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第53話 海①

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数日後、結局断りきれずに海に行くことになってしまった。
駅で待ち合わせて電車に乗って海まで。
男4女4のカップリング。

その朝も灰谷はいつも通り、なんでもない顔をしてチャリでオレを家まで迎えに来た。
オレもなんてことない顔をして後ろにまたがる。
これも幼なじみのなせるワザってやつなのだろうか。
あれから灰谷とは話をしていない。

今日だってほとんど顔を見ずに「ウイッス」ぐらいのもん。
つうか、律儀すぎて涙が出るよ、与えられた役割はこなしますA型男灰谷。


外は暑い。
ギラギラ太陽。
こりゃ海、暑いぞ……。


自転車を漕ぐ灰谷の背中。
Tシャツにはもう汗が滲んでいる。


灰谷……あくまでもいつも通りってわけか。


いつも通りなわけない。
あれから色々考えてみたけど……。
結局オレ、どうしたかったんだろう。
どうして欲しかったんだろう。

受け入れて欲しかったのかな。

男と寝るオレも。
そして……オマエのことを好きでいるオレも。
丸ごと全部。


望みすぎなんだきっと。
望みすぎて、壊した。
いや、まだ壊れてはいないか。
ヒビが入った。
それはまだ小さな亀裂で。

どうにかなるかもしれない。

どちらにせよ灰谷は悪くない。
悪くない。
わかっちゃいるけど……。


「ふう~」


深いため息が出た。




真島のため息を背中で聞きながら、灰谷は思う。

迎えに行った方がいいのか行かない方がいいのか、今まで通りに接していいのか悪いのか、これでも逡巡した。


口から出てしまった言葉は取り消せない。
真島がオレの言葉をどう受け止めたにせよ。


オレの嫉妬心。
情けないオレの嫉妬心。
それをオレは真島にだけは知られたくない。

そんなやつだったのかと思われたくない。

「はあ~」

もう~。
暑い~。

なんも考えらんねえ。
なんも考えたくねえ~。


海。海か。


海でちょっとは気分が変わればいい。
真島もオレも……。
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