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水の女神の要求
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到着した場所には白い作業着を着た女性が待っていた。どうやら、病院で働いているようだ。エリス嬢ではない。ということは……
馬車を降り、女性の下へと向かう。
「カルナ嬢でしょうか。サムエル・アクアリアです。お時間をとっていただき、ありがとうございます」
「……カルナ・ウォルトンです。このような格好ですみません。早速ですがどのようなご用件でしょうか? 仕事を抜けてきたのですが」
型式的な挨拶はしてくれたが、不機嫌そうなカルナの様子にサムエルは焦る。王族への不快感を隠すつもりもないようだ。
「兄のコンラッドが多大なご迷惑をお掛けしました。エリス嬢にも謝罪をしたいのですが……今日はどちらに?」
「……こちらへ」
スタスタと歩いていくカルナへ着いていく。
(そういえばエリス嬢は体が弱かったはずだ……この近くで療養しているんだろうか。だからここを指定されたのか? それにしても、近道だからって墓地の間を通るのはなんというか)
そのうちカルナが立ち止まった。
「姉はここにいます」
「え……」
墓標にはエリスと刻まれていた。
「そんな……」
(嘘だろう!? ああ、なんてことだ……緑の聖女が亡くなっていたなんて。彼女が死んだのは間接的にせよコンラッドのせいだ。取り返しがつかないことを……)
サムエルは膝を折り、墓に向かって祈りを捧げた。
(エリス嬢。あなたとはほとんどお話する機会がありませんでしたが、美しく優しいあなたが姉になるのだと楽しみにしておりました……。馬鹿な兄のせいで本当に申し訳ありませんでした。どうか、安らかにお休みください)
カルナはサムエルが祈っている間、じっとその姿を見つめていた。
ゆっくり立ち上がったサムエルはカルナにも謝罪をした。慰謝料や爵位、領地など様々な提案をしてみたが、そのどれもをカルナは断った。
「あなたのせいではありません……謝罪はいりません。その代わり、アクアリア王国の王族が私たち家族に今後一切関与しないという確約をください。それで十分です」
「相分かった。すぐに書面にする」
その後、約束通り書面を交わしたサムエルは、改めて皇帝へ食糧支援を依頼するために面談を取り付けた。
翌日の面談を控えて早々に休んだサムエルは夢の中にいた。
『サムエルや。こちらにおいで』
女性の声に導かれて進んでいくと、清らかな空気が流れる森にたどり着いた。
白い服に金の装飾を身に着けた男女が楽しそうに過ごしている。動物が寄り添い、植物が歌い、まるで天国なのかと目を疑う。
『サムエルや』
ふと声のする方を見ると、金髪の美しい女性がいた。直感で、ご先祖様だと感じる。その横には見たことがある美女がいる。緑の聖女だ。
(水の女神、緑の聖女……心よりお詫びします。不肖の兄がご迷惑をおかけしました。見て見ぬふりをした私にも責がございます。ですが、どうか、国民のために再度加護を与えてもらえないでしょうか)
『ふっ。賢いサムエルや。わかっておるだろう。そなたの父と兄では国が亡びる。お前が国王となるのであれば加護を戻してやる。話は以上だ』
パチン
その後、サムエルは皇帝から向こう3年の食糧支援をもぎ取り帰国した。
アクアリア王国に戻ったサムエルはコンラッドを廃嫡するよう働きかけ、コンラッドの資質を疑問視していた貴族の支持を得て成功した。
王籍をはく奪されたコンラッドは臣籍に下ることとなったが、サムエルが与えたのは加護がなくなり被害を受けた貧しい土地だった。
領地民は大した施策を打ち出せないコンラッドを見限り次々と引っ越したが、サムエルはコンラッドが領地から出ることを許さなかった。その後、彼がどうなったのかはわからない。
ブリッド聖女は『緑の聖女』を襲撃させた黒幕であることが発覚した。テラフォーラ帝国の第二騎士団からもたらされた情報で、コンラッドの寵愛を受けるエリスの殺害を画策したとのことだった。
サムエルは実害がなかったことを理由に厳しい処罰は避けたが、癒しの力を使いたいようだからと神殿へ幽閉した。微々たる力を命が尽きるまで授けるよう義務付けたのだ。彼女も永遠に神殿から出ることは叶わない。
コンラッドの側近たちも国政でトップの座に就くことを励みにしてきたのに失脚し、家門の事業はそれが天命だとでも言うように何をやってもうまくいかなくなった。
その後、やる気のない国王を静養地へ送ると、サムエルはとうとう国王の座を手にした。
テラフォーラ帝国を訪問してから2年。水の女神との約束を守り、アクアリア王国には加護が戻ったのだった。
馬車を降り、女性の下へと向かう。
「カルナ嬢でしょうか。サムエル・アクアリアです。お時間をとっていただき、ありがとうございます」
「……カルナ・ウォルトンです。このような格好ですみません。早速ですがどのようなご用件でしょうか? 仕事を抜けてきたのですが」
型式的な挨拶はしてくれたが、不機嫌そうなカルナの様子にサムエルは焦る。王族への不快感を隠すつもりもないようだ。
「兄のコンラッドが多大なご迷惑をお掛けしました。エリス嬢にも謝罪をしたいのですが……今日はどちらに?」
「……こちらへ」
スタスタと歩いていくカルナへ着いていく。
(そういえばエリス嬢は体が弱かったはずだ……この近くで療養しているんだろうか。だからここを指定されたのか? それにしても、近道だからって墓地の間を通るのはなんというか)
そのうちカルナが立ち止まった。
「姉はここにいます」
「え……」
墓標にはエリスと刻まれていた。
「そんな……」
(嘘だろう!? ああ、なんてことだ……緑の聖女が亡くなっていたなんて。彼女が死んだのは間接的にせよコンラッドのせいだ。取り返しがつかないことを……)
サムエルは膝を折り、墓に向かって祈りを捧げた。
(エリス嬢。あなたとはほとんどお話する機会がありませんでしたが、美しく優しいあなたが姉になるのだと楽しみにしておりました……。馬鹿な兄のせいで本当に申し訳ありませんでした。どうか、安らかにお休みください)
カルナはサムエルが祈っている間、じっとその姿を見つめていた。
ゆっくり立ち上がったサムエルはカルナにも謝罪をした。慰謝料や爵位、領地など様々な提案をしてみたが、そのどれもをカルナは断った。
「あなたのせいではありません……謝罪はいりません。その代わり、アクアリア王国の王族が私たち家族に今後一切関与しないという確約をください。それで十分です」
「相分かった。すぐに書面にする」
その後、約束通り書面を交わしたサムエルは、改めて皇帝へ食糧支援を依頼するために面談を取り付けた。
翌日の面談を控えて早々に休んだサムエルは夢の中にいた。
『サムエルや。こちらにおいで』
女性の声に導かれて進んでいくと、清らかな空気が流れる森にたどり着いた。
白い服に金の装飾を身に着けた男女が楽しそうに過ごしている。動物が寄り添い、植物が歌い、まるで天国なのかと目を疑う。
『サムエルや』
ふと声のする方を見ると、金髪の美しい女性がいた。直感で、ご先祖様だと感じる。その横には見たことがある美女がいる。緑の聖女だ。
(水の女神、緑の聖女……心よりお詫びします。不肖の兄がご迷惑をおかけしました。見て見ぬふりをした私にも責がございます。ですが、どうか、国民のために再度加護を与えてもらえないでしょうか)
『ふっ。賢いサムエルや。わかっておるだろう。そなたの父と兄では国が亡びる。お前が国王となるのであれば加護を戻してやる。話は以上だ』
パチン
その後、サムエルは皇帝から向こう3年の食糧支援をもぎ取り帰国した。
アクアリア王国に戻ったサムエルはコンラッドを廃嫡するよう働きかけ、コンラッドの資質を疑問視していた貴族の支持を得て成功した。
王籍をはく奪されたコンラッドは臣籍に下ることとなったが、サムエルが与えたのは加護がなくなり被害を受けた貧しい土地だった。
領地民は大した施策を打ち出せないコンラッドを見限り次々と引っ越したが、サムエルはコンラッドが領地から出ることを許さなかった。その後、彼がどうなったのかはわからない。
ブリッド聖女は『緑の聖女』を襲撃させた黒幕であることが発覚した。テラフォーラ帝国の第二騎士団からもたらされた情報で、コンラッドの寵愛を受けるエリスの殺害を画策したとのことだった。
サムエルは実害がなかったことを理由に厳しい処罰は避けたが、癒しの力を使いたいようだからと神殿へ幽閉した。微々たる力を命が尽きるまで授けるよう義務付けたのだ。彼女も永遠に神殿から出ることは叶わない。
コンラッドの側近たちも国政でトップの座に就くことを励みにしてきたのに失脚し、家門の事業はそれが天命だとでも言うように何をやってもうまくいかなくなった。
その後、やる気のない国王を静養地へ送ると、サムエルはとうとう国王の座を手にした。
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