陰陽師盲愛奇譚

彩月野生

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二章【愛憎の果てに】

六話

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 異空間にある屋敷にて、安倍晴明と蘆屋道満は対峙していた。
 晴明は、下卑た笑い声を上げた道満に微笑を浮かべる。

 道満は笑うのをやめて、両手をそれぞれの袖の中にひっこめ、長い黒髪を揺らした。
 晴明を睨みつけ、頬に手を伸ばそうとするが、間に張られた結界に弾かれる。

「……チッ、小賢しい真似を」
「それはこちらの言葉だ。あのような手をつかって襲いに来るとは……」
「フン……だが」

 道満が触れた部分から、結界にヒビが入り壊れていく。
 完全に壊れた瞬間、すばやく道満に術をかけられ、晴明は自分の意思で身体を動かせなくなる。

 ――まあ、想定していた事態だが。

 特に焦りはせずに道満を見やると、奴は肩を揺すり、喜色満面だ。

「……ハハッ、こ、これで……お前は己の物だ!!」
「さて。私をどうするつもりかな」
「人形にしてやる。お前は、己の物だ!!」

 血走りながら叫ぶ道満を見て、晴明は実に愉快な気分に陥る。

 ――お前は、世話の焼ける男だ。


 天照氏の屋敷に連れ込まれた泰正は、頭を垂れて長に挨拶をした。

「此度はご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませぬ」
「まっておったぞ~泰正! 顔をあげよ!」
「はっ」

 指示通りに顔を上げた泰正は、式神の膝の上に座る子供に微笑む。

 ――やはり、昔から変わらぬな。緋那殿は。

 花祭の時は天狗の面を被り、終始無言であった為、こうして顔を拝見するのは数年ぶりであった。

 丸くて大きな目と、屈託のない笑顔には、いつも癒やされていた。

「まさかおまえを、匿う時がくるとはな!!」
「ははっ面目ない」
「緋那様、泰正様は大変な目にあわれたのです。蓮は、魔鏡師の主としての緋那様を頼りにしているのです」
「うむ! 紅紗、わかっておる」

 緋那は膝からぴょんと降りて、泰正に歩み寄り、頬に手を添える。
 小さな手のひらは温かく、覗き込む大きな目には吸い込まれそうだ。

「鬼神に長年取り憑かれた肉体は弱っておるのじゃ、しばしワシの傍で養生するが良い」
「はい。ありがとうございます……」

 息をつくと「どうしたのじゃ」と訊かれ、肩をすくめて答えた。

「いえ……長い間、鬼神に憑かれていたので、今、身軽に感じているのが不思議で……晴明殿に助けられたのに、申し訳ない……」
「いったい何をいっておるのじゃ!? お主はもっと笑うべきじゃ!」
「笑う?」
「そうじゃ! 状況が落ち着けば、英心と一緒になれるかもしれぬぞ!」 
「……グホッ」

 直接的な言葉に衝撃を受け、泰正は咳き込み、紅紗が笑う声がやけに耳に響いた。
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