113 / 154
第113話 涙雨
しおりを挟む
バイクか……。
そういえば真島、夏休み前から欲しがってたな。
コンビニバイト中、雑誌コーナーを整えていた灰谷は並んだバイク雑誌を見てふいにそんな事を思いだした。
ククク。
小さな笑いがこみ上げる。
ホントはあいつ原付免許一回落ちてるからな。
中田と佐藤には恥ずかしいからって内緒にしてるけど。
「すんげえショック、マジショック。テキトーにやれば受かるんだと思ってた。つうか引っ掛け問題がさ~」って必死で弁解してたけど。
あいつあれでプレッシャーに弱いというか。
頭固い所があるしな。
二回目の時には灰谷も誘われて一緒に免許を取った。
バイクな、特に興味なかったけど……。
バイクか……。
「灰谷先輩、良かったらお先に休憩どうぞ」
友樹が声をかけた。
「じゃあお先に」
「は~い」
休憩室で灰谷は中田に電話をかけた。
「ウイーッス。あのさ、中田、オマエの兄貴に頼んでほしいことあるんだけど。あのな……」
*
「灰谷先輩」
電話を切ったところで友樹が顔を出した。
「あの、ちょっと来てもらってもいいですか?」
「ん?何?どした?」
友樹について店に行くとそこにいたのは……。
灰谷の顔を見てペコリと頭を下げたのは結衣だった。
「結衣ちゃん、表でいい?」
結衣は小さく頷いた。
店の前に出ると灰谷は制服の上着を脱いだ。
「バイト中にごめんね」
「いや、休憩中だったし。ここ、暑いね。あ、なんか飲む?」
「ううん。大丈夫」
「真島は今日、休みなんだけど」
「あ、うん。さっきの人に聞いた」
「そっか」
結衣はしばらくモジモジしていたがカバンから小さな紙袋を出した。
「あのね、真島くんに返したいものがあって。これ、灰谷くんから真島くんに渡してもらえる?」
「いいけど」
それは灰谷の手のひらに乗る位の大きさだった。
「多分、すごく大事なものだと思うから」
「わかった。渡しとくよ」
「うん。お願いします。あ、それと、灰谷くんて真島くんのお母さんと会うことあるよね?」
「節子?うん」
「…あのね、真島くんのお母さんにね、丁寧な心のこもったお手紙頂いたの。お返事書こうかと思ったんだけどそれも違うかなって。ありがとうございましたって伝えてくれる?」
「うん。わかった」
結衣はもう少し何か言いたそうな顔をしていた。
真島になんか他に伝言でも……ってのもヘンか。
ええと……。
灰谷が考えているうちに「じゃあ……」と結衣が言った。
「うん」
二、三歩歩いた所で結衣が振り返った。
「灰谷くん」
「ん?」
「あたしが言うことじゃないってわかってるんだけど」
「うん」
「真島くんの事、よろしくね」
そう言った結衣の顔は微笑もうとしているのだろう、でもそれが上手くいかずに泣き笑いのような表情になってしまっていた。
「うん」
灰谷は小さくうなずいた。
「じゃ……」
あ……。
その時急に雨が降り出した。
通り雨だろう。空は明るいままだった。
結衣ちゃん、傘持ってないよな……。
灰谷は小さくなっていく結衣の後ろ姿を見つめた。
まるで結衣の涙雨のようだと思った。
明日美も結衣ちゃんも、オレ達にはもったいない位、良い子だった。
良い子達だった。
ごめんな。本当にごめんな。
自分勝手だとわかってはいたが、灰谷は心の中で二人にわびた。
そういえば真島、夏休み前から欲しがってたな。
コンビニバイト中、雑誌コーナーを整えていた灰谷は並んだバイク雑誌を見てふいにそんな事を思いだした。
ククク。
小さな笑いがこみ上げる。
ホントはあいつ原付免許一回落ちてるからな。
中田と佐藤には恥ずかしいからって内緒にしてるけど。
「すんげえショック、マジショック。テキトーにやれば受かるんだと思ってた。つうか引っ掛け問題がさ~」って必死で弁解してたけど。
あいつあれでプレッシャーに弱いというか。
頭固い所があるしな。
二回目の時には灰谷も誘われて一緒に免許を取った。
バイクな、特に興味なかったけど……。
バイクか……。
「灰谷先輩、良かったらお先に休憩どうぞ」
友樹が声をかけた。
「じゃあお先に」
「は~い」
休憩室で灰谷は中田に電話をかけた。
「ウイーッス。あのさ、中田、オマエの兄貴に頼んでほしいことあるんだけど。あのな……」
*
「灰谷先輩」
電話を切ったところで友樹が顔を出した。
「あの、ちょっと来てもらってもいいですか?」
「ん?何?どした?」
友樹について店に行くとそこにいたのは……。
灰谷の顔を見てペコリと頭を下げたのは結衣だった。
「結衣ちゃん、表でいい?」
結衣は小さく頷いた。
店の前に出ると灰谷は制服の上着を脱いだ。
「バイト中にごめんね」
「いや、休憩中だったし。ここ、暑いね。あ、なんか飲む?」
「ううん。大丈夫」
「真島は今日、休みなんだけど」
「あ、うん。さっきの人に聞いた」
「そっか」
結衣はしばらくモジモジしていたがカバンから小さな紙袋を出した。
「あのね、真島くんに返したいものがあって。これ、灰谷くんから真島くんに渡してもらえる?」
「いいけど」
それは灰谷の手のひらに乗る位の大きさだった。
「多分、すごく大事なものだと思うから」
「わかった。渡しとくよ」
「うん。お願いします。あ、それと、灰谷くんて真島くんのお母さんと会うことあるよね?」
「節子?うん」
「…あのね、真島くんのお母さんにね、丁寧な心のこもったお手紙頂いたの。お返事書こうかと思ったんだけどそれも違うかなって。ありがとうございましたって伝えてくれる?」
「うん。わかった」
結衣はもう少し何か言いたそうな顔をしていた。
真島になんか他に伝言でも……ってのもヘンか。
ええと……。
灰谷が考えているうちに「じゃあ……」と結衣が言った。
「うん」
二、三歩歩いた所で結衣が振り返った。
「灰谷くん」
「ん?」
「あたしが言うことじゃないってわかってるんだけど」
「うん」
「真島くんの事、よろしくね」
そう言った結衣の顔は微笑もうとしているのだろう、でもそれが上手くいかずに泣き笑いのような表情になってしまっていた。
「うん」
灰谷は小さくうなずいた。
「じゃ……」
あ……。
その時急に雨が降り出した。
通り雨だろう。空は明るいままだった。
結衣ちゃん、傘持ってないよな……。
灰谷は小さくなっていく結衣の後ろ姿を見つめた。
まるで結衣の涙雨のようだと思った。
明日美も結衣ちゃんも、オレ達にはもったいない位、良い子だった。
良い子達だった。
ごめんな。本当にごめんな。
自分勝手だとわかってはいたが、灰谷は心の中で二人にわびた。
0
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる