利をもぎ取った。小さな頃から剣術を学べる環境にあった第一騎士団に比べ、第二騎士団は平民が多く自己流で磨いてきた者も少なくない。
第一騎士団の圧勝が常だった伝統を打ち破り、積み重ねてきた努力が実を結んだことは自信となった。
この頃になると両団の幹部たちは、カルナが来てから第二騎士団が強化されたことに気づいていた。
フローラが生まれて3か月後。カルナは団長室に呼び出されていた。目の前にはセオドア団長と副団長のレオがいる。
「ああ。もしアクアリア王国が動いたら修道院では防げないだろう。第二騎士団の女子寮は女性騎士が住んでいるから安心じゃないか? 空き部屋も多いんだ。医療班にフローラを連れてっても構わないし、寮に住んでみたらどうだろう?」
「いいんですか? ありがとうございます……。騎士団の寮なら安心して暮らせます。よろしくお願いします」
「良かった。部屋はすぐ使えるようにしてある。ティモシー、修道院へ行ってシスターに話をつけてくれ。運ぶ荷物もあるだろうから、カルナと一緒にちょっと行ってきてほしい」
「かしこまりました。カルナ、行きましょう」
カルナたちが退出するのを見届け、セオドアとレオは安堵のため息をついた。
「ふぅ、カルナは入寮を断るかもと危惧していたが良かったな。まったく、何から何まで手配したくせに、ライオネル殿下も自分から言えばいいものの……。それにしても、殿下が言ってたウォルトン姉妹を探しているという者が気になるな」
「ええ。姉妹を探しているとなると辺境のケアード家か王族でしょうか? カルナの話だとエリス嬢の妊娠は修道院で発覚したそうなのでフローラのことは知らないはずですが……」
「フローラがエリス嬢の娘であることは隠した方がいいな……。2人の護衛とフローラの世話ができる者をライオネル殿下が手配済みだそうだ。しばらく様子を見よう」
◇◇◇
女子寮は男子寮の横に建てられているが規模は小さい。こじんまりとした3階建ての建物は無駄な飾り気のない素朴な外観だが、中に入ると落ち着いた赤茶色の絨毯や瓶に入った野花が温かく迎えてくれた。初めて来た場所なのに、ほっとする雰囲気だ。
カルナとフローラには、2階にある広めの部屋を割り当てられた。
寮を管理するヘレーネは最近雇われたばかりだそうで、若い頃は乳母をやっていた経験もあるとのこと。フローラのお世話を買って出てくれ、子育て経験がないカルナはほっとした。
それに、女性騎士たちと生活を共にできるのも心強い。困ったことはいつでも相談するようにみんなに声を掛けられ、たくさんの姉ができたような気分だ。
ヘレーネに案内された部屋はすぐに生活できるよう必要なものが全て揃っているだけでなく、ベビーベッドやおもちゃまで用意されていた。
「……ヘレーネさん、いろいろ揃えていただいたようですが、どなたにお礼をしたら良いのでしょうか」
「そんなこと、カルナさんは気にしなくて大丈夫ですよ。食事は隣にある男子寮の1階の食堂で、朝は6時から夜9時まで自由に食べられます。女子寮のキッチンは誰でも使えますが、ここの女性騎士たちはあんまり料理していません。使えるなら使って大丈夫ですよ」
とりあえず夕食までゆっくり過ごすように言われ、カルナは持ってきた荷物を整理することにした。
「フローラ、今日からここが私たちの家だよ。あれ……? クローゼットにも引き出しにもいろいろ入ってる……。フローラの服もいっぱいあるわ」
ベビー服からカルナの普段着、制服やタオル、化粧品まで、あらゆるものが揃っていた。いたせり尽くせりで恐縮するが、誰かが気を配ってくれたことに温かい気持ちにもなる。
(フローラを立派に育てて、仕事でちゃんと恩返ししていこう)
日中、仕事に行く時はフローラをヘレーネさんに預けることにした。
いつの間にか職場にはベビーベッドが用意されていたので、ヘレーネさんが休みの日だけ一緒に出勤する。
今日は一緒に出勤したが、フローラはぐずることがほとんどなく大人しく過ごしている。
新しく看護助手として入ったヒルダはカルナ付きとして、薬草のすり潰しや畑の手入れ、フローラの世話まで何から何まで手伝ってくれた。
グレーの髪に水色の瞳が一見冷たく見えるが、かわいいものが大好きなクールビューティーな女性だ。
「フローラちゃーん、ミルクの時間ですよ~。ヒルダお姉さまが飲ませてあげますからね~」
「おい、ヒルダ。お前はカルナに薬草のすり潰しを指示されてただろう。俺がやる」
「いや、待て。俺は娘がいるミルク飲ませのプロだ。俺に任せなさい」
初めはおっかなびっくりだった騎士たちも、フローラの首が座り、ほとんど泣かないことがわかると皆で可愛がってくれるようになった。大男に囲まれてもフローラは怖がることなくニコニコと笑っている。愛嬌がよく、このままだと人見知りをすることもなさそうだ。
その第二騎士団の騎士たちはカルナたちのサポートもあり、以前比べて怪我が格段に少なくなった。体が強くなったことで疲れにくくなり、訓練の精度が上がって更に強くなる良い循環が生まれていた。
定期的に行われる第一騎士団との対抗戦では常に負けていたのに、とうとう団体戦で勝利をもぎ取った。小さな頃から剣術を学べる環境にあった第一騎士団に比べ、第二騎士団は平民が多く自己流で磨いてきた者も少なくない。
第一騎士団の圧勝が常だった伝統を打ち破り、積み重ねてきた努力が実を結んだことは自信となった。
この頃になると両団の幹部たちは、カルナが来てから第二騎士団が強化されたことに気づいていた。
285
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる