【完結】【R18】幼妻は寡黙な最強軍人夫に初夜されたい

魯恒凛

文字の大きさ
20 / 26

20.招かれざる客 ①

しおりを挟む
 ラーゲルレーヴの大奥様と呼ばれるナタリア・ラーゲルレーヴは、王都の社交界において煌びやかな存在だ。

 年齢の割に若く見える顔立ちに加え、肉感のあるスタイル、赤髪に碧眼という生来の華やかな容姿が見る者を魅了する。それに、夫に引き続き息子2人を亡くした悲劇の未亡人でありながら、妾腹の庶子(アラン)を育て上げた慈悲深い婦人として評判が良いのだ。
 実際のところ、アランはひどい虐待を受け、古参の家臣たちが辺境から逃がしたのだから、アランが聞けば「愛された記憶などない」ということは明らかだが、無口なアランが社交界に顔を出すことがないことはナタリアに幸いした。噂は流した者勝ちである。
 王都にあるラーゲルレーヴ家のタウンハウスでは、ナタリアが艶めかしいランジェリーに身を包み、金糸雀のような美しい男とむつみ合っていた。

「ナタリア様、今日もお美しい」
「私ももう年よ。お世辞はやめてちょうだい」
「何をおっしゃますか。美しさに年齢なんて関係ありません。……ほら、見てください。僕より15歳も年上のあなたの体に発情して、僕のここはもうこんなに膨らんでいるんです」
「まあ。ギルったら……」

 ナタリアはこのところ、隣国からやってきた商人だというギルバートという男と蜜月関係にあった。
 男からしたら金払いのいいナタリアは格好のカモ。王都で高位貴族向けの高級品を取り扱うこの男は、いとも簡単にナタリアの懐に飛び込んだ。
 愛人をとっかえひっかえしていたナタリアだったが、そうそう王国貴族にばかり手を出すわけにはいかない。社交界での評判を落とすわけにもいかず、相手探しに困っていたところ、都合のいい相手がやってきた。それがギルバートだ。
 
 情事を重ねるにつれ、ギルバートは少しずつおねだりをするようになっていた。この日、ギルバートはナタリアが満足するまでご奉仕を終えると、ふと思い出したかのように口にした。

「商人仲間の中でも一部しか知らない情報なんですけど、……ラーゲルレーヴ領の東の山岳地帯にあるカルディア山、あそこを何とかナタリア様の名義にできませんかね。これからすごい価値が出ますよ」
「確か廃坑がある山よね。あそこはもう何も出ないわよ? これ以上掘り進めたら崩落の危険があるって理由で廃坑になったのよ。私も覚えているわ」
「あの山、頂上から向こう側は隣国でしょう? 私がつかんだ情報によると、向こう側では金塊が出たらしいですよ」
「それ、本当なの?」

 ギルバートはナタリアに、その山の所有権を持つようそそのかした。湯水のように金を使うナタリアは、ここのところ領地から送られてくる金額に不満を持っていた。

「それじゃあ、久しぶりに辺境に顔を出さなくちゃね。よくしつけたから、臆病者のアランは私の言うことをよく聞くはずよ。権利書をもらいに行きましょう」


 ◇ ◇ ◇
 

 それから1週間後、アランがパウロや家臣を連れて外出しているときのことだった。

「お久しぶり、シャルロッテちゃん」
「あ……ブリタさん、お久しぶりです。どうされたんですか?」

 大荷物を抱えてエントランスに立つブリタを前に、シャルロッテは困惑していた。 パーティーの予定はないし、お手伝いをしてもらうようなこともない。それに、アランに一度尋ねてみたが、どうやらブリタは愛人ではない様子。「違う」とはっきり口にしたのだ。
 ブリタの家はラーゲルレーヴにつく家門の一つだが、立場で言えばアランの家臣にあたる。仕事で来たというわけでもなさそうだし、シャルロッテは首を傾げた。使用人たちも困り顔だ。
 ブリタはそんな面々に向かって胸をそらした。

「ラーゲルレーヴの大奥様からご連絡をいただいたの。もうすぐ辺境の地に着くから、迎え入れる準備をしておいてねって。シャルロッテちゃん、大奥様とお会いしたことないでしょう? 好みも知らないだろうから、私がわざわざ来てあげたってわけ。感謝してよね」
「そうなんですか……」

 しゅんとしたシャルロッテに優越感をにじませながら、ブリタがほほ笑んだ。

「とりあえず、いつもの部屋を使わせてもらうから。何かあったらシャルロッテちゃんに言うわね。じゃ、忙しいからまたね」

 シャルロッテはアランの義母と会ったことがないが、2人の関係があまりよくないというのも聞いている。だけど、曲がりなりにも義母。屋敷に来るなら形だけでも奥様であるシャルロッテがもてなすべきだ。
 顔見知りのブリタに連絡を入れたというのは百歩譲ろう。
 だけど、アランにも連絡が来ているはず。それなのに、シャルロッテには何も情報が伝わってきていない。また、子供だからという理由で蚊帳の外にされていると思ったら、なんだか悔しくなってきた。

(……アラン様は何もおっしゃってなかったけど、私がいまだに何もできないと思っているのかな)

 その日のディナーの席、てっきりブリタも同席していると思ったのだが、晩餐室にはアランしかいない。シャルロッテは自分の席に座ると、もやもやとした気持ちのままカトラリーを手に取った。

(ブリタさんがいなくて良かった……)

 ブリタは上品な口調で詰ってくる天才だ。遠回しの嫌味に気づけず、ここに来た当初は言葉通りに受け止めていたことも多かったが、シャルロッテだってもう18歳。社交歴は乏しすぎるが、社会勉強も積んだ。主に娼館で、ダニエラからなのだが。
 以前は事を荒立てないためにやり過ごそうと思うことが多かったが、それが必ずしも正しいことではないということも、ダニエラから教わった。

『辺境伯夫人なのでしょう? じゃあ、逃げてばかりじゃ務まらないわ。年齢は関係ないのよ? 17、18歳の最近まで令嬢と呼ばれていた女性が、夫人として家を家政に参加することなんて珍しくないもの。だから、シャルロッテちゃんも時と場合によっては威厳を見せなくちゃ。人に流されまくる夫人じゃあ、その夫の評価まで下がっちゃうわよ』

(私のせいでアラン様の評判を下げたくない。……そうよ、アラン様にも了承を得て、この機会にブリタさんにはちゃんと言おう。まずはアラン様だわ。『ラーゲルレーヴ家の奥様』として、本来やるべき仕事を与えてくれってお願いしよう)

 いつもは楽しそうなシャルロッテの話し声が響くこの部屋も、今はしんと静まり返り、カトラリーの音が時折カチャカチャとするだけである。明らかにおかしい空気に、アランが口を開いた。

「……シャルロッテ、どうした」
「……あの、アラン様は私をいつまでも子供扱いするつもりなんですか?」

 アランがピタッと止まる。

「……ここでする話じゃない」
「だったら、どこでするんですか? だって、お部屋にいったらアラン様はいつも私がもう無理です、気持ちよくて死んでしまいますって言うまで責め立て」
「やめろ。ここで言うな」

 アランは慌ててシャルロッテを遮ったが、毎晩仲良しなのは明らかだ。壁際に立つ使用人たちはバッと下を向く。給仕をする者は聞いていない体をとりながら、りんごのように顔が真っ赤た。

「アラン様、私ももう大人です」
「ああ、知ってる」

 シャルロッテをどうにか黙らせようと、アランの口数がいつもより多い。

「じゃあどうして」
「……ちょっと、皆下がってくれ」
「いいえ、下がらないでください! みんなにも聞いてもらいましょう! だって、協力してもらわないといけないし、知っておいてほしいんです。それに、アラン様が言ったことの証人になってもらわないと」

 ――これは、アラン様とシャルロッテ様の初めての喧嘩では?

 使用人たちはドキドキしながら見守る。主が見たこともないほどしゃべっているし、聞き逃すわけにはいかない。

「こ、……ここで言わせる気か?」
「はい。後々のことを思うと、ライトマンやダナにも聞いてもらわないといけません」
「はぁ……わかった」

 きゅっと口を引き結び、眉を寄せるアラン。室内にいる使用人たちは固唾をのみながら、心の中で主を応援する。

 長い沈黙があってから、アランが緊張を滲ませつつ口を開いた。

「……シャルロッテ。お前は小さいから、まだ準備がちょっとかかるんだ。気持ちはわかるが、もう少し待ってほしい。その、毎晩どうにか……鋭意努力中だが、痛い思いをさせたくないんだ」

 内容はともかく、アランの長セリフに皆が感動の面持ちで耳を傾ける。これだけ長い言葉を発するのは、アランなりの誠意だと皆が感じていた。
 だが、シャルロッテは首を傾げた。

「え? 奥様の仕事って痛いんですか?」
「……何の話だ」
「今日ブリタさんに言われたんです。大奥様が来るから準備をしに来たって。だけど、それって奥様の仕事ですよね? 私、もう子供じゃないんで奥様の仕事をさせて欲しいんです」
「そっちか」

 アランはあまりの恥ずかしさに、両手で顔を覆って俯いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...