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一章【鬼神に取り憑かれし者】
十五話
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泰正は、五条内にある英心の屋敷から賀茂忠行の屋敷へと移動して、奥の座敷へと閉じ込められた。
賀茂忠行は、安倍晴明の師であり、泰正と英心の師でもある。
高齢ではあるが、まだまだ現役で活躍する陰陽師だ。
英心は師に向かい深々と頭を垂れて、謝罪の言葉を吐き出す。
「此度は、私事にてご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませぬ」
「良いのじゃ。この件は、お主の両親との縁もある。顔を上げよ」
「は……」
顔を上げた泰正は、久しぶりに見た師が、思っていた以上に老けているのを見て、息を呑む。
この厳しい師は、昔から泰正には特に辛辣で、能無しなどと呼ばれていた。
そんな関係は、ある事がきっかけで変化した。
「お主の両親については残念でならぬ……あの時、夢に現れた姿を未だに忘れられぬ」
「……はい」
「泰正よ、やはり、まだ英心の事を想わずにはいられぬか」
「申し訳ございません……なので、同化した時に、封印の儀をお願いしたく……」
師はうむと頷き、腰を上げて泰正に歩み寄る。
肩に手を置かれ、顔を向けると力強く頷かれた。
「良いか。泰正、その時まで決して屋敷から出るな……お主の両親は、お主が鬼神に取り込まれ、怨霊になるのを何よりも心配しておった。儂が必ず封印してみせようぞ」
「あ、ありがとうございます……!」
『馬鹿なヤツだ。我と同化すればヤツを手に入れる事など容易いというのに』
「うぐ……っ!」
「泰正! いまの声は!」
「は、話しかけてはダメ、です」
全身に痛みが走り、うずくまり、意識を集中させて、鬼神を鎮めようと努める。
鬼神の意識は深く沈み、やがて沈黙した。
だが、脳内には呪いのように言葉が溢れている。
“愛しい男を手に入れろ”
“力ずくで奪え!”
“心が手に入らぬなら命を手中に収めよ”
「うぐ、ああああ゛」
「や、泰正!」
――ぐっ……! い、いかん! 声に、引っ張られるな……! 英心に、危害を、くわえるわけには……!
泰正は、英心を想う気持ちにつけこまれ、鬼神に取り憑かれてしまったのだ。
鬼神は、人間に取り憑くと、通常はその取り憑いた人間もろとも封印しなければ完全には鎮まらない。
泰正の両親は、力を出し尽くして泰正から鬼神を引き剥がしたが、やはり切り離す事はできず、死ぬ間際に、せめて泰正が鬼神と同化するのを遅らせようと術をかけた。
そして、すべてを終わらせろ――つまりは、視素羅木一族の血を絶たせろと望みを託した。
鬼つきは、人々に多大な悪影響を及ぼす。
泰正が英心への想いを消すことができたならば、鬼神が離れる可能性はあったが、泰正はとうとう英心への想いを消すことはできなかったのだった。
泰正の意識は遠のいて行った。
賀茂忠行は、安倍晴明の師であり、泰正と英心の師でもある。
高齢ではあるが、まだまだ現役で活躍する陰陽師だ。
英心は師に向かい深々と頭を垂れて、謝罪の言葉を吐き出す。
「此度は、私事にてご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませぬ」
「良いのじゃ。この件は、お主の両親との縁もある。顔を上げよ」
「は……」
顔を上げた泰正は、久しぶりに見た師が、思っていた以上に老けているのを見て、息を呑む。
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そんな関係は、ある事がきっかけで変化した。
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「……はい」
「泰正よ、やはり、まだ英心の事を想わずにはいられぬか」
「申し訳ございません……なので、同化した時に、封印の儀をお願いしたく……」
師はうむと頷き、腰を上げて泰正に歩み寄る。
肩に手を置かれ、顔を向けると力強く頷かれた。
「良いか。泰正、その時まで決して屋敷から出るな……お主の両親は、お主が鬼神に取り込まれ、怨霊になるのを何よりも心配しておった。儂が必ず封印してみせようぞ」
「あ、ありがとうございます……!」
『馬鹿なヤツだ。我と同化すればヤツを手に入れる事など容易いというのに』
「うぐ……っ!」
「泰正! いまの声は!」
「は、話しかけてはダメ、です」
全身に痛みが走り、うずくまり、意識を集中させて、鬼神を鎮めようと努める。
鬼神の意識は深く沈み、やがて沈黙した。
だが、脳内には呪いのように言葉が溢れている。
“愛しい男を手に入れろ”
“力ずくで奪え!”
“心が手に入らぬなら命を手中に収めよ”
「うぐ、ああああ゛」
「や、泰正!」
――ぐっ……! い、いかん! 声に、引っ張られるな……! 英心に、危害を、くわえるわけには……!
泰正は、英心を想う気持ちにつけこまれ、鬼神に取り憑かれてしまったのだ。
鬼神は、人間に取り憑くと、通常はその取り憑いた人間もろとも封印しなければ完全には鎮まらない。
泰正の両親は、力を出し尽くして泰正から鬼神を引き剥がしたが、やはり切り離す事はできず、死ぬ間際に、せめて泰正が鬼神と同化するのを遅らせようと術をかけた。
そして、すべてを終わらせろ――つまりは、視素羅木一族の血を絶たせろと望みを託した。
鬼つきは、人々に多大な悪影響を及ぼす。
泰正が英心への想いを消すことができたならば、鬼神が離れる可能性はあったが、泰正はとうとう英心への想いを消すことはできなかったのだった。
泰正の意識は遠のいて行った。
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