陰陽師盲愛奇譚

彩月野生

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終章【心を紡ぎ我が世は華やぐ】

十話

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 伊勢神宮から出立した泰正は、英心と共にある場所に赴いていた。
 池に浮かぶ阿弥陀如来の宮殿を連想させる、見事な建築物を眺めて拝む。

 中には入れない為、遠目から眺めるだけだが、充分だ。
 壮麗な景観に心が満たされた泰正は、英心に行こうと声をかけようとしたのだが、彼の瞳が池に注がれているのを知って、視線を追う。
 そこには小舟が浮かび、何か白い物が乗っていた。
 泰正は、このような池に小舟がある事実に驚愕する。

「な、何故舟が?」
「誰かが乗っている!」
「まさか!」

 白い影は、狩衣をまとう男子であった。
 腕の中には、幼子を抱いている。
 泰正達の前に小舟はとまり、男子は微笑み、無言で幼子を差し出す。 

 泰正は、英心と視線を交わして頷きあう。
 幼子は英心に手渡され、小舟に残る男子は、微笑むと一言告げた。

「大切に育てるのだぞ」

 背を向けた男子には、ふさふさの白い尻尾がついていた。

 幼子を突然保護する状況になった二人は、ひとまず宿坊を頼り、一泊する事にする。
 快く受け入れてくれた住職に感謝して、部屋の隅で寝かせた幼子を観察した。

 白く上質な衣服に、透き通るような肌。
 泰正は英心と小声で話し合う。

 やはり、常人とは違う。

「なあ、泰正」
「なんだ?」
「この子を、その……我らの子として育てないか?」
「英心……」

 幼子を間に入れて、布団の上に寝転がっていた二人だが、この縁を無碍にはできぬと感じていた。
 二人の想いは同じだ。

 泰正は頷くと、頬を緩める。
 英心も明るい表情となり、顔を綻ばせた。

 数日後、都に戻った二人は、清明に幼子を見てもらっていた。

 清明は幼子の頬に指先で触れると、軽く頷く。

「喋らぬが、病気ではない様子だ」
「私と英心にはきちんと話します」
「うん……さて、お前は奇妙な男子だな。名は?」

 彼はキョトンとしたが、清明に向かって、はっきりと答えた。

「永響」
「……誠か」

 清明の問いかけに泰正は頷くと、英心に視線を向ける。
 英心は、子供の永響の頭を撫でつつ、預かった経緯を話した。

 実は、宿坊した寺に、斎王の使者が訪れて、文を手渡されていたのだ。
 その文を清明に見せた。

 “泰正様、英心様へ”
 “私は、おふた方の舞を見ることはできませんでしたが、恐らく泰正様が舞っていた時、ある光景が脳裏に浮かびました”
 “白い狐が、幼い男子に何者かの魂を入れたのです”

「狐……!?」

 清明の顔色が明らかに変わる。
 泰正と英心は、視線を交わし、清明の所作に注視した。
 少しの間の後、清明は深いため息をつくと、頭を振る。
 心底呆れたという態度だ。

「清明殿?」

 英心の呼びかけに、清明は文をたたんで寄越した。
 二人に向き直り、声をかける。

「要するに、この男子は、永響の生まれ変わりであり、そのものというわけだ」

 はっきりと告げられたので、泰正は逆に安堵を覚えて息を吐き出した。
 英心と共に、この先について考えを述べる。
 清明は酒を煽りながら、意見を話す。

「この子が別物にならぬ様、愛情を注ぐ事が重要だな。己で浄化がいつでもできるように、やはり陰陽師として育てるのが良いが……名を改めて付けてやると良いな」
「名を?」
「うん」

 瞬く英心に問われ、清明は微笑して話を続けた。

「例の狐の所業については、私が謝ろう……申し訳なかった」
「そんな」
「清明殿!?」

 深々と頭を下げる清明に、二人は慌てるが、同時に息を呑む。

 ……狐の代わりに、清明が謝ったという事は……。

 硬直した二人を子供永響は、目を丸くして眺めていた。
 清明は笑いをこらえようとしたのか、二人から顔を背けて扇子を広げた。


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