陰陽師盲愛奇譚

彩月野生

文字の大きさ
2 / 79
一章【鬼神に取り憑かれし者】

二話

しおりを挟む
 安倍晴明が消えて三年後。

 桜の舞う都に男の絶叫が響き渡った。
 視素羅木一族の統べる、視素羅木領のとある商人の屋敷にて。
 主の男にまとわりつく小鬼が寄声を発して、まるでからかうように踊り狂っていた。

『ぎゃははははあ』
『あひゃひゃひゃ』
「やめ! やめてくれれえええ!! たす、たすけてええええ」 
「森岳殿! 落ち着かれよ!」
「ひぎいいいい」
「紫倉宮殿!!」

 主の妻が夫を助けてくれと泣きながら陰陽師――紫倉宮英心に懇願する。
 英心はその呼びかけに応え、呪を唱え始めると、その四肢と手指から淡い光が溢れ出し、部屋が一瞬光で溢れた。

「炎(えん)、焔(ほむら)、槍(そう)、狼(ろう)、牙(きば)、杭(くい)、刃(が)、裂(れつ)、風(ふう)!!」

 英心が気合いを込めて「破!!」っと叫んだ瞬間、小鬼達が苦しみの声をあげて、槍や牙、杭の形をした炎に貫かれ、バラバラに肉体を裂かれやがて霧散した。
 肉がこげるようなニオイがして、夫妻は恐怖に恐れおののくと絶叫し、その場で震えて動けなくなる。
 だが、小鬼はすべて消えていたので、我に返った夫妻は英心に向かって喜びと感謝の声をかけて泣き笑う。

「ありがとうござまいます!! ありがとうございます!!」
「さすが紫倉宮殿!!」
「いえいえ。偶然とはいえ、通りがかれて良かった」


 その様子を、部屋の襖をすこし開けて観察していた視素羅木泰正は、かざしていた手鏡を懐にしまうと、別の鏡を取り出し、身なりを確認し整えてからようやく姿を現した。

 襖を勢いよく開けたために彼らはすぐに泰正の存在に気付き、目を丸くする。

「視素羅木殿?」
「「泰正様!」」
「どうやら私の出る幕はないようだなあ。相変わらずのでしゃばりな奴め」

 慌てる夫妻とは裏腹に英心は目を丸くしている。
 泰正がわざとらしく何度もため息をつくと、やっと事態を把握した様子で深々と頭を下げた。

「視素羅木殿が対応される予定でしたか、これは失礼した」
「全くだ! 貴殿は何度私の領内で暴れれば気が済むのだ?」
「暴れるというのは心外ですな。私はただ、困っている人々を放って置けないだけ……」
「ともかく! ここは私の地なのだ! 早々に立ち去るがいい!」
「やれやれ」

 ため息をついた英心が、夫妻と挨拶を交わして屋敷から出ていく。
 その背中を見送る泰正の胸の内には、さまざまな思いが渦巻いている。

 その感情を意識しないように顔面には冷たい表情を貼り付かせ、決して気持ちを悟られぬ様に、細心の注意を払う。

 夫妻と短い言葉を交わすと、泰正も屋敷を立ち去った。

『いい加減、素直になれ』

 帰り際に脳内に響いた、呆れがまざる言葉を、聞かぬふりをしてやり過ごす。

 これが、泰正の日常なのだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...