転落王子の愛願奉仕

彩月野生

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淫欲の神が欲するもの

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エリオ王子の処刑の話は様々な国に行き渡り、波紋を広げていた。
新王ヴァルドの力を示した形となり、一種の抑制力となったようだ。

そんな話を、エリオは昼下がりの庭園で聞いていた。

ミハイルが微笑んでいる。
エリオはミハイルと卓を挟み、向かい合って座っている状況だ。

――どうして、こんな事に。

あの日、エリオは大神官によって処刑されると告げられて、指示通りに偽の処刑を演じさせられた。
全てはヴァルドの為なのだと丸め込まれて……。

黄金色の茶を飲みつつ、ミハイルが口元をほころばせた。

「貴方とこうして、共に居られる事が嬉しいです」
「ミハイル、いやイシュダル」
「その名を呼ばれるのは、悪くはないな」

信じられない事実だが、今、目の前にいるこの男は神なのだ。
それも、淫欲の神。
それ故、大昔神官達によって封印された禍々しい存在である。

「ここが、神の国だなんて信じられないな」
「正確には神の国に通じる場所、といった所です。貴方の肉体を維持する為には、この場所で過ごすしかありませんから」
「……まさか、大神官と共謀しているとはな」
「彼はヴァルドへ負い目を感じている様子でしたからね、貴方がヴァルドの傍にいるのは、悪い影響を与えると考えていましたよ」

――それは、家族の仇の息子だから……。

エリオは両腕で身体をさすった。
この身はミハイルによって、不老長寿へと変化していた。
ミハイルの目的は、エリオ自身。
ヴァルドに復活させられた際、褒美として強靱な肉体、不老長寿の身体にしてやったというが、好みの生け贄を差し出せ、という約束をしていたという。

――それが、エリオなのだ。

ところが、ヴァルドが突然エリオは差し出せない、別の贄を用意すると言い始め、二人の間に亀裂が生じたらしい。

結果、ロルフも利用されてしまった。

――ロルフも、国や民を人質に取られては、どうする事もできないよな。

エリオの処刑はエリオの演技と、首が落ちる部分はミハイルの施した幻術によって生成され、各国に広まる事となった。

ふと、空になったカップを見つめる。
自分はもう、ヴァルドが生きている世界にはいない。

ずっと、彼を想いながら、この身を神に捧げて生きていかなければならない。
それが、ヴァルドを、自分の大切な者を守る最善の方法なのだ。

唇を噛むと、鉄の味が口の中に広がる。

「貴方の弟は安全な場所にロルフ王が匿ってくれているし、ヴァルドなら貴方の国を、立派に治めてくれるでしょう」
「ミハイル、どうして俺なんだ」
「時に神も、理屈の通用しない感情に突き動かされる事もあるのです」

ミハイルは、エリオの心も手に入れようとしていた。
肉体を弄ばれる最中、そんな必死さを感じたのだ。
どれだけ快楽を与えられようとも、ヴァルドへの想いを消せないエリオに苛立ちを覚えている様子だ。

「あひ……っ♡ ん、くう……♡」

ミハイルの腕と繋がっている触手に全身をなぶられ、尻孔の奥に突き入れられる激しい動きに喘ぐエリオは、果てる瞬間、奇妙な言葉を耳にする。

「ニルスとヴァルドが結婚されるそうだよ」

「……?」

今、ニルスと言ったか。それに、ヴァルドの名も。
エリオは寝台の上で上半身を起こす。目前にミハイルの手が掲げられ、光の帯が広がり、その中心に男二人と従者が映し出された。

ヴァルドとニルスが若い神官に付き添われ、何かの儀式に臨んでいる。
婚姻の義だ。

「バカな」

そう呟いて、ミハイルにくってかかった。

「ニルスにはクラートがいるんだぞ! あいつが、クラートが、ニルスを誰かにみすみす渡す筈がない!」
「ヴァルドが殺したようだよ」

「な」

混乱した頭でもう一度、二人の様子を見る。
この光景がミハイルの作り出した幻覚なのではないのか。
そんな可能性もあるが、確かめるには、実際にこの目で確認しに行かなければならない。

「信じ、られるか」
「仕方がありませんね、ならば、会いにいきましょうか」
「は!?」

どういう意味だと言わんばかりにミハイルを睨みつけるが、目の前のふざけた神は、いたって余裕の表情を浮かべている。

「ヴァルドが、貴方への執着を手放したのであれば、問題ないでしょう」

そう言って、肩を竦めると微笑んだ。
その目は暗く淀んでいた。
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