【完】婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて幸せです。[ ご令嬢はいつでもオムニバス1〜5 ]

丹斗大巴

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第1部 婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて今はとっても幸せです

プレモロジータ伯爵家

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 シスターや孤児の仲間たちと別れて、プレモロジータ家にやってきた。

 以前暮していた伯爵邸に比べればずっと小さくて粗末な屋敷。

 でも、建物も庭もきちんと人の手が通って心地よく整えられている。

 ここに、お父様とお母様とお兄様が……。

 迎えの馬車を出してくれた執事見習マッテオさんが中に案内してくれた。



「仕事はメイドの見習いだ。君の仲間を紹介しよう」

「あら、新顔だね。あたしゃキッチンメイドのダーチャだよ」

「あたしはカローナ、ランドリー担当」

「これからどうぞよろしくおねがいします」

「おや、随分礼儀正しい子だねぇ」

「でも、なんだか目が赤いみたいだよ? 親元を離れるのが辛かったかい?」

「私は教会から来ました」

「孤児なのかい。まあ、珍しくはないけれど、難儀だねぇ」

「元気出しなよ。少なくともここは教会よりいい暮らしができるよ」

「ああ、伯爵邸の人たちはみないい人ばかりだ」



 三人の先輩たちが優しくも頼もしい笑みを見せてくれる。

 すてきな笑顔。

 このお屋敷が彼らにとっていい職場ということだわ。

 お母様が女主人なら当たり前よね。

 そのとき、屋敷の中から黒いドレスの女性がやってきた。

 一瞬でわかった。

 でもショックだった。

 ――お、お母様……っ! 

 ああ……っ、お髪があんなに白く……!



「あなたが教会から来た子なのね? まあ……、見事な黒い髪。

 この国では珍しくないけれど、こんなに癖のない髪は珍しいわ」

「奥様だよっ、ほら、ご挨拶!」



 カローナさんに肘で突かれて我に返った。



「お初にお目にかかります。ラーラと申します。本日よりどうぞよろしくお願いいたします」

「あら……、シスターの言った通り、本当に言葉遣いが綺麗ね。

 仕込めばお客様の前にも出せそうなくらい……。あなたの親はどんな方たちだったの?」



 眼頭に熱がこもって、ツンと鼻が苦しくなった。

 ……今、目の前にいます……!

 どこへ出しても恥ずかしくないように、厳しくも暖かく育ててくれました……。

 あなたです、お母様っ……!



「……シスター・カーラの話では、雪の晩、私は教会のポーチに置かれていたそうです……。

 親と関わるものはなにも持ち合わせておりません……」

「あら……、泣かなくてもいいのよ、ラーラ。今日からはここが家だと思ってちょうだい。

 領主夫人として、あなたのような子どもたちにもきちんと幸せになってもらいたいの」



 お母様がそっと私の頬を撫でてくれた。

 ああ、お母様……っ!

 昔のように優しい触れ方。

 けれど、ふっくらとした柔らかさは失われ、しわの刻まれた乾いた肌が、過ぎた年月を感じさせた。

 瑞々しくていつもいい香りがしたお母様の手。

 それなのに、今はローズウォーターやオリーブオイルの香りさえしない……。

 ……苦労されてきたのだわ……、想像以上に……。

 堪えがきかずに、熱いものがぼろぼろこぼれた。



「精一杯、奥様のためにお仕えしたく存じます……」

「あら、まあ……。教会の孤児たちの中でそんな言葉をいつどうやって覚えたのかしら?

 とにかく、涙を拭きなさいな」



 ポケットからハンカチを出して涙を抑え、息を整えて顔を上げた。

 思わず気持ちが溢れてしまったけれど、ここでは私はただの使用人。

 忙しい女主人の手をこれ以上煩わせてはいけないわ。



「もう大丈夫です……! 改めてよろしくお願いいたします」

「……ええ。では、いらっしゃい」






***





 私の第二の人生が、本当の意味で始まった。

 見習いの仕事は思った以上の重労働。

 教会では年下の子どもたちの世話や、掃除や、今日の糧を配膳していけれど、そんなのの比ではない。

 サーフォネス伯爵家の使用人たちが一家を支えてくれていたのだと改めて知った。

 けれど今、気持ちはすごく前向き。

 なぜって、なにか一つでも多く身につけられれば、その分きっとお父様やお母様やお兄様のお役に立てるはずなのだから。



 今日はカローナさんと大きなシーツを一緒に広げながら、張り巡らした物干し縄に掛けていく。

 小さいとはいえお屋敷となると、洗濯ものの量も一度では済まない。

 その度に煮沸消毒のためのお湯を沸かしたり、生地によって洗剤を変えたりと、やることも覚えることも盛りだくさん。

 午前中に干して乾いた衣服の入った大籠。

 その籠をカローナさんと私でせーのと持ち上げる。



「さあて、今度はアイロンがけだよ」

「見てていいですか?」

「いいけど、旦那様や奥様のものには触れさせないよ」

「やり方を見て覚えたいんです」

「だったらいいけどね」



 使用人たちは与えられた仕事に対して責任が課せられている。

 当然、私のような新米には大切なところは任せてもらえない。

 ランドリーでわかったことがひとつある……。

 お父様たちは、黒い服しか持っていないということ……。



「黒は汚れやしわが目立ちやすいんだ。白いシャツより慎重に扱わなきゃならないんだよ」

「大変ですね」

「まあ、洗剤の配合は間違えなくて楽だよ。ここでは白と黒しかないからね」

「どうして、黒だけなんでしょう?」

「二十年以上前に亡くされたお嬢様のことを思って、未だに黒しかお召しにならないそうだよ。

 それだけ大事なお嬢様だったんだろうねぇ」



 再会した日は、たまたまだと思ったお母様のドレス。

 黒は喪中や哀悼、そして悲しみを示す色。

 でも、お母様は黒をその年月と同じだけ身に着け続けている。

 話に聞くところによればお父様とお兄様も……。

 そのとき、キッチンの窓からダーチャさんが顔を出した。



「ちょいと、ラーラ、頼まれてくれるかい? 

 お庭にいる旦那様のためにお茶を頼まれたんだけど、他のメイドがみんな出払っているんだよ。あんた、できるかい?」

「――わ、私ですか!?」



 もしかして、お父様に会える……!

 一も二もなく、お茶のトレーを受け取った。

 同じ屋敷の中とはいえ、下級使用人が雇用主と顔を合わせることなどめったにない。

 この屋敷は人手が足りないと思っていたけれど、まさかここまでとは。

 でも、なんてラッキーなのかしら……!

 先日はたまたま直接お母様が私に気づいたけれど、下級使用人の採用は普通の家令や執事の裁量であることが多い。

 そして、屋敷の主人のお茶を出すという仕事は、執事や近侍などの上級使用人が行うのが当たり前。

 今回は場所が庭で、恐らく急を要しているので、そこまでこだわらないということのようだ。

 こんなこと普通はまずありえない。

 ――だからこそ、失敗は許されないわ。

 気を引き締めて、指定された場所へ向かった。



 ――ショキン! ショキン!

 小気味のいい音がする。

 あっ、あの、背中……。

 見間違えるはずもない。



「お、見ない顔だと思ったら、君はあれか。教会から来た新しいメイド見習い」

「お目にかかれて光栄でございます。ラーラと申します」

「やあ、助かった。手入れに精を出したら急に喉が渇いてきてね。バラは私の生きがいなのだ」



 年月を刻んだ頬や額のしわ。

 色を失った髪。

 それでも、骨格や笑い顔、剣で鍛えた立派な肩回りは、かつてのお父様の面影がしっかり残っていた。

 ――もしかして、私がバラが好きだったから?

 領主が庭師のまねごとなんて、本来ならおやりになるはずもないのに。

 駆け寄って、縋りついて、聞きてみたい。

 そんなことができるはずがないとわかっているから、気持ちを堪えて、ゆっくりとお茶を差し出した。

 くいっと勢いよく飲む姿。

 お母様によく注意されていた、懐かしいお父様の仕草。


「ふう、潤った……」

「見事な枝ぶりでございます。ダマスク、こちらはアルバでございましょうか?」

「……これは驚いた。ニーナが言っていた通り、孤児とは思えない口ぶりだ。教会で君を指南してくれた者があったのかな?」



 いいえ……。でも、お父様、あなたに指南していただきました……!

 その一言が言えたらいいのに。

 じわじわと気持ちが高まって、目が熱くなってくる。

 こんなところで粗相をしてはだめ。

 気持ちを入れ変えて、微笑んで見せた。

 ご令嬢はいつでも笑みを。

 お母様の教えは、どんなときも私に力をくれる。



「教会でいろいろと学びましたが、今はこのお屋敷での暮らしが私にたくさんのことを教えてくれます」

「……そうか。よく励みたまえ」

「身に余るお心遣い感謝いたします」

「……」



 丁寧にお辞儀をして、背を向けた。

 もっと話したい。

 もっとお側にいたい。

 もっとお父様の姿を見ていたい。

 だけど、これが伯爵家と使用人の距離。

 脚は前に進んでいるのに、心はいつまでもそこで足踏み。

 こうして言葉を交わせるなんて、こんな幸運はもうしばらくないわ。

 ああ、どうしましょう……。

 泣きそう……。

 手がふさがっていて、涙を拭くこともできない。

 このまま帰ったら心配されてしまうわ……。

 どこかでトレーを置くか、涙が渇くまで人気のないところで乾かさなければ。

 ちょうど柱の陰のくぼみがある。

 私はそこに身を隠すようにして壁のほうを向いた。

 ひんやりとした石の壁が、火照った頬を冷やしてくれた。



「こんなところでなにしているのかな?」



 ――この声っ!?

 慌てて振り向くと、やっぱり! お兄様!

 お兄様……、おっ、お髭が……!?

 印象が違いすぎて……、ちょっとびっくり……。

 死に別れたときは十八、今は三十九ですもの、変わっていて当たり前だわ……!

 でも、優しい目元や、ユーモアへの理解を滲ませる口元。昔とちっとも変わらない!

 懐かしさで、また目に涙が……。



「見ない顔だけど、新しい使用人? 迷ったんならキッチンはあっちだよ。

 それとも、友達のミスター壁(ウォール)とおしゃべりしていたのかな? 一見したところ彼、かなり無口そうだね」

「――くすっ……!」



 お兄様ったら!

 もう、すぐに笑わせるんだから。

 さっきまで泣きそうだったのに、私の心には太陽のぬくもりが広がっていた。



「ラーラと申します。先日からメイド見習いとしてお世話になっております」

「そう、それで仕事の不満をミスター壁(ウォール)に聞いていてもらったというわけか。

 彼って話は聞いてくれそうだけど、慰めてはくれなそうだよね? 友達がいがないんじゃないかい?」

「くすっ! おしゃべりしていたのではなく、泣きそうになっていたところをこの大きな身を挺して隠してくれていたのです。

 無口ですけれど、今の私にはいい友人です」

「ははっ! そうか、私には見つかってしまったけどね!」



 お兄様がカラッと笑った。

 あまりにも懐かしい笑顔に、心がきゅっとなる。



「それでどうして泣いていたのかな? 仕事が辛い? 君のような小さな子に屋敷勤めはなかなか大変だろう」

「いえ……。旦那様から身に余るお言葉をいただいたので感激していたのです」

「感激?」

「はい。涙を拭こうにも手がふさがっておりましたので、若旦那様とミスター壁(ウォール)のおかげで、こうして涙も乾きました。

 これでキッチンに戻れます。多分なお心遣いを頂きまして、誠にありがとう存じます」

「へえ……。母上が言ってたけど、本当に君、まるで大人みたいな喋り方をするね」

「屋敷の先輩方を見習って励んでおります」

「そうか……。偉いね、がんばって」



 にこっと笑ってお兄様が去っていった。

 驚いた! でも、うれしかった……!

 お父様だけでなく、お兄様にもお会いできたなんて。

 こんなうれしい偶然!

 思っていたよりとても元気そうだった。

 今日はなんていい日なの……!

 ただおふたりも、昔とはずいぶんお変わりになってしまった……。

 それに本当に黒をお召しに……。

 私の処刑と一家の亡命は、お父様とお母様とお兄様にとってそれほどまでに人生の大きな分かれ目だったのだわ……。

 ああ、私に贖えることができるのならなんだってするのに。

 でも、十二歳の孤児の使用人にできることなんて……。

 ……いいえ、なにを弱気になっているの。

 誠心誠意仕えると決めたじゃない。

 でなければ、生まれ変わった意味がないわ。

 今はやれることひとつひとつをやっていくだけよ。

 それがお父様とお母様とお兄様のためになると信じて……!

 いつの日か、お父様とお母様とお兄様が、黒を着なくても済むように……。



***



 その晩、ふと思い立って、ルームメイトのダーチャさんが寝静まってから私は『誓い』を暗唱した。

 文言を、絶対王からお父様たちに変えてみることを思いついたのだ。

 一日でも、一瞬でもいい。

 昔みたいな穏やかな日々を取り戻して差し上げたい。

 笑顔にしたい。
 
 笑わせたい。

 悲しみを忘れて人生を心地いいものにして欲しい。

 そのためなら、どんなことでも、役に立ちたい。

 私が前世の記憶を持って生まれ変わってこれたのは、きっとこのためなのだわ。

 ここに導かれたのはきっと、神様がそうせよとチャンスを下さったのだわ。

 きっとそうに違いない。

 いまこそ、本当の心を捧げるとき。

 今私の中にあるすべての真心。

 そのすべてを、お父様とお母様とお兄様に差し上げたいの……。



「我ラーラは、旦那様、奥様、若旦那様を生涯の主として忠誠を誓う。

 我が真心は、人を愛し思いやる心。

 この心を持って身を捧ぐは、この土地の平穏のため。

 プレモロジータ伯爵家は永久に人を愛し思いやる心を失わず、この土地の領主としてあり続けるだろう」



 光がふわふわと立ち昇る。

 けれど、どこへも行かず私の胸にとどまった。

 予想はしていたけれど……。

 やっぱり『誓い』は絶対王へでないと効果が出ないのね……。

 主と従者という立場は同じなのに。

 ……思ったようにはいかないものね。

 がっかりだけれど、仕方ないわ。

 私はいつものお祈りを済ませて、そのままベッドにもぐりこんた。

 まさか、隣のベッドで寝ているはずのダーチャさんが一部始終を見ていたなんて、思いもせずに……。




***



 半年がたったある日、突然呼び出された。

 お父様とお母様とお兄様が勢ぞろいしていた。

 どこか空気が張り詰めていて、妙な雰囲気。



「お呼びでしょうか」

「ラーラ、隠さずに答えてちょうだい。あなた、どこで『誓い』の言葉を知ったの?」



 え……? どきっと体が大きく揺れた。

 い、今、『誓い』と……?

 どうして、それが、お母様の耳に?



「ルームメイトの使用人が言っていたわ。ある日、あなたが寝る前にお祈りをすると、あなたの体がほのかに光り出したと。

 我が真心は、人を愛し思いやる心。

 あなたはいつ誰に、この『誓い』の言葉を教わったのかしら?」



 ま、まさか、ダーチャさんに見られていたなんて……!

 それがお父様たちの耳に……!?

 ど、どうしましょう、な、なんて言い訳を……!

 お母様の真剣な表情の隣で、お父様が慎重そうに私を観察している。

 いつもは微笑みを絶やさないお兄様の口元が、今は真一文字。

 お父様がすっくと椅子から立ち上がった。



「ラーラ、この際誰に聞いたかはいい。君がいつもやっているように、そのお祈りをやってみせてくれないか?」



 ど、ど、どうしましょう……。

 でも、断れるはずがない。

 けれど、ひょっとしたら、……万にひとつの可能性があるかもしれない……。

 私のことを、ミラだと気づいてくれるかも……!

 でも、これで怪しまれたら一巻の終わり。

 私は追い返されるどころか、不敬罪でもっと厳しく処される……。

 そうしたら、もうここには二度と……。

 お父様とお母様とお兄様には、二度と会えなくなってしまう……。

 まだなんの役にも立てていない、贖罪も恩返しもできていない。

 そのために生まれ変わったというのに!

 そんなの嫌……。

 そう思うと、自然と目がかすんできて……。

 もはやお父様たちの姿がはっきり見えない。

 それなのに、私の脳裏にはくっきりと三人の姿が浮かんでいる。

 懐かしい御屋敷で家族で過ごした楽しい時間。

 お父様の低く心地いい笑い声。

 お母様の柔らかな微笑み。

 お兄様の楽しいおしゃべり。

 心の従うままに、私は手を重ね、膝を折り、その場で『誓い』を口にしていた。

 もしも、これが最後なら、今私のもとにあるすべての真心が、目の前の三人に、どうか届きますように……!




「我ラーラは、旦那様、奥様、若旦那様を生涯の主として忠誠を誓う。

 我が真心は、人を愛し思いやる心。

 この心を持って身を捧ぐは、この土地の平穏のため。

 プレモロジータ伯爵家は永久に人を愛し思いやる心を失わず、この土地の領主としてあり続けるだろう」



 目を閉じていてもわかった。

 光が私の中から溢れている。

 そっと目を開けると、胸だけでなく、指の先までふんわりと光に覆われていた。

 光の行く先をじっと見つめた。

 この光が届けば……。

 お願い、届いて……!

 けれど、光はどこにも行かずに留まりつづけた。

 次第に治まってなにもなかったように消えてしまった……。

 ああ、やっぱり……。

 これではっきりした。

 私が『誓い』を失敗したのだわ……。

 私が未熟で力が足りなかったせいで……。

 ……だから、アドルフ様はあんなふうに……。



「ミラ!」



 突然、黒い腕に閉じ込められて、視界を失った。

 ――お母様……!?

 い、今……。



「ああっ! ……ああああ~っ!」



 お母様の慟哭が体を通して伝わってくる。

 かつての私のことを思い出しているのだわ……。

 こんなに悲しませてしまうなんて……!

 ああ、断るべきだった!

 追い出されても、『誓い』をやらなければよかった。

 お母様に抱かれたまま、呆然とする。

 身分の低い今の私では、お母様の背中をさすることもできない。

 こんなつもりじゃなかったのに。

 泣かないで、泣かないで、お母様……。

 これではお母様をさらに傷つけただけで、なにもいいところが……、本当に、ひとつもない。

 これでは私……。

 一体、なんのために生まれ変わったというの……?

 どうしたら、お父様とお母様とお兄様を救えるの?

 お母様の胸の中で、辛くなって、涙が出そうになる。

 そのとき、さらに外側からぎゅうっと強い圧がかけられた。

 熱さと窮屈さにもだえながらも、聞こえてきたのは……。

 お父様と、お兄様の声。



「ああ、そうだ! この子はミラだ!」

「どういうわけかわからないが、ラーラ、君はミラの生まれ変わり、そうなんだね!?」



 しばらくして圧が次第に解け、ようやく顔を上げることができた。

 気付くと、まるで三人の腕がつぼみを包む花弁のように私を抱いていた。

 お父様、お母様、お兄様が涙で頬を濡らしながら見つめていた。

 その瞳を見た瞬間、私は叫んでいた。



「……お、お父様、お母様、お兄様~っ!」

「ミ、ミラァ~ッ!」

「本当にミラなのね! ああ、よく顔を見せてちょうだい!」

「やっぱり! やっばりそうだったんだ!」



 そ、それじゃあ、お父様たち気付いて……?

 驚いて目を上げると、お父様、お母様、お兄様が口々に興奮してお話になる。



「花も咲いていないバラを見て、オールドローズの種類まで言い当てるなんて、ミラにしかできるはずないだろう!?」

「涙を拭く作法はわたくしが徹底して教えましたのよ。見間違えるはずがありませんわ!」

「くすっていう笑い方。それに、私のユーモアを拾ってすかさず返してくるなんて、教会で育てられた十二歳にできる芸当じゃない! そうだろ、ミラ!」



 ……ああ、信じられない……!

 嗜みも忘れて、声をあげて泣いた。

 私たちは抱き合って、お互いの顔を見て笑い、そしてまた泣いた。

 ああ、神様……!

 すべての命を照らす全能の光……!

 今、心からの感謝を捧げます! ありがとうございます!

 ありがとうございます……!



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