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一章【鬼神に取り憑かれし者】
二話
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安倍晴明が消えて三年後。
桜の舞う都に男の絶叫が響き渡った。
視素羅木一族の統べる、視素羅木領のとある商人の屋敷にて。
主の男にまとわりつく小鬼が寄声を発して、まるでからかうように踊り狂っていた。
『ぎゃははははあ』
『あひゃひゃひゃ』
「やめ! やめてくれれえええ!! たす、たすけてええええ」
「森岳殿! 落ち着かれよ!」
「ひぎいいいい」
「紫倉宮殿!!」
主の妻が夫を助けてくれと泣きながら陰陽師――紫倉宮英心に懇願する。
英心はその呼びかけに応え、呪を唱え始めると、その四肢と手指から淡い光が溢れ出し、部屋が一瞬光で溢れた。
「炎(えん)、焔(ほむら)、槍(そう)、狼(ろう)、牙(きば)、杭(くい)、刃(が)、裂(れつ)、風(ふう)!!」
英心が気合いを込めて「破!!」っと叫んだ瞬間、小鬼達が苦しみの声をあげて、槍や牙、杭の形をした炎に貫かれ、バラバラに肉体を裂かれやがて霧散した。
肉がこげるようなニオイがして、夫妻は恐怖に恐れおののくと絶叫し、その場で震えて動けなくなる。
だが、小鬼はすべて消えていたので、我に返った夫妻は英心に向かって喜びと感謝の声をかけて泣き笑う。
「ありがとうござまいます!! ありがとうございます!!」
「さすが紫倉宮殿!!」
「いえいえ。偶然とはいえ、通りがかれて良かった」
その様子を、部屋の襖をすこし開けて観察していた視素羅木泰正は、かざしていた手鏡を懐にしまうと、別の鏡を取り出し、身なりを確認し整えてからようやく姿を現した。
襖を勢いよく開けたために彼らはすぐに泰正の存在に気付き、目を丸くする。
「視素羅木殿?」
「「泰正様!」」
「どうやら私の出る幕はないようだなあ。相変わらずのでしゃばりな奴め」
慌てる夫妻とは裏腹に英心は目を丸くしている。
泰正がわざとらしく何度もため息をつくと、やっと事態を把握した様子で深々と頭を下げた。
「視素羅木殿が対応される予定でしたか、これは失礼した」
「全くだ! 貴殿は何度私の領内で暴れれば気が済むのだ?」
「暴れるというのは心外ですな。私はただ、困っている人々を放って置けないだけ……」
「ともかく! ここは私の地なのだ! 早々に立ち去るがいい!」
「やれやれ」
ため息をついた英心が、夫妻と挨拶を交わして屋敷から出ていく。
その背中を見送る泰正の胸の内には、さまざまな思いが渦巻いている。
その感情を意識しないように顔面には冷たい表情を貼り付かせ、決して気持ちを悟られぬ様に、細心の注意を払う。
夫妻と短い言葉を交わすと、泰正も屋敷を立ち去った。
『いい加減、素直になれ』
帰り際に脳内に響いた、呆れがまざる言葉を、聞かぬふりをしてやり過ごす。
これが、泰正の日常なのだ。
桜の舞う都に男の絶叫が響き渡った。
視素羅木一族の統べる、視素羅木領のとある商人の屋敷にて。
主の男にまとわりつく小鬼が寄声を発して、まるでからかうように踊り狂っていた。
『ぎゃははははあ』
『あひゃひゃひゃ』
「やめ! やめてくれれえええ!! たす、たすけてええええ」
「森岳殿! 落ち着かれよ!」
「ひぎいいいい」
「紫倉宮殿!!」
主の妻が夫を助けてくれと泣きながら陰陽師――紫倉宮英心に懇願する。
英心はその呼びかけに応え、呪を唱え始めると、その四肢と手指から淡い光が溢れ出し、部屋が一瞬光で溢れた。
「炎(えん)、焔(ほむら)、槍(そう)、狼(ろう)、牙(きば)、杭(くい)、刃(が)、裂(れつ)、風(ふう)!!」
英心が気合いを込めて「破!!」っと叫んだ瞬間、小鬼達が苦しみの声をあげて、槍や牙、杭の形をした炎に貫かれ、バラバラに肉体を裂かれやがて霧散した。
肉がこげるようなニオイがして、夫妻は恐怖に恐れおののくと絶叫し、その場で震えて動けなくなる。
だが、小鬼はすべて消えていたので、我に返った夫妻は英心に向かって喜びと感謝の声をかけて泣き笑う。
「ありがとうござまいます!! ありがとうございます!!」
「さすが紫倉宮殿!!」
「いえいえ。偶然とはいえ、通りがかれて良かった」
その様子を、部屋の襖をすこし開けて観察していた視素羅木泰正は、かざしていた手鏡を懐にしまうと、別の鏡を取り出し、身なりを確認し整えてからようやく姿を現した。
襖を勢いよく開けたために彼らはすぐに泰正の存在に気付き、目を丸くする。
「視素羅木殿?」
「「泰正様!」」
「どうやら私の出る幕はないようだなあ。相変わらずのでしゃばりな奴め」
慌てる夫妻とは裏腹に英心は目を丸くしている。
泰正がわざとらしく何度もため息をつくと、やっと事態を把握した様子で深々と頭を下げた。
「視素羅木殿が対応される予定でしたか、これは失礼した」
「全くだ! 貴殿は何度私の領内で暴れれば気が済むのだ?」
「暴れるというのは心外ですな。私はただ、困っている人々を放って置けないだけ……」
「ともかく! ここは私の地なのだ! 早々に立ち去るがいい!」
「やれやれ」
ため息をついた英心が、夫妻と挨拶を交わして屋敷から出ていく。
その背中を見送る泰正の胸の内には、さまざまな思いが渦巻いている。
その感情を意識しないように顔面には冷たい表情を貼り付かせ、決して気持ちを悟られぬ様に、細心の注意を払う。
夫妻と短い言葉を交わすと、泰正も屋敷を立ち去った。
『いい加減、素直になれ』
帰り際に脳内に響いた、呆れがまざる言葉を、聞かぬふりをしてやり過ごす。
これが、泰正の日常なのだ。
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