陰陽師盲愛奇譚

彩月野生

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二章【愛憎の果てに】

五話

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 地に叩きつけられ、泰正は痛みに呻きながら、腕に抱えていた英心の様子を確認する。
 口元に手のひらを当てて、息をしているのがわかり、息をついた。

「泰正さん! 英心さん!」
「蓮!」

 駆け寄る男子を見て、彼はまごうことなき蓮だと視認して、口元を緩める。
 蓮は英心を見つめ、頷くと話始めた。

「英心さんは大丈夫です。もうすぐ忠行さんが戻ってくる筈」
「師匠に預けるのか? 英心は、鬼に憑かれたのではないのか?」
「もう大丈夫です、それより、泰正さんはしばらく主の元で身を潜めていてください」
「なんだと?」
「……先輩が、泰正さんを利用しようと考えてます」

 顔を曇らせて答えた蓮は、泰正に英心を寝かせるように伝えた後、付いてくるようにと促す。
 彼の後を追う泰正は、裏庭に歩を進める。
 そこには、顔見知りの女性が立っていた。
 天照一族の式神、紅紗である。

 紅紗は泰正に一礼をすると、蓮に目配せして、息を吐き出した。

「!?」

 泰正は、全身に風がまとまわりつくような感触にとまどうが、紅紗に腕を掴まれて引っ張られる。

 みるみる内に景色が変わりゆき、瞬く間に、別の場所に移された。
 軽くめまいがして、ふらついた足に力を入れて倒れずに済む。

 見上げると、見覚えがある屋敷の門があり、小さく声をあげた。

「天照氏の屋敷か」


 忠行は屋敷に残った蓮と共に、鏡の間の封印に勤しんでいた。
 集中力の限界まで術を行使して、封印がおわる頃には汗だくで膝をついた。
 心配した蓮に肩を支えられて、訊ねる。

「お主の言っていた男子が、英心を操っていたのか」
「道満も力を貸していたと思いますが、彼の思惑でしょう」
「そうか」

「道満……だと」

 掠れた低い声音の方に目を向けると、英心が目を覚まして床に座り込んでいた。
 鏡の間の封印を優先した為、放置せざる負えなかったのだが、目の焦点もしっかりしているし、問題はなさそうだ。

 忠行に目を向けた英心は、問いかけてきた。

「師匠、泰正は……」

 忠行は内心で息を呑む。
 蓮に視線を向けると、唇を震わせているのを見て、話あっていた通りに伝える。

 “泰正は亡くなった”と。


 英心は、師の口からはっきりと聞いたせいか、呆然として尻餅をついた。
 その様子に疑念を抱く。

「お前は道満に、泰正の死への絶望に、付け込まれたのではないのか」
「……はい、泰正が死んだのは、分かっておりましたが……師に問わずにはおられず……」

 そう言葉を濁し、英心は黙り込んだ。

 忠行は思った以上に英心が、衝撃を受けていたのだと改めて思案する。

 ――真実を知らせなければ、こやつは自害しかねん。

 だが、こちらにも事情があるのだ。

「英心」
「はい」
「鏡の向こうで、晴明が道満と戦っておる……鏡の封印を強化する事が手助けにななるのだ。ここにしばし残れ」

 英心は目を丸くして、蓮に顔を向けた。
 蓮は瞬くと、率直に告げる。

「晴明さんと道満が、決着をつける事が、この都を守る事に繋がるんです!」

 力強い言葉に、忠行と英心は視線を交わした。
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