【完結】【R18】聖女の義妹に媚薬を盛られ獣人国に捨てられた結果、夫たちに愛されてます

魯恒凛

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第2章

7.双子の従者

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 そう考えたとき、リディアーヌはまだトバイアにお礼を言っていないことを思い出した。

「あの、……いろいろ誤解していたようです。ごめんなさい。それから、助けていただいて、ありがとうございました」
「まあ、仕事でもあるから。それで? なんで人間が混沌の森にいたんだよ。人間は怖がって立ち入らないだろう?」
「あそこ、混沌の森というんですね……」

 リディアーヌは大まかに事情を説明した。何もできない役立たずの分際で、義妹の婚約者に色目を使ったと誤解され、媚薬を飲まされ捨てられたこと。

 トバイアは真剣な表情で話を聞くと、リディアーヌの手元に視線を落とした。

「苦労したんだな。手を見ればわかる。……なあ、これからどうするんだ? 戻ったところで悲惨な目に遭いそうな気がするんだが」
「できればあの家には戻らず、どこかでひっそり暮らしていきたいんです。寝るところと仕事を確保すれば、一人でなんとか」
「は? どう見ても世間知らずな君が一人で暮らすなんて無理だろう? 獣人より人間の方がよほどしたたかだぞ? 騙されて売られて、えらい目に遭うと断言できるんだが」

 リディアーヌも不安しかない。だけど、パナケイア侯爵家に戻ったらアデルの愛妾にされ、針の筵の日々になるのは目に見えている。あの家から逃げるためには誰も知らない土地でひっそりと暮らすしかないのだ。

「……どんな状況でも、あの家に帰るよりは、幸せに暮らせるはずです」

 悲壮感漂うリディアーヌにトバイアは眉を下げる。
 
「う~ん……。まぁ、人間の国ラグランジュ王国に送ってやるのは構わないけど。だけど、とりあえず、君だけでも獣人への誤解を解いてから帰ってよ。自分の目で見て、体験したことなら信じられるだろう? 癖が強いやつは多いが、けっこういいやつばかりだと思うぞ?」
「……は、はい」
「よし。それじゃあ、とりあえず風呂に入って体を清めるといい。一人で入れるか? 手伝ってもいいぞ?」
「い、いえ、使い方だけ教えていただければ」
「そう? じゃあ、こっちに来て」

 トバイアに案内されたバスルームは広く、数人がかりで世話をされる大貴族向けの豪華な造りだった。ひとりで入るにはもったいない大きなバスタブには、すでにお湯を張ってくれてある。蛇口を捻るとお湯が出てくる仕様で、温かいお湯で体を洗えることにリディアーヌは喜びを隠せなかった。湯船に浸かるのは実に十年ぶりだ。
 湯気が上がるバスタブに足を入れると、冷えた指先からじわじわと熱が広がった。トバイアに使うように言われた石鹸はフローラルの香りで、どう見てもリディアーヌのために用意された新品だった。

(こんなによくしてもらったこと、あったかしら……。何も知らずに獣人のことを怖がって、悪いことをしてしまったわ)

 ゆっくり湯船に浸かり、バスローブを羽織って髪をタオルで乾かしていると、ノックの音がした。

「え? トバイアさん? ちょ、ちょっと待ってください……」
「違いまーす、部下でーす」

 ガチャリと入ってきたのは、森でトバイアと一緒にいた双子だ。

「っ! ま、まだ入っていいって言ってな」
「いや、もう全部見てますから、今さら恥ずかしがる必要はありません」
「自慰してるところも、淫穴の中まで見たのに。今さら何を恥ずかしがってんだか」
「……そ、そうだけど」

 そんなあからさまに言われたら、悔しいやら恥ずかしいやらで涙が滲んでくる。リディアーヌだって好きで痴態を晒したわけではなかったのに。

 キュッと下唇を噛み、瞳を潤ませるリディアーヌに気づくと、双子の片割れが大きなため息をついた。

「ほら、着替えを買ってきた。一人じゃ支度できないだろう? 手伝うから」
「き、着られます」
「……マジこいつめんどくさいよぉ、チェサ」
「まあ、そう言うな、ダグ。……トバイア様が食事を一緒に取ろうとおっしゃってます。お待ちですから、急ぎましょう」
「きゃっ! やだっ、脱がさないで!」

 二人がかりでバスローブを剥ぎ取ったものの、双子はリディアーヌの裸には興味がない様子。目の前で揺れる乳房には目もくれず、連携プレーで手際よくワンピースを着せていく。
 ドレッサーの前に座らされ、髪を結い、化粧を施されているが、なんとも落ち着かない。生まれて初めて化粧をするからだ。

「おまえ、いくら女だからってもう少し手入れするべきだぞ。肌が乾燥しきってんじゃねぇか」
「ダグの言う通りですよ。女性が着飾ってくださると男はそれだけでうれしいものです。あなただって、綺麗でいられた方がいいでしょう?」
「あ……、着飾ったことがなくて……」
「「は?」」

 頭上でチェサとダグと呼び合う二人が顔を見合わせる様子を、リディアーヌも鏡越しに見つめる。なぜそんなに驚いているのかわからないが、年頃の娘のくせに手入れもおしゃれもしていないことを怪訝に思っているのだろうか。生きていくのに必死だったのだし、そんな余裕はなかったのだから仕方がない。

 改めて二人を見ると、彼らも整った顔をしている。栗色の髪をひとつ結びにしたのがチェサ、ハーフアップにしているのがダグで、凛々しい眉に丸い瞳、鼻筋が通った丸顔で、甘いマスクの童顔イケメンだ。少年っぽさを残す彼らは、もしかしたらリディアーヌより若いかもしれないが、体は相当鍛えていそうだ。顔と体の印象にギャップがある。
 
 だとしても、リディアーヌとさほど年は変わらないだろう。弾力がありそうな肌は触らなくても一目瞭然だが、若いからという理由だけでなく、きちんと手入れもしていることを感じる。
 甲冑を着こんでいたから、騎士なのかもしれない。そんな男性たちがリディアーヌよりも艶やかな肌であることが情けなかった。

「……おい、なんで涙ぐむんだよ。ったく、さっきからめんどくせぇ女だな。人間ってみんなこうなのか?」
「やめなさい、ダグ。……何か気に障ったのなら、申し訳ありません」
「ち、違うんです……、ずっと生きるのに必死だったから、手入れもおしゃれもしたことがなくて……、自分が情けなくて、ひっく、恥ずかしい……」
「……は? 着飾ったことがねぇってこと?」

(呆れられてる……、恥ずかしい)

 泣き顔を見られるのが嫌で両手で顔を隠そうとすると、両脇から手が伸び、その手をピタッと止めた。チェサとダグがリディアーヌの両手をそれぞれ掴んだのだ。

「……はぁ。人間っていうのは世知辛いんだな。元の素材がいいんだし、これから着飾ればいいじゃんか」
「ダグの言う通りですよ。ほら、せっかく渾身のメイクをしたんだから、泣かないでください」

 チェサが優しく布をあて涙を拭き、崩れたメイクを手早く直すと、リディアーヌに鏡を見るよう耳打ちした。

「あ……」

 目元を少し赤くした儚げな美女――リディアーヌがそこにいた。

 ベルスリーブ、オフショルダーの柔らかなブラウスにティアードスカートを重ね、コルセット型のベルトでウエストを締めてある。貴族令嬢というより、裕福な町娘のような装いだ。アップにされた髪にはスカーフをカチューシャづかいしてあり、華やかさがある。
 素肌を生かしたメイクにはリディアーヌ自身も驚いた。平凡なヘーゼルの瞳は長いまつげに縁どられた奥ゆかしい宝石のようだし、ぽってりとした唇は瑞々しい果実のようだ。整えられた肌は乾いた土台に潤いが満ち、内側から発光しているような艶が生まれていた。

「私じゃないみたい……」
「おまえ、ほんとに汚らしかったもんな。っ、口が滑った。わ、悪い」
「ううん、本当のことだから、大丈夫……。さっきは私こそ、ごめんなさい。あの、チェサさんとダグさん……? 着飾ってくれてありがとう」
「これも仕事ですから。さあ、トバイア様の元へ案内します。お腹が空いたでしょう?」

 そういえば、最後に食事をしてから丸一日は経っていることに気が付く。空腹を意識したことで、リディアーヌのお腹がくぅっと小さく鳴った。真っ赤になったリディアーヌにダグが苦笑する。
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