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一章【鬼神に取り憑かれし者】
一話
しおりを挟む淡い色の花弁が黒く染まりゆく。
陰陽師の卵の少年は、頭の中に響き渡る声に怯え、両耳を手の平で塞ぎ蹲っていた。
「やめろ! 話かけてくるな!」
〝お前は我を受け入れるしかない。分かっているだろう〟
「そ、それは……!」
〝いいのか、このまま我が奴に取り憑いてしまっても〟
「ダメだ!!」
〝ならば受け入れろ!!〟
鬼神が不気味な声で嗤い声を上げる。
「ううぅううっ」
地の底から響くような声に飲まれて、心臓が爆音を奏でて視界が回った。
意識を保っていられず、回る世界の中で泰正は仰向けに倒れ込み、身体に流れ込んでくる強烈な魂を感じながら失神した。
『泰正、必ず終わらせなさい』
『己を憎んではならないぞ』
「父上! 母上!」
鬼神に飲まれる、父と母の姿を、息子は泣きながら見ている事しか出来なかった。
二十五年後。
この日、平安京は闇に包まれていた。
魑魅魍魎によって異界への扉が開かれ、人々は暗黒に飲まれようとしていた。
安倍晴明を中心に一月にも及ぶ戦いに疲弊していた陰陽師たちは、ついに苦渋の選択をする――。
嵐の中、地面に足をぬいつけ呪を唱える陰陽師一族に向かって、安倍晴明はある願いを託す。
「良いか。私の力をうまく使うのだ」
「清明様!?」
肩に手を置かれた晴明の弟子は、師の覚悟を受け止めると涙する。
必死に止めようと声をかける暇もなく、晴明は空高く昇っていく。
その姿を目で追う二つの影があった。
「安倍殿!」
「清明!!」
「視素羅木殿! 紫倉宮殿! 私が一時おさえこむ!! 後は頼む!!」
「――っ!!」
晴明が異界の裂け目の向こうに飛び込むと同時に、数十名の陰陽師達は一斉に異界への裂け目へと呪符を放つ。
吹きすさぶ風と雷の轟音は、まるでこの世の終わりのような光景である。
陰陽師達は、視素羅木と紫倉宮を中心として陣を組み、精魂をこめて呪を唱え、想いの丈を叫ぶ。
『時(じ)、歪(わい)、裂(れつ)、封(ふう)! 急急如律令!!』
陰陽師達は魂の歪みと神の力を感じながら、ゆっくりと異界の裂け目が閉じていく様を見守る。
そして都は陰陽師達によって難を逃れ、平穏を取り戻したのだった。
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