ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせるDK真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

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第59話 灰谷の憂鬱

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灰谷は鬱々としていた。

自宅の居間で明日美と並び、明日美おすすめの映画を見ているけれど、ちっと頭に入らない。

あの海以来、真島の家にはさすがに行けず、佐藤・中田と四人で会う事はあるけれど、真島とはほとんど口をきいていなかった。

淋しくないと言えばウソになる。

ウソ……。
何が、自分にウソをつくなよ、だよオレ。
エラそうに。

灰谷は海での帰り道、真島に言ってしまった言葉を思い出した。


何か話せば話すほど悪い方に転がっていく。
もっとフツーに。
今までどおりに……。

はあ~。

腕組みして目を閉じた。



「灰谷くん。灰谷くん」

明日美の声で目を開けるとテレビ画面にFinの文字が出ていた。

ふわ~ぁ。
灰谷はあくびをした。

「灰谷くん途中で寝ちゃうんだもん」

明日美が少しふくれっ面だ。

「いやあ。なんかつまんなくて」
「そう?あたしは好きだったな」
「う~ん。フランス映画は眠くなる」
「映画の趣味は合わないね」

派手でドカーン、バコーン、単純明快なハリウッド映画が灰谷は好きだった。

真島とならもっと楽しめるのにな……って。
また真島かよオレ。

DVDをケースに戻しながら灰谷は聞いた。


「今日、泊まってく?」
「お母さんは?」
「ああ、出張。明日まで帰ってこない」
「ん~どうしようかな」


夏休みに入って、明日美は時々、灰谷の家に泊まるようになっていた。
結衣の家に泊まると言えば、明日美の両親はすんなり許可してくれているようだ。


♪~
明日美のスマホが鳴った。

「あ……ふふ」

画面を見て明日美が笑った。

「どうした?」
「結衣がね、今日うちに泊まってることにしてって」
「ふうん。さっき電話で真島とカラオケに行ってるとか言ってなかった?」
「うん。結衣、すごいオンチだから、歌ったら嫌われちゃうんじゃないかって。大丈夫だったみたい」
「そんなにひどいの?」
「うん、まあ……かなり」
「ふうん」
「結衣と真島くん、うまくいってるみたいだね。よかった」


ん?泊まることにしてって……それって……そっか。

灰谷はその言葉の意味を理解した。


真島、あいつ……。


「最近、結衣から真島くんの話しか聞かないもん」
「ふうん。DVDの返却日って明日までだったっけ?」
「うん。真島くん、すんごく優しいって」
「へえ。麦茶もっと飲む?」
「ううん。もういい」

灰谷は冷蔵庫からペプシを取り出す。

「あそこ行きたいって言えば連れてってくれるし」

あいつが?
家でダラダラすんのが大好きで、オレが映画行こうって誘っても「DVDでいいだろ」って言う真島が?

「話もいっぱい聞いてくれるんだって」
「へえ」

『女のしゃべりにはオチがない。聞いてんのダルい』って言ってた真島が?
変われば変わるもんだ。

「男っぽくてドキドキしちゃうんだって。初デートの時、カフェで好きって言わされて、手にキスされて、すんごく恥ずかしかったって」


灰谷はペプシを吹きそうになった。

真島、あいつそんなことしてんの?
何それ。


「それにね……」

明日美は嬉しそうに真島と結衣の話をした。
真島の話を他の人間から聞かされるとは思わなかった。
灰谷の知らない真島だった。

そりゃ、女相手だと違うのかもしれないけど……。
セフレの事もそうか。

オレの知らない真島か……。

オレの知らない真島。
真島の知らないオレ。


「女の子同士ってさ。そんな風になんでも話しちゃうの?」
「え?」
「じゃあオレも言われてんのかな。灰谷くんって激しいの。しつこくってイヤになっちゃう、とか?」
「……」
「怖いよな」
「そんなこと……」

明日美の顔が曇った。

あ、しまった。
なんでこんな言い方。

イラついている自分に気がつき、灰谷は自分でもビックリした。

「……言いすぎた。ごめん」


「灰谷くんはあたしの事、話さないんだってね」

まるできっかけを待っていたみたいに明日美が話し始めた。

「何それ」
「前にね、真島くんに聞いたことがあるの。灰谷くんは真島くんたちといる時、訊かれるまであたしの事話さないって」
「……別にベラベラしゃべることじゃなくね?」


自分の知らぬ間に真島とそんな話をしていたというのに驚いた。
何より真島にそんな事を聞かせていたということに不快感を感じた。

「あたしは淋しいって思ったよ。好きな人のこと、話したくない?あたしは話したい。灰谷くんといるとこんなに嬉しくて楽しくてしょうがないって言いたくなる。っていうか、言っちゃってるの」


真島、あいつ……。
そんなことがあったなんてオレには一言も言わなかったな。


「灰谷くんはあたしといて楽しくない?嬉しくない?ホントは……いっしょにいたくない?あたしといてくれるのは、あの事があったから、だよね。それもわかってるけど」
「別にそんなんじゃ……。それだけじゃないよ」
「じゃあ……」

明日美は少し言いよどんでから小さな声で言った。


「……したいから?」

ズドン。
灰谷は核心を突かれた。

スゲエな女っていきなり。
この問いに答えられる男がいるだろうか。
どうすりゃいいんだこんな時。


「ごめん」
「何が?何がごめん?」

はぁ~。
畳み掛ける明日美に灰谷は心の中でため息をついた。


「言いすぎてごめん。不安にさせてごめん」

灰谷は明日美を背中から抱きしめた。

「ううん。あたしこそ、ごめんね」


灰谷は明日美の髪にキスをした。
振り返った明日美の目が甘えてくる。
唇を合わせた。
キスが深くなって灰谷に欲望が立ち上がったところで、明日美が止めた。

「今日は家にいなくちゃ」
「……ああ。送ってく」

寸止め。女って残酷。



明日美を家まで送り届け、灰谷は帰宅の途についた。

コンビニに寄って弁当を物色する。
料理はわりと得意で一人でチャッチャと作って食べるのが常だが、ここ最近は買って簡単に済ませる事が多くなっていた。

真島んち行きてえな。
んで、節子のメシ食って真島とバカ話してえな。

母子家庭でキャリアウーマンの母は仕事仕事で家を空けることが多い。
でも、淋しいと感じたことはほとんどなかった。

思えばいつでもそばに真島がいた。
そんなことにすら、気づいていなかった。

こんなに口きかない事なんて今まであっただろうか。

思い出せない。


弁当はどれも美味しそうに見えなかった。

家でパスタでも作るか。
ナスとベーコンとニンニクはあったから、トマト缶でも買って。
大葉がないか。

真島が好きなんだよな。
モリモリ本当にウマそうに食べるんだあいつ。
節子よりウマいって言ってくれたのも、ちょっと嬉しかった。

――。


結局トマト缶一つ買って灰谷はコンビニを出た。

今日はいねえんだよなあいつ。

はあ~。

灰谷はため息をついた。

真島が結衣ちゃんと……。
オレがどうこう言える事じゃないけど。


それにしても真島のやつ、なんであんなに荒れているんだろう。

ふいに口をついて出た言葉だったが、それは今の真島をよく表しているように思った。

荒れている。
そうだ。真島は荒れている。
いつからあんな。
夏休みに入ってから。いやその前?


セフレとうまく行ってないからか?
一週間会えないって言ってたし。
それで?


こんな時、本当は話を聞いてやるか、そばに居てやればいいんだろうけど。
いまのオレじゃあ。

はあ~。


灰谷はその日、何度目かのため息をついた。
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