【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛

文字の大きさ
55 / 71

55.平和に暮らせればそれでいい

しおりを挟む
「女神か……? 女神が降臨したんだな……? あいたたたっ」

 ぶつぶつ呟くルートヴィヒ様の耳をカサンドラがぎゅうっとつねった。

「あなたがそうやってぼそぼそ言うせいで、何一つクラリスに伝わっていないのよ。誰が聞いてもわかりやすく、クラリスに届くようにきちんと褒めなさいよ……!?」
「うっ……た、確かに……。ごほん、クラリス」

 隅で揉めている二人をぽかんと見ていたら、ルートヴィヒ様が近づいてきた。

「クラリス……。その、本当に美しいよ。君の綺麗なシルバーの髪が夜空のような濃紺のドレスによく映えている。……まるで月の女神のようだ」

 ……頭でも打ったのかしら。
 
 急に歯の浮くようなセリフを言われてどうしたらいいのかわからないけど、とりあえず「はぁ、ありがとうございます?」とお礼を言っておく。お金を出すのはルートヴィヒ様だし?
 その様子を見ていたカサンドラは「自業自得ね……」と呟き、カヤが笑いをこらえるのに必死だ。

「うぅっ、クラリスが綺麗すぎてパーティーに行きたくない……」
「……」

 本当に、一体どうしちゃったのかしら。褒められ慣れていないから素直に受け取れないし、どう返すのが正しいのかわからなくてそわそわしてしまう。
 野郎どもが……、目潰しを……、とぼそぼそ呟くルートヴィヒ様に、カサンドラも呆れ顔だ。
 
「ルートヴィヒ。あなたは団長なんだから欠席不可よ。それに、いい機会だからクラリスも社交界に顔を出して悪評を払拭していくべきだと思うわ」

 確かに。実のところ、もふもふカフェのオープンのためにも細々と人脈を築いていきたいのよね。パーティーへ出て、ひとりでも多くのもふもふファンがゲットできれば、それは未来の顧客候補になるわけで。ヒッポグリフの赤ちゃんに喜んでいるようなら、もふもふ好きの可能性は高いじゃない? ヴェルナール領まで旅行がてら遊びに来てくれたら、領地だって潤うし一石二鳥だわ……!

 悪女クラリスに関しては、あまりにも茶会や夜会に顔を出さなかったから一方的に言われ放題だったけど、もはや「身を引くことにしたんで」って正直に言えば仲良くなれるかもしれない。どうせマイナス印象からのスタートなんだもの。これ以上地に落ちることはないんだから、とりあえず「クラリス・レーンクヴィストは無害」って思ってもらえたらいいな。

 そんなことを考えていたのだけど、ルートヴィヒ様とカサンドラは何やら当日の騎士団の話をしている様子。「警備が……」という単語を耳が拾った。

「……カサンドラ。クラリスが美しすぎて、当日の警備が心配過ぎる」
「魔獣騎士団員だらけの会場なんだし、家で留守番してもらうよりよっぽど安全じゃない」
「そう言われてみればそうなんだが……」
「事情はアロルド団長から聞いたわ。大丈夫。二度とクラリスを誘拐なんてさせないわ」
「いや、そっちじゃなくて……男たちがクラリスに惚れてしまわないか心配なんだ。……他の男に見られたくない」
「……ルートヴィヒってそんなんだった?」

 仕事の話でもしているのかしら。このドレスで決まりみたいだし、そろそろドレスを脱いでいいかなあ。
 手持無沙汰にしている私に気づくと、ルートヴィヒ様が慌てて声を掛けてきた。
 
「クラリス。疲れただろう? 着替えが終わるのをここで待っているよ」
「ええ。それじゃあ着替えてきます」

 試着でもうくたくた。私はカヤからの褒め殺しに遭いながら、衝立の奥でドレスを脱ぐことにした。

 *

 レーンクヴィスト伯爵家での生活は少しずつ変化した。

 オパールがいなくなり、新しくメイド長になったのは顔の広いアロルド団長の紹介のエリー。三十代前半の彼女はひとり息子と住み込みで働くことになったシングルマザーだ。 数々の屋敷を渡り歩いた伝説のスーパーメイド・エリーはしばらく仕事を休んでいたそうだけど、的確な指示を出す彼女のおかげで屋敷の中の雰囲気はとてもよくなっている。

 見直された使用人たちの礼儀作法、細部まで行き届いた屋敷、アレルギーはもちろん、量や温度まで私の体調を気遣いながら出される食事。
 期間限定だけど女主人の権限をもらったということで、エリーは私に負担がかからないよう最終確認だけをお伺いしてくれる。一応顔も立てつつ仕事はやってくれるんだから、私はもはやハンコを押すだけのダメ奥様の仲間入りだ。
 
 だけど、エリーは「優しい奥様の元で働けてとても嬉しいです!」となんとも健気で。
 真に受けちゃダメだと思うのだけど、エリーが伸び伸びと働けるなら何よりということで。うん。

 そんなこんなで小伯爵夫人らしい暮らしがようやくできるようになった私の生活。

 相変わらず遠征で家を空けることも多いルートヴィヒ様も、家にいるときは一緒に食事をしたり、お茶に誘ってきたり。
 「今日何の日だっけ?」と私を悩ませる突然のプレゼントに困ったりしているものの、ぎくしゃくしながらも以前よりはまあ、……会話も増え。

 ルートヴィヒ様の口から王女様の話は一切聞かないけど、カヤがあちこちで仕入れてくる話によると、どうやら最近魔獣騎士団には出勤していないんだとか。
「花嫁修業でもしているんじゃない?」という私の言葉にカヤは唸っていたけど、とりあえず残り九か月平和に暮らせればそれでいいな、と思う。
 

 そして、いよいよ魔獣騎士団創立三百周年パーティーの当日がやってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

婚約者から婚約破棄されたら、王弟殿下に捕まった件

みおな
恋愛
「ルチル、君との婚約を破棄させてもらう」  五年間、婚約者として交流して来た王太子であるランスロットから婚約破棄を告げられたクォーツ公爵家の令嬢であるルチル。 「ランスロットと婚約破棄したって?なら、俺と婚約しよう」  婚約破棄をきっかけに、領地に引きこもる予定だったルチルに、思いがけない婚約の打診が。  のんびり田舎生活をしたいルチルだが・・・

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

処理中です...