ナツノヒカリ ~親友への片思いをこじらせるDK真島くんのひと夏の物語~

カノカヤオ

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第82話 あの夏……

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真島の顔……。

病院からの帰り道。
バイト先のコンビニに自転車で向かいながら、灰谷は一晩でかなりやつれたように見えた眠る真島の白い顔を思い出していた。

あれから――今までにない衝動で明日美を抱いてから――明日美を家まで送り届けて、家に帰ってからは、ほとんど眠れずに朝まで過ごした。

真島とやり合った時に打ったところが、あちこち地味に痛んでいた。

真島も今頃、同じ痛みを抱えて眠れずにいるかもしれない。
そう思った。


ウトウトしている間に気がついたら眠っていて、目覚めればすでに陽は高くなっていた。

なぜか――あんな姿を見せられた、いや、見てしまったというのに――真島に会わなければならない気がして、忘れたカーディガンを口実に真島の家に行った。


熱中症で倒れたとか……。
昨日の事は関係がないとは言えないような気がした。


――のど乾いた。

灰谷は自転車を停め、目についた自販機でペプシを買い、そばのベンチに腰かけた。
ゴクゴクゴク、半分ほど一気に飲んだ。

ふ~。暑い。

真島……。

あの時、なぜすぐ一階に下りなかったんだろう。
足が、動かなかった。


真島の顔。

真島はオレと目が合って一瞬驚いて……でも、続けたんだ。
見せつけるみたいに?
いや、違う。


まるで……オレと……。

あれは……今思えば……なんだかSOSみたいに見えなくもなかった。


それに多分……そう。
オレは見たかったんだ。
あいつが。
真島がしてるところを。

なんだそれ……。


灰谷の額から汗が滴り落ちた。

暑い。
セミが鳴いてる。
ミンミンうるせえ。


なんでこんな風になっちまったんだろう真島とオレ。
なんで……。
どこから間違ったんだろう。


灰谷はペプシをゴクリゴクリと飲んだ。



ふいに灰谷の脳裏に夏の日の記憶が蘇ってきた。

あの日、あの日もこんな風に暑かった。

真島とチャリで遠出した中学生のあの夏の日。


灰谷は前を走る真島の白いTシャツを思い出した。
風になびく茶色い髪も。

そして帰り道にケンカ……。

あ、ホントだ。思い出した。
したな、ケンカ。

行きは良い良い帰りは怖いというやつで、帰りは走っても走っても家までたどり着かなかった。

そして、なけなしのお金で買ったジュースの残りを真島が全部飲んでしまった事に腹を立て、灰谷はキレた。


長い長い上り坂を並んで無言でチャリを押している最中に、真島がふいに言った。

「灰谷……オレな……」

その時の真島の顔。

思いつめたような、せっぱつまったような、灰谷が初めて見る真島の顔だった。

「なんだよ」

真島は意を決したように口を開きかけたが、すぐに言葉を飲みこんだ。

「……なんでもない」

ちょっと怒ったような顔だった。

しばらくして真島が言った。

「もうちょっとだぜ。がんばろう」

「おう」

灰谷は答えた。


あの時、真島はなんて言おうとしたんだろうか。
今の今までちっとも思い出さなかった。


上り坂の先は急な長い下り坂だった。

「下までブレーキをかけずに行こうぜ」

言い出したのは真島だった。

「いいぜ」


灰谷と真島は一瞬、目と目を合わせた。
そして、ふうっと息を吸いこみ、二人並んで漕ぎ出した。


顔の横を風が流れる。
スピードが増していく。
ガタピシと自転車が揺れる。
景色が飛ぶように流れていく。

転んだら、横から誰か飛び出してきたら。
イヤな想像が灰谷の頭をかすめる。

心臓が波打つ。
怖い。
ブレーキに手が伸びそうになる。

隣りの真島を見れば、ハンドルを握らずに親指だけひっかけてパッと開いている。
絶対にブレーキはかけないってことだろう。

よし、オレも……。


心臓がギチギチする。
スピードはマックス。

その時、真島と目が合った。

行けるか灰谷。
行くぞ真島。
負けねえぞ。


結局そのままなんとかブレーキをかけずに坂道を下りきった。
加速にのってペダルを漕がずに進む。
しばらくすると真島が自転車を止めた。
灰谷も慌てて止める。

真島はいま下ってきた坂を振り返ってこう言った。

「ふー、坂スゲエー」
「おお」
「怖かったな~」
「おう」

灰谷はあの時の胸のドキドキを、そして真島の興奮した輝くような晴れ晴れとした顔を見て、なんだか嬉しい気持ちになった事を思い出した。


こんな風に灰谷の思い出の多くは真島と結びついていた。


なんで今頃こんな事を思い出すんだろう。


そうだ。
あの夏がいつまでも続くと、オレは、どこかでそう思っていたんだ。
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