【完結】元婚約者に全てを奪われたので、祈りの刺繍で人生立て直したら雇い主がまさかの王子様でした!?

魯恒凛

文字の大きさ
25 / 54

24.端切れビジネス

しおりを挟む
「三人の王子妃様といえば……王太子妃様はその品位と知性が、第二王子妃様はその美貌と社交性が、第三王子妃様は親しみやすさと優しさが国民の憧れですよね」
「……………………そうなの?」

 ネルさんの苦虫を嚙み潰したような顔に、ヴィスさんが「……ネル様」とひと言。
 流行には敏感な人なのに、王子妃様の話題には疎いのかしら。まあ、確かに男性というより女性人気が高い方たちだけど。

 私がペンを動かす音がさらさらと響く。二人はスケッチブックをじっと見つめたままだ。

「……こんな感じはどうでしょう」
「へぇ、端切れからいろいろ作れるんだな」
「あの……王子妃様のドレスと同布の触れ込みで販売できるなら、それぞれの王子妃様にあやかれる商品はどうでしょう」

 私の言葉にネルさんがヴィスさんと顔を見合わせた。

「え? どういうこと?」
「この美しい紺地に映える金糸や銀糸を使って文様を刺繍するんです。王太子妃様の“知性”にあやかりたい方は入試祈願や面接の成功を願って身につけると思います」
「知性か……」

 ネルさんの口角が上がり、ヴィスさんが小さく何度も頷く。

「第二王子妃様なら……“人気運”を呼び寄せる文様でしょうか。第三王子妃様なら“人間関係の調和”にあやかれるとか」
「……いいかも」
「どれも人気が出そうですね」

 ネルさんとヴィスさんは興奮した様子で顔を見合わせ、楽しそうに販売価格を話し合っている。

「でも……。王子妃様が使用されたという触れ込みは嘘じゃないから許されたとしても、こうもお名前を大々的に使うのは問題になるんじゃないでしょうか」

 だって、こんな風な商売の仕方が許されてしまったら、ちょっとした高級品に王子妃様のお名前が安易に使われてしまうかも。そうしないのは、王家を怒らせて捕まったりするのが怖いからだわ。
 ……不安な私とは裏腹に、二人は大丈夫とにこにこ顔だ。

「一応販売前に試作品を見せにいくから大丈夫だよ。……許可をもらわないと後々面倒くさそうだし」
「あっ、そっか。ネルさんは王宮にも商品を下ろしているから、王子妃様たちとも面識があるのね? すごいわ」
「……へ? あ、あぁ、……うん、そうなんだ……」

 ん? どうしてそんな尻すぼみなのかしら。もしかして圧倒的存在感を前に、毎回プレッシャーで大変な思いをしているとか?
 ……なんだか気の毒になって眉尻が下がってしまう。ご機嫌を損ねないように、気に入っていただけるものを作らないと、ネルさんが叱責される事態になるのかも。
 
「じゃあ、さっそく試作品を作ってみましょう」
「なあなあ、リュシア。俺、このカチューシャと……こっちのは髪留めとヘアゴムだよな。三種類欲しい。三つあればどれかしらは気に入るんじゃないか?」
「あ、なるほど。……ネル様、三種類作ればすべて買う人が現れるかもと思っていますね?」

 ヴィスさんの言葉に、にこにこ顔のネルさんは腕を組みながらうんと頷く。

「三つセットなら少し割引するってことにすれば欲しくならないか?」
「すっかり商売人ですね」
「わぁ、ネルさんすごいです。全然思いつきませんでした」

 ネルさんはヴィスさんと私に褒められて急に照れくさくなったのか、視線をふいと外した。

「じゃ、じゃあ、決めよっか。カチューシャ、髪留め、ヘアゴムってことで。リュシア、この布以外に何が必要なのか材料を書き出して欲しい。ヴィスは端切れをどのくらいもらえるか交渉だな」
「はい。それぞれ、どの王子妃様のイメージにします? 文様は先ほどのものを古代語にすると素敵だと思うんです」

 こうして私たちは屋台で買った揚げパンにかぶりつきながら、新商品のアイディアを遅くまで話し合うことに。
 すっかり夜も更けた頃、ようやく商品の具体的なイメージが固まったのだ。
 疲れたけど心地良い倦怠感と人気商品になること間違いなしのデザインに、興奮して眠れそうもない。

「遅くまで悪かったな。リュシア、早く休んでくれ」
「はい、ここを片付けたら休みます。……あの、ネルさんとヴィスさんは今日どうされるんですか?」
「う~ん。もう遅いし、俺たちも泊まるか」
「そうですね」

 珍しく二人とも泊まっていくと言ったこの日。
 広い屋敷の中で一人眠る夜はどこか寂しかったのだけど、なんとなく人がいるという安心感で、天井を見つめながら自然と口角が上がっていた。

 端切れをどのくらいもらえるのかわからないけど……。

 たくさんもらえたらそれだけ仕事にもなるはず。心のどこかでアルフェネ商会を辞めた従業員たちを雇ってもらえたらいいな、と願いつつ。

 私は明日の朝から一刻も早く、試作品を作ろうと心に決めたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」  信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。  私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。 「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」 「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」 「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」  妹と両親が、好き勝手に私を責める。  昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。  まるで、妹の召使のような半生だった。  ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。  彼を愛して、支え続けてきたのに…… 「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」  夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。  もう、いいです。 「それなら、私が出て行きます」  …… 「「「……え?」」」  予想をしていなかったのか、皆が固まっている。  でも、もう私の考えは変わらない。  撤回はしない、決意は固めた。  私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。  だから皆さん、もう関わらないでくださいね。    ◇◇◇◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです。

白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので

鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど? ――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」 自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。 ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。 ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、 「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。 むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが…… いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、 彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、 しまいには婚約が白紙になってしまって――!? けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。 自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、 さあ、思い切り自由に愛されましょう! ……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか? 自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、 “白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。

【完結】王妃はもうここにいられません

なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」  長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。  だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。  私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。  だからずっと、支えてきたのだ。  貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……  もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。 「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。  胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。  周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。  自らの前世と、感覚を。 「うそでしょ…………」  取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。  ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。 「むしろ、廃妃にしてください!」  長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………    ◇◇◇  強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。  ぜひ読んでくださると嬉しいです!

【完結】五年苦しんだの、次は貴方の番です。~王太子妃は許す気はありません~

なか
恋愛
「フィリア、頼む」  私の名前を呼びながら、彼が両膝を地面に落とす。  真紅の髪に添えられた碧色の瞳が、乞うように私を見上げていた。  彼––エリクはハーヴィン王国の王太子であり、隣国のシルヴァン国の王女の私––フィリアは彼の元へ嫁いだ。  しかし嫁いだ先にて……私は『子が産めない』身である事を告げられる。  絶望の中でエリクは、唯一の手を差し伸べてくれた。  しかし待っていたのは苦しみ、耐え続けねばならぬ日々。 『子が産めない』私は、全ての苦痛を耐え続けた……全ては祖国の民のため。  しかし、ある事実を知ってその考えは変わる。  そして…… 「頼む。俺と離婚してほしい」  その言葉を、他でもないエリクから告げさせる事が叶った。  実り叶ったこの瞬間、頭を落として頼み込むエリクに、私は口元に微笑みを刻む。    これまで苦しんできた日々、約五年。  それがようやく報われる。  でもね、許す気はない。  さぁ、エリク。 『次は貴方の番です』    ◇◇◇◇  ざまぁを多めにしたお話。  強い女性が活躍する爽快さを目指しております。  読んでくださると嬉しいです!

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...