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第28話 一番大事なもの
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「あのさ、真島くん。自分の本当に一番大事なものがわかる方法って知ってる?」
城島さんが静かに話しだした。
本当に一番大事なものがわかる方法?そんなのあるの?
「知らないっす」
「知りたい?」
「はい」
城島さんはビールをグビッと飲んでからこう言った。
「片っ端から捨ててみることだよ。モノでも人でも。特にいま大事だと思ってるものを思い切って全部捨てるとさ、わかるんだよ。これが大事だったんだってね。失ってはじめてその本当の価値に気がつくんだ」
スゴイことを言う。
「でも、価値に気がついたときには自分が捨てちゃった後なんでしょう」
「うん。でも自分が本当に求めているものが何かを知ることはできる」
オレは空っぽの部屋を見まわした。
このガラ~ンとした部屋は、もしかしてそのなごり、なのかな。
「そうしたんですか」
「うん。全部捨てた。家族捨てて友達捨てて。まあ具体的に言えば、仕事辞めて携帯電話を解約して、新しい仕事探して引っ越しただけだけどね」
「なんでそんなこと」
「知りたかったから」
城島さんはキッパリと言った。
「それで、一番大事なもの、わかりました?」
「うん」
本当に?
それが何かってのは簡単に聞いちゃいけない気がした。
「それって捨てる前に思ってた一番と同じでした?」
「う~ん、同じと言えば同じだけど、少しだけ違った。で、その少しの違いがオレにとっては重要だったんだって気がついたよ」
「違い」
城島さんはここではないどこかを見つめているように見えた。
ずいぶん長いこと経ってから、城島さんは言った。
「自分と向き合って相手と向き合って、その先へオレは行きたいと思った。その先に道はなくても」
相手?相手ってこの間、話に出た結婚しちゃった親友のことかな。
先に道がない?
オレはゾクリとした。
「なんか……」
「ん?」
「なんか……怖い」
城島さんは小さくうなずいた。
「うん。怖かったよ。ものすごく怖かった。清水の舞台から飛び降りるっていうのあるだろ。べつにバンジージャンプでも、スカイダイビングでもいいんだけどさ。本当にああいう感じだった。オレ、元々かなり臆病だからね」
「どうしてそんなこと……」
「わからない。もう限界だったのかもね。新しい世界を見たかったんだなきっと」
新しい世界……。
「で、見えたんですか」
オレは恐る恐る聞いてみた。
「見えた。ただね、結論から言えば……」
城島さんはオレの顔を見た。
「新しい世界なんてなかったよ。新しい現実に出会っただけ。っていうか、新しい地獄か。ハハッ」
城島さんは自嘲気味に笑った。
「地獄って一つじゃないんだよね。いろんな種類があるんだ。元の地獄を懐かしがるって変だよな。同じ地獄に変わりはないのに」
「なんか怖い。怖すぎる」
「オレだって怖い。実際夢に見る」
城島さんは遠い目をした。
カラダにその夢を呼び起こすように。
そして語った。
「夢の中でオレの死は決まってる。
死刑台への階段を一歩一歩上る。
現実だという実感と、どっかでウソだろと思っている自分がいる。
目隠しされて手を後ろ手に縛られて首に縄をかけられる。
で、そのまま。そのままの状態が続く。
足元の扉が開いて下に落ちるわけでもなし、首からロープをはずされるでもなし。
いつまで経ってもそのまま。
心臓がバクバクして、喉がカラカラに乾いて、耳元を風がヒューヒュー吹き抜ける。
これはね、怖いよ」
城島さんのたんたんとした静かな語り口がさらに恐怖をアオった。
「城島さん、なんでそんな怖い話をオレにするんだよ」
城島さんはオレの目を見て言った。
「だからさ、戻れるなら戻りなさいってことだよ。青春の感傷なんかに浸ってないでさ。ガキの時って世界はもうせま~い、半径何キロだけどさ、大人になって見てみれば世界は広いんだ。だから、オレみたいにはなるなって事だよ」
城島さんの言うことはわかるような気がした。でも、気がするだけだ。
「……でも、狭くたってそれがオレの今の世界だよ。そっからは抜けられない」
「うん。わかってる。よくわかるよ。オレがここで君に何言っても、君には多分本当にはわからない。オレもそうだったから。時を経て振り返って、初めてわかることってあるんだよね。でも、そこを通り抜けてきた者として君に言っておきたい」
「城島さんは?そこを通り抜けたのにまだ胸が痛むんでしょ?だから、飛び降りたんでしょ?」
城島さんは悲しそうな顔をした。
こんなに悲しそうな人間の顔をオレは初めて見たかもしれない。
「……これはだからさ、痛みと恐怖が結びついて快感に、生きてる実感をもたらしてくれるってやつだね、きっと」
痛みに恐怖? 生きてる実感?
「マックスって何かなあって考え続けてるんだ。その渦中で死ぬことかなって」
「……」
「愛する人がロープの先を握っててくれたら、それとも下に落ちる扉を開いてくれたら、いいのかな」
なんだが心がザワザワする。
「吐きそうっす」
「そう?ロマンチックじゃない?」
実際、オレは吐いた。
酒のせいなのか、城島さんの話のせいなのか。
そして、城島さんの話はまるで呪いのようにオレの頭にこびりついてしまった。
城島さんが静かに話しだした。
本当に一番大事なものがわかる方法?そんなのあるの?
「知らないっす」
「知りたい?」
「はい」
城島さんはビールをグビッと飲んでからこう言った。
「片っ端から捨ててみることだよ。モノでも人でも。特にいま大事だと思ってるものを思い切って全部捨てるとさ、わかるんだよ。これが大事だったんだってね。失ってはじめてその本当の価値に気がつくんだ」
スゴイことを言う。
「でも、価値に気がついたときには自分が捨てちゃった後なんでしょう」
「うん。でも自分が本当に求めているものが何かを知ることはできる」
オレは空っぽの部屋を見まわした。
このガラ~ンとした部屋は、もしかしてそのなごり、なのかな。
「そうしたんですか」
「うん。全部捨てた。家族捨てて友達捨てて。まあ具体的に言えば、仕事辞めて携帯電話を解約して、新しい仕事探して引っ越しただけだけどね」
「なんでそんなこと」
「知りたかったから」
城島さんはキッパリと言った。
「それで、一番大事なもの、わかりました?」
「うん」
本当に?
それが何かってのは簡単に聞いちゃいけない気がした。
「それって捨てる前に思ってた一番と同じでした?」
「う~ん、同じと言えば同じだけど、少しだけ違った。で、その少しの違いがオレにとっては重要だったんだって気がついたよ」
「違い」
城島さんはここではないどこかを見つめているように見えた。
ずいぶん長いこと経ってから、城島さんは言った。
「自分と向き合って相手と向き合って、その先へオレは行きたいと思った。その先に道はなくても」
相手?相手ってこの間、話に出た結婚しちゃった親友のことかな。
先に道がない?
オレはゾクリとした。
「なんか……」
「ん?」
「なんか……怖い」
城島さんは小さくうなずいた。
「うん。怖かったよ。ものすごく怖かった。清水の舞台から飛び降りるっていうのあるだろ。べつにバンジージャンプでも、スカイダイビングでもいいんだけどさ。本当にああいう感じだった。オレ、元々かなり臆病だからね」
「どうしてそんなこと……」
「わからない。もう限界だったのかもね。新しい世界を見たかったんだなきっと」
新しい世界……。
「で、見えたんですか」
オレは恐る恐る聞いてみた。
「見えた。ただね、結論から言えば……」
城島さんはオレの顔を見た。
「新しい世界なんてなかったよ。新しい現実に出会っただけ。っていうか、新しい地獄か。ハハッ」
城島さんは自嘲気味に笑った。
「地獄って一つじゃないんだよね。いろんな種類があるんだ。元の地獄を懐かしがるって変だよな。同じ地獄に変わりはないのに」
「なんか怖い。怖すぎる」
「オレだって怖い。実際夢に見る」
城島さんは遠い目をした。
カラダにその夢を呼び起こすように。
そして語った。
「夢の中でオレの死は決まってる。
死刑台への階段を一歩一歩上る。
現実だという実感と、どっかでウソだろと思っている自分がいる。
目隠しされて手を後ろ手に縛られて首に縄をかけられる。
で、そのまま。そのままの状態が続く。
足元の扉が開いて下に落ちるわけでもなし、首からロープをはずされるでもなし。
いつまで経ってもそのまま。
心臓がバクバクして、喉がカラカラに乾いて、耳元を風がヒューヒュー吹き抜ける。
これはね、怖いよ」
城島さんのたんたんとした静かな語り口がさらに恐怖をアオった。
「城島さん、なんでそんな怖い話をオレにするんだよ」
城島さんはオレの目を見て言った。
「だからさ、戻れるなら戻りなさいってことだよ。青春の感傷なんかに浸ってないでさ。ガキの時って世界はもうせま~い、半径何キロだけどさ、大人になって見てみれば世界は広いんだ。だから、オレみたいにはなるなって事だよ」
城島さんの言うことはわかるような気がした。でも、気がするだけだ。
「……でも、狭くたってそれがオレの今の世界だよ。そっからは抜けられない」
「うん。わかってる。よくわかるよ。オレがここで君に何言っても、君には多分本当にはわからない。オレもそうだったから。時を経て振り返って、初めてわかることってあるんだよね。でも、そこを通り抜けてきた者として君に言っておきたい」
「城島さんは?そこを通り抜けたのにまだ胸が痛むんでしょ?だから、飛び降りたんでしょ?」
城島さんは悲しそうな顔をした。
こんなに悲しそうな人間の顔をオレは初めて見たかもしれない。
「……これはだからさ、痛みと恐怖が結びついて快感に、生きてる実感をもたらしてくれるってやつだね、きっと」
痛みに恐怖? 生きてる実感?
「マックスって何かなあって考え続けてるんだ。その渦中で死ぬことかなって」
「……」
「愛する人がロープの先を握っててくれたら、それとも下に落ちる扉を開いてくれたら、いいのかな」
なんだが心がザワザワする。
「吐きそうっす」
「そう?ロマンチックじゃない?」
実際、オレは吐いた。
酒のせいなのか、城島さんの話のせいなのか。
そして、城島さんの話はまるで呪いのようにオレの頭にこびりついてしまった。
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