姫君は幾度も死ぬ

雨咲まどか

文字の大きさ
19 / 19
3.黒

エピローグ

しおりを挟む

 ジューンベリーが食べ頃を迎えている。これが終わったら、サンザシと収穫しよう。パイにして貰って、アンゼリカに教わったハーブティーを入れなくちゃ。お茶の時間にはカトレアとアランも呼ぼう。忙しいだろうけれど、少しだけ。
 照りつける太陽に汗を拭って、デイジーはスコップで土を掘り起こした。

「キュウ」

 庭を飛び回っていたハリィがジューンベリーに齧り付く。

「ああ! 待って、後でだってば! サンザシ、ハリィを捕まえといて!」

「少しくらいならいいじゃないですか」

 言われたとおりにハリィを抱き上げてサンザシが肩を竦めた。
 デイジーはもぐもぐと口を動かすハリィを見やって唇を尖らせる。

「駄目、放っておいたら全部食べるもの」

「まあそれは否めませんが。……何を植えるんです?」

 サンザシはデイジーの手元を覗いて首を傾げた。ハンカチの上に広げた種を摘まんで、デイジーはにやりと口角をつり上げる。

「見てのお楽しみ」

「なんとなく察せられますけどね」

「……じゃあ聞かないでよ」

 サンザシの言いぐさにむっとしつつ、種を土に埋めてゆく。水をやってから、ハリィの頭を撫でた。

「よし、ハリィ出番だよ。この辺びゅーっと吹いちゃって」

 ハリィは嬉しそうに片翼を上げ、サンザシに抱かれたままで白い息を吐いた。見る間に芽が出てたくさんの白龍草が花を咲かす。

「最高! ありがとう!」

 デイジーはサンザシの腕からハリィを抱き寄せて頬ずりをした。

「どうなさるのですか、この花」

「明日のカトレア姉様たちの結婚式で、ブーケに使って貰うの。楽しみだなあ」

 カトレアとアランの結婚式はクローチアでも盛大に執り行われる事になった。本番を翌日に控えた城は大騒ぎで、使用人たちが駆け回っている。
 お茶の準備、ちゃんとしてくれるだろうか。少しだけ心配になったが、押し切ればどうにかなるだろうとデイジーは一つ頷いた。

「カトレア様、きっとお綺麗でしょうね」

「私も結婚したいなあ」

「……アラン王子と?」

 サンザシの言葉に、デイジーはお腹を抱えて笑った。よくそんな考えが浮かぶなあ。年下の従者は、デイジーが思っていたよりもずっと変わり者のようだ。

「私なら、アラン兄様よりサンザシの方がいいかな」

 笑いすぎたらしく顔を顰めていたサンザシの頬が、一瞬にして赤く染まる。表情は険しいのに頬と耳だけ赤くて、またおかしくなって笑ってしまった。

「お父様に反対されたら、また二人で家出しようよ」

「……殴られるのはもうご免です」

「次はサンザシのお父さんとお母さんを探そう。ご挨拶したいの」

 僅かに目を丸くしてから、サンザシはふわりと笑った。今ならやっとわかる。二年前のあの日、デイジーが一日中奔走してまで手に入れたかったのは、きっとこれだった。
 デイジーはサンザシの手を取って歩き出した。小さな白龍が二人の上を飛んでいる。
 ねえサンザシ、やっぱり一緒に死のうか。飽きるほど一緒に、生きた後で。
 口には出さずに、デイジーは繋いだ指先に力を込めた。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

処理中です...