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21.いちゃいちゃするってことでしょ?
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上目遣いで「いいでしょ?」とお願いするソフィア王女。ルートヴィヒ様は眉間にしわを寄せたものの、髪をくしゃりとかき上げると、腕に絡みつく彼女を見下ろした。
「……ちょっとだけだぞ?」
「やった! だって遠征中ずっと楽しみにしてたんだもん。ああ、最高の夜になりそう」
うれしそうにルートヴィヒ様の二の腕に頬を寄せる王女様。ポニーテールにした美しい金髪がさらさらと揺れ、海のような碧く美しい瞳がキラキラと輝く。頬を赤らめ、誰がどう見ても恋する乙女の表情だ。
ちらっと周囲を見渡すと、見慣れた光景なのか誰一人反応しない。困った王女様だという目で誰も咎めることもなく、それどころか微笑ましく見つめている。
その瞬間、ああ、二人の関係は公然のものなのだと目の前が真っ白になった。もはや隠れて会うような関係でもないのだ。
それに、なんて言った? 疲れているからちょっとだけ? 最高の夜? ……いちゃいちゃするってことだよね。
私は。
指一本触れられたことがない。クラリス・レーンクヴィストの存在って何なのかな? たしかに、白い結婚を理由に離縁をしようと思っているけど……、だけど、クラリスだってルートヴィヒ様をずっと慕っていたのに。
……涙がじわっと滲みかけたその時だった。
ふいに私の肩へぽんと置かれた大きな手。それと同時に心臓が爆発しそうなほど拍動し、体ごと飛び上がる。
「ぎゃっ!」
「ははっ! 子ドラゴンとそっくりな声じゃないか。やっぱり一緒にいると似るもんなのか?」
ばっと振り返るとそこにはアロルド団長の姿。驚きすぎて涙も引っ込んだ。
「び、びび、びっくりするじゃないですかっ……! 心臓に悪いです」
「ははっ、悪い悪い。だけどかわいいクララには綺麗なものだけ見ていてほしいからなぁ」
「な、なんのこと……」
そう言いかけたものの、アロルド団長の表情で気がついた。
……第二魔獣騎士団の光景を。ルートヴィヒ様の腕にソフィア王女がしなだれるところを、団長も見てたんだ。目の前のこの人はルートヴィヒ様が私の夫だって知っている。
「……さあ。今日はうちの担当が張り切って昼食を作ったから迎えに来たんだ。魚介類のごった煮なんだが、クララによそうのを手伝ってほしいって言ってたぞ。ほら、第一魔獣騎士団に戻ろう」
「ぐずっ、…………はぃ」
かろうじて絞り出た尻すぼみの返事。アロルド団長は下を向く私の頭をぽんぽんと叩くと、背中を押し出すようにドラゴン獣舎へ向かうよう口にした。
「……? 団長は一緒に戻らないんですか?」
「第二魔獣騎士団に渡す書類があるんだ。すぐに追いかけるから先に戻ってろ」
長居は無用だと私は袖口で目元を拭うと頷き、団長より一足早く、ドラちゃんと戻ることにした。
*
アロルドはクラリスの姿が見えなくなると、第二魔獣騎士団が集まる場所へ近づいた。
「あ、アロルド団長! ご無沙汰してます!」
「よぉ。第二の皆さん。遠征ご苦労だったな」
一週間の遠征を終えた第二魔獣騎士団はやや浮足立ちテンションも高めだ。
第一魔獣騎士団の団長であるアロルドは、その絶対的な強さと統制力で憧れる団員が多い。
着崩した制服、無精ひげを差し引いても整った美貌に野性味が加わり、ワイルドなフェロモンをまき散らす。第二に所属する女性事務員たちは腰砕けになり、作業の手を止め思わず見惚れた。
華やかな私生活はさておき、騎士団の垣根を越えて男女問わず慕われているのがアロルドだ。
憧れの視線がアロルドに集まるなか、本人は周囲には目もくれずルートヴィヒの前でぴたりと足を止め、書類を差し出した。
「……ちょっとだけだぞ?」
「やった! だって遠征中ずっと楽しみにしてたんだもん。ああ、最高の夜になりそう」
うれしそうにルートヴィヒ様の二の腕に頬を寄せる王女様。ポニーテールにした美しい金髪がさらさらと揺れ、海のような碧く美しい瞳がキラキラと輝く。頬を赤らめ、誰がどう見ても恋する乙女の表情だ。
ちらっと周囲を見渡すと、見慣れた光景なのか誰一人反応しない。困った王女様だという目で誰も咎めることもなく、それどころか微笑ましく見つめている。
その瞬間、ああ、二人の関係は公然のものなのだと目の前が真っ白になった。もはや隠れて会うような関係でもないのだ。
それに、なんて言った? 疲れているからちょっとだけ? 最高の夜? ……いちゃいちゃするってことだよね。
私は。
指一本触れられたことがない。クラリス・レーンクヴィストの存在って何なのかな? たしかに、白い結婚を理由に離縁をしようと思っているけど……、だけど、クラリスだってルートヴィヒ様をずっと慕っていたのに。
……涙がじわっと滲みかけたその時だった。
ふいに私の肩へぽんと置かれた大きな手。それと同時に心臓が爆発しそうなほど拍動し、体ごと飛び上がる。
「ぎゃっ!」
「ははっ! 子ドラゴンとそっくりな声じゃないか。やっぱり一緒にいると似るもんなのか?」
ばっと振り返るとそこにはアロルド団長の姿。驚きすぎて涙も引っ込んだ。
「び、びび、びっくりするじゃないですかっ……! 心臓に悪いです」
「ははっ、悪い悪い。だけどかわいいクララには綺麗なものだけ見ていてほしいからなぁ」
「な、なんのこと……」
そう言いかけたものの、アロルド団長の表情で気がついた。
……第二魔獣騎士団の光景を。ルートヴィヒ様の腕にソフィア王女がしなだれるところを、団長も見てたんだ。目の前のこの人はルートヴィヒ様が私の夫だって知っている。
「……さあ。今日はうちの担当が張り切って昼食を作ったから迎えに来たんだ。魚介類のごった煮なんだが、クララによそうのを手伝ってほしいって言ってたぞ。ほら、第一魔獣騎士団に戻ろう」
「ぐずっ、…………はぃ」
かろうじて絞り出た尻すぼみの返事。アロルド団長は下を向く私の頭をぽんぽんと叩くと、背中を押し出すようにドラゴン獣舎へ向かうよう口にした。
「……? 団長は一緒に戻らないんですか?」
「第二魔獣騎士団に渡す書類があるんだ。すぐに追いかけるから先に戻ってろ」
長居は無用だと私は袖口で目元を拭うと頷き、団長より一足早く、ドラちゃんと戻ることにした。
*
アロルドはクラリスの姿が見えなくなると、第二魔獣騎士団が集まる場所へ近づいた。
「あ、アロルド団長! ご無沙汰してます!」
「よぉ。第二の皆さん。遠征ご苦労だったな」
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着崩した制服、無精ひげを差し引いても整った美貌に野性味が加わり、ワイルドなフェロモンをまき散らす。第二に所属する女性事務員たちは腰砕けになり、作業の手を止め思わず見惚れた。
華やかな私生活はさておき、騎士団の垣根を越えて男女問わず慕われているのがアロルドだ。
憧れの視線がアロルドに集まるなか、本人は周囲には目もくれずルートヴィヒの前でぴたりと足を止め、書類を差し出した。
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