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一章【鬼神に取り憑かれし者】
二十一話
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蘆屋道満……その名を知らぬ陰陽師はいない。
そう断言できるのは、安倍晴明の好敵手
といえる陰陽師だからだ。
この所姿を見ないが、どこかに潜伏して悪巧みをしているのではと、噂話は絶えない。
――まさか、奴が絡んでいるとは。
何故、大津皇子を利用したのかは当人に聞かねば分からないが、今は、皇子を救う為にも、泰正自身が意思を強く持たねば。
泰正は皇子に向かい合うと、まっすぐに目を見据えた。
皇子の抱く負の感情が、泰正の心を貫かんばかりに、黒い靄となって襲いかかる。
「泰正殿、気をしっかり持たれよ」
「言われなくとも……!」
蘆屋道満に利用された魂は、決して報われない――この話が事実であるなら、逃げるわけにはいかないと、鬼神と対峙すると決意したものの、やはり恐怖心は拭えない。
――寒い……からだの震えが止まらぬ。
いつの間にか金縛りにあい、呼吸さえままならない。
“泰正殿”
――晴明殿……!
脳内に晴明の声音が直接響いて、神経が刺激される。
“恐れてはなりませぬ……皇子の声を聞くのです”
――声を……。
泰正は大津皇子の声を聞くため、胸元に手を置くと、呼吸を整える。
視線を皇子に向ければ、彼には殺気こそ感じられないが、強い憤りの感情を感じて、背筋がぞくりと震えた。
皇子が口を開き、泰正に吠える。
『あの男に気持ちを伝えろ!』
「英心にか……」
『そうだ! 私のように後悔したくなければ、己の欲望に従うのだ!』
拳を握りしめた皇子は、恐ろしい鬼神の笑みを浮かべ、泰正の首に手を伸ばす。
“泰正殿、恐れてはならぬ……! 貴方の本心を、皇子にぶつけると良い”
――私の、本心を……。
首を、無骨で大きな鬼の手に掴まれた瞬間、泰正は声を放つ。
「私は、英心に想いを伝えるつもりはない」
その言葉に、鬼神の姿のまま、皇子は頬をピクリとさせて、血走る目を見開いた。
『我の言葉が聞こえなかったのか!』
「私は、想い人の性格は理解しているつもりだ。もし、私の想いを彼が知れば、責任を取ると言いだしかねない……彼には苦しんで欲しくないのだ。私が勝手に奴を想っているだけの事……大津皇子、貴方なら分かって頂けるのではないか」
『……っ』
皇子は鬼神の姿で押し黙ると、泰正から手を放す。
頭を抱えて呻く姿は、人に戻っていた。
呻きながらブツブツと呟いている。
「ならば、お前も私とおなじように、想いをとじこめ、後悔しながら世を去るというのか!」
「皇子、貴方が姉上に気持ちを話さなかったのは、姉上の立場やその想いを慮っての事ではないのか」
泰正は話かけながら、蹲る皇子に歩を進めた。
――でも、貴方と私は徹底的に違う。
尚も語りかける。
「貴方が羨ましい」
「……何?」
顔を上げた皇子に、心の底からの言葉をかける。
「貴方は、愛した人に愛されていたのだから」
皇子は、目と口を大きく開くと、はらはらと涙を流し、やがてゆっくりと起き上がり、泰正の手を握りしめた。
何も言わず、無言で見つめ合う。
泰正は瞳を細めて、口元を緩めた。
皇子は瞳を伏せると、泰正の手を放し、ひとこと囁いた。
「お前の愛には敵わない」
その言葉と共に、皇子の姿は、光に飲まれて、消えていった。
そう断言できるのは、安倍晴明の好敵手
といえる陰陽師だからだ。
この所姿を見ないが、どこかに潜伏して悪巧みをしているのではと、噂話は絶えない。
――まさか、奴が絡んでいるとは。
何故、大津皇子を利用したのかは当人に聞かねば分からないが、今は、皇子を救う為にも、泰正自身が意思を強く持たねば。
泰正は皇子に向かい合うと、まっすぐに目を見据えた。
皇子の抱く負の感情が、泰正の心を貫かんばかりに、黒い靄となって襲いかかる。
「泰正殿、気をしっかり持たれよ」
「言われなくとも……!」
蘆屋道満に利用された魂は、決して報われない――この話が事実であるなら、逃げるわけにはいかないと、鬼神と対峙すると決意したものの、やはり恐怖心は拭えない。
――寒い……からだの震えが止まらぬ。
いつの間にか金縛りにあい、呼吸さえままならない。
“泰正殿”
――晴明殿……!
脳内に晴明の声音が直接響いて、神経が刺激される。
“恐れてはなりませぬ……皇子の声を聞くのです”
――声を……。
泰正は大津皇子の声を聞くため、胸元に手を置くと、呼吸を整える。
視線を皇子に向ければ、彼には殺気こそ感じられないが、強い憤りの感情を感じて、背筋がぞくりと震えた。
皇子が口を開き、泰正に吠える。
『あの男に気持ちを伝えろ!』
「英心にか……」
『そうだ! 私のように後悔したくなければ、己の欲望に従うのだ!』
拳を握りしめた皇子は、恐ろしい鬼神の笑みを浮かべ、泰正の首に手を伸ばす。
“泰正殿、恐れてはならぬ……! 貴方の本心を、皇子にぶつけると良い”
――私の、本心を……。
首を、無骨で大きな鬼の手に掴まれた瞬間、泰正は声を放つ。
「私は、英心に想いを伝えるつもりはない」
その言葉に、鬼神の姿のまま、皇子は頬をピクリとさせて、血走る目を見開いた。
『我の言葉が聞こえなかったのか!』
「私は、想い人の性格は理解しているつもりだ。もし、私の想いを彼が知れば、責任を取ると言いだしかねない……彼には苦しんで欲しくないのだ。私が勝手に奴を想っているだけの事……大津皇子、貴方なら分かって頂けるのではないか」
『……っ』
皇子は鬼神の姿で押し黙ると、泰正から手を放す。
頭を抱えて呻く姿は、人に戻っていた。
呻きながらブツブツと呟いている。
「ならば、お前も私とおなじように、想いをとじこめ、後悔しながら世を去るというのか!」
「皇子、貴方が姉上に気持ちを話さなかったのは、姉上の立場やその想いを慮っての事ではないのか」
泰正は話かけながら、蹲る皇子に歩を進めた。
――でも、貴方と私は徹底的に違う。
尚も語りかける。
「貴方が羨ましい」
「……何?」
顔を上げた皇子に、心の底からの言葉をかける。
「貴方は、愛した人に愛されていたのだから」
皇子は、目と口を大きく開くと、はらはらと涙を流し、やがてゆっくりと起き上がり、泰正の手を握りしめた。
何も言わず、無言で見つめ合う。
泰正は瞳を細めて、口元を緩めた。
皇子は瞳を伏せると、泰正の手を放し、ひとこと囁いた。
「お前の愛には敵わない」
その言葉と共に、皇子の姿は、光に飲まれて、消えていった。
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