陰陽師盲愛奇譚

彩月野生

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二章【愛憎の果てに】

四話

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 英心は無表情で清明の前に降りたち、片腕に抱えている男を放り投げた。
 その男は、師である忠行であった。

 泰正の目にも、彼は正気ではないとわかる。

 ――清明殿、どうでる!?

 今すぐにでも飛び出したいが、指示をもらえない限り、勝手には動けない。

 泰正は英心から目が離せず、晴明の所作には注意が向けられなかった。
 鏡を覗き込み、歯噛みする。

 ――英心……! 正気に戻れ!

 心の内で英心に必死に呼びかけるが、彼に届くはずもなく、虚しさがこみ上げた。

 ――例え、お前の意思で道満に付いたのだとしても……操り人形とは……己が恥ずかしくないのか!

 その時、英心が何かに当てられ、後方に吹き飛んだ。
 暗闇に消えた英心を見て「あっ」と、泰正は思わず声を上げる。

 今のは、晴明の術だ。
 晴明は道満と絶妙な距離を取りつつ、英心に呪符を投げつけたのだ。

「来る!」

 ――!?

 晴明の叫びが終わるやいなや、英心が消えた闇から巨大な鬼が出現した。

 泰正は、その鬼が英心なのだと瞬時に理解する。

「英心! 正気に戻れ!」

 いてもたってもいられず、泰正は鏡に体当りして、突き破った。

 晴明と道満の間に転がり出た泰正は、巨大な鬼に向かって呪符を投げつけるが、火がついて消し炭になる。

 ――歯が立たない!

「泰正殿! 気をつけよ!」

 晴明の叫びにハッとして、襲いくる鬼の大きな手から転がりながら避けた。

『晴明もろとも死ネエエエ!!』

 憎悪に満ちた怒声が空間を切り裂き、鼓膜が破れそうだ。

「う、う……ぐ」
「破!」

 晴明の大きな声が、一瞬鬼の動きを止めた。
 呪符が浮かび上がり、燃えている。  
 泰正は目を瞠った。

「晴明! 邪魔をするな!」
「道満!」

 ――いかん!

 晴明に襲いかかる道満をとめるべく、泰正は術の行使を試みるが、鬼が叫ぶ声に気をそらされてしまう。

 鬼は大きくのげぞり、燃え盛る呪符と共にくずおれた。
 みるみるうちに、英心の姿に戻っていく。

「英心!」

 泰正は英心に駆け寄ると、抱き上げる。
 息はしているようだ。
 安堵したら、誰かに肩を掴まれて顔を向ける。
 そこには、傷まみれで痛々しい姿の師が膝をついていた。

「師匠!」
「脱出するぞ……!」
「し、しかし晴明殿が」

 言い終わるより前に、腕を引っ張られて、暗闇に向かって身体を思い切り押されてしまう。

「わっ」

 英心を抱きかかえながら、迫る巨大な鏡に飛び込んだ。
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