9 / 31
第一章〈出会い〉
9
しおりを挟む
ザンに会いに行く予定が狂いしかも、面白くも無い話しを延々と聞かされて怒りが爆発寸前。
ライヤの性格上ぶん殴って逃げてしまえば終わりの筈なのに、そうできないのは相手の素性に関係している。
〝実家〟に深く関わっているスーツの男は、ライヤを連れ戻しに来ている使者だ。
「親父は出て行けっていってただろ」
「それは本心ではありません」
「実際別のヤツに継がせるって言ってたじゃねぇか」
長時間の談義に怒りを通り越しうんざりしたライヤは、早くこの男を諦めさせようと口実を頭の中で探す。
良い答えが出て来なくてずるずると会話を長引かせてしまったのだ。
もう溜息しか出て来ないライヤに、追い打ちをかける一言をスーツの男は呟く。
「貴方が住んでいる場所、特定しましたからね」
「――は?」
「最初この市場で貴方を見かけた時、近くの町にも探しに行ったんです。町は大きく分けて全部で三つほど。そのすべての町を調べてようやくライヤさんが住んでいる場所を見つけたんです」
「……で?」
「同居人がいますよね。しかも男性と」
そこまで解っているのか。とライヤはしばし沈黙する。
一体どこまで調べているのかは知らないが、ある秘策が思い浮かんだ。
口元を一瞬緩めるが男には判断できない。
「なんだ知ってんのか」
「はい?」
「あいつ俺の〝恋人〟」
「はい!?」
やはりそこまでは知らなかった様で、見えないサングラス越しの瞳は大きく見開かれている事だろう。
ライヤは心の底から思い詰めた様な口ぶりで続きを語る。
「この町に来て世話になってさ。男だし眼中になかったけど、だんだん惹かれていってさ」
「そ、それは」
「たぶん俺より年上だろうけど。なんか危なっかしくてほっとけなくて気が付いたら好きになってた」
大分わざとらしい表情で訴えたので、嘘だとバレるかと冷や汗を掻いたが上手くいったようだ。
「本気、ですか」
「ああ。だから親父には戻れないって言ってくれ」
様子からして四六時中見張っていた訳ではないようだ。
ライヤとアシュが一緒に住んでいる、把握している事実はそれだけ。
だからどうにか救われた。
行為まで見られていたらこの男の態度はもっと厳しかっただろう。
考え込んでいる隙にライヤはそっとその場を後にした。
戸惑った声がかけられたが無視する。
すっかり身体が冷えきった。
どんな行動を取るか解らないのでまっすぐ帰る事に決めた。
浅い眠りから目を覚ましたアシュは、ライヤの話しをぼんやりと聞いていた。
「そいつが来たら俺の恋人だって言え」
「それってなんで?」
「いいからそう言え! そいつがこなくなってもこれからは誰かに話すときも……あいつ、ザンにもそう言え!」
「……よく解らないんだけどどうして?」
「俺の都合だ。ほとぼりが醒めるまでお前、何処にも行くなよ? 俺がここを出て行くときも暫くは一緒だからな!」
勝手な事を言い放つライヤにアシュは腑に落ちない表情を浮かべる。
それをごまかすかの様にライヤはアシュの唇を自身のそれで塞ぐ。
頭を撫でる様に掴み舌をなんども絡める。
やがて離れるとアシュは苦しそうに呼吸を繰り返した。
何やら複雑な状況になってしまったようだ。
それもアシュには訳が解らないまま。
ライヤはザンには会っていないようで、そのスーツの男と会っていたらしい。
詳しくは語ってくれず、彼が訪ねて来るような事があったら、ライヤとの関係は恋人同士だと言えと命令された。
アシュの気持ちからすれば良い事なのかも知れない。
でも、それは偽りの答えだ。
ライヤはそもそもアシュを恋愛感情の目で見てはいないのだから。
そして愛や恋を理解できていない。
アシュはそれを教えてあげられる存在ではない。
憂鬱な気分でアシュは朝を迎えた。
そんな事件がきっかけでアシュは監禁から解放された。
大した期間ではないが、仕事を辞める事にまでなったアシュとしてはとても長い期間に思えた。
「あいつんとこに行くぞ」
「え? もしかしてザン?」
「ああ。周囲に言っておかないとな」
ライヤの性格上ぶん殴って逃げてしまえば終わりの筈なのに、そうできないのは相手の素性に関係している。
〝実家〟に深く関わっているスーツの男は、ライヤを連れ戻しに来ている使者だ。
「親父は出て行けっていってただろ」
「それは本心ではありません」
「実際別のヤツに継がせるって言ってたじゃねぇか」
長時間の談義に怒りを通り越しうんざりしたライヤは、早くこの男を諦めさせようと口実を頭の中で探す。
良い答えが出て来なくてずるずると会話を長引かせてしまったのだ。
もう溜息しか出て来ないライヤに、追い打ちをかける一言をスーツの男は呟く。
「貴方が住んでいる場所、特定しましたからね」
「――は?」
「最初この市場で貴方を見かけた時、近くの町にも探しに行ったんです。町は大きく分けて全部で三つほど。そのすべての町を調べてようやくライヤさんが住んでいる場所を見つけたんです」
「……で?」
「同居人がいますよね。しかも男性と」
そこまで解っているのか。とライヤはしばし沈黙する。
一体どこまで調べているのかは知らないが、ある秘策が思い浮かんだ。
口元を一瞬緩めるが男には判断できない。
「なんだ知ってんのか」
「はい?」
「あいつ俺の〝恋人〟」
「はい!?」
やはりそこまでは知らなかった様で、見えないサングラス越しの瞳は大きく見開かれている事だろう。
ライヤは心の底から思い詰めた様な口ぶりで続きを語る。
「この町に来て世話になってさ。男だし眼中になかったけど、だんだん惹かれていってさ」
「そ、それは」
「たぶん俺より年上だろうけど。なんか危なっかしくてほっとけなくて気が付いたら好きになってた」
大分わざとらしい表情で訴えたので、嘘だとバレるかと冷や汗を掻いたが上手くいったようだ。
「本気、ですか」
「ああ。だから親父には戻れないって言ってくれ」
様子からして四六時中見張っていた訳ではないようだ。
ライヤとアシュが一緒に住んでいる、把握している事実はそれだけ。
だからどうにか救われた。
行為まで見られていたらこの男の態度はもっと厳しかっただろう。
考え込んでいる隙にライヤはそっとその場を後にした。
戸惑った声がかけられたが無視する。
すっかり身体が冷えきった。
どんな行動を取るか解らないのでまっすぐ帰る事に決めた。
浅い眠りから目を覚ましたアシュは、ライヤの話しをぼんやりと聞いていた。
「そいつが来たら俺の恋人だって言え」
「それってなんで?」
「いいからそう言え! そいつがこなくなってもこれからは誰かに話すときも……あいつ、ザンにもそう言え!」
「……よく解らないんだけどどうして?」
「俺の都合だ。ほとぼりが醒めるまでお前、何処にも行くなよ? 俺がここを出て行くときも暫くは一緒だからな!」
勝手な事を言い放つライヤにアシュは腑に落ちない表情を浮かべる。
それをごまかすかの様にライヤはアシュの唇を自身のそれで塞ぐ。
頭を撫でる様に掴み舌をなんども絡める。
やがて離れるとアシュは苦しそうに呼吸を繰り返した。
何やら複雑な状況になってしまったようだ。
それもアシュには訳が解らないまま。
ライヤはザンには会っていないようで、そのスーツの男と会っていたらしい。
詳しくは語ってくれず、彼が訪ねて来るような事があったら、ライヤとの関係は恋人同士だと言えと命令された。
アシュの気持ちからすれば良い事なのかも知れない。
でも、それは偽りの答えだ。
ライヤはそもそもアシュを恋愛感情の目で見てはいないのだから。
そして愛や恋を理解できていない。
アシュはそれを教えてあげられる存在ではない。
憂鬱な気分でアシュは朝を迎えた。
そんな事件がきっかけでアシュは監禁から解放された。
大した期間ではないが、仕事を辞める事にまでなったアシュとしてはとても長い期間に思えた。
「あいつんとこに行くぞ」
「え? もしかしてザン?」
「ああ。周囲に言っておかないとな」
0
あなたにおすすめの小説
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
誰かの望んだ世界
日燈
BL
【完結】魔界の学園で二年目の学園生活を送るイオは、人知れず鶯色の本をめくる。そうすれば、必要な情報を得ることができた。
学園には、世界を構成するエネルギーが結晶化したといわれる四つの結晶石≪クォーツ≫を浄める、重要な家系の生徒が集っている。――遥か昔、世界を破滅に導いたとされる家系も。
彼らと過ごす学園生活は賑やかで、当たり前のようにあったのに、じわじわと雲行が怪しくなっていく。
過去との邂逅。胸に秘めた想い――。
二度目の今日はひっそりと始まり、やがて三度目の今日が訪れる。
五千年ほど前、世界が滅びそうになった、その時に。彼らの魂に刻まれた遺志。――たった一つの願い。
終末を迎えた、この時に。あなたの望みは叶うだろうか…?
――――
登場人物が多い、ストーリー重視の物語。学校行事から魔物狩り、わちゃわちゃした日常から終末まで。笑いあり涙あり。世界は終末に向かうけど、安定の主人公です。
2024/11/29完結。お読みいただき、ありがとうございました!執筆中に浮かんだ小話を番外編として収めました。
寡黙な剣道部の幼馴染
Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
愛おしい、君との週末配信☆。.:*・゜
立坂雪花
BL
羽月優心(はづきゆうしん)が
ビーズで妹のヘアゴムを作っていた時
いつの間にかクラスメイトたちの
配信する動画に映りこんでいて
「誰このエンジェル?」と周りで
話題になっていた。
そして優心は
一方的に嫌っている
永瀬翔(ながせかける)を
含むグループとなぜか一緒に
動画配信をすることに。
✩.*˚
「だって、ほんの一瞬映っただけなのに優心様のことが話題になったんだぜ」
「そうそう、それに今年中に『チャンネル登録一万いかないと解散します』ってこないだ勢いで言っちゃったし……だからお願いします!」
そんな事情は僕には関係ないし、知らない。なんて思っていたのに――。
見た目エンジェル
強気受け
羽月優心(はづきゆうしん)
高校二年生。見た目ふわふわエンジェルでとても可愛らしい。だけど口が悪い。溺愛している妹たちに対しては信じられないほどに優しい。手芸大好き。大好きな妹たちの推しが永瀬なので、嫉妬して永瀬のことを嫌いだと思っていた。だけどやがて――。
×
イケメンスパダリ地方アイドル
溺愛攻め
永瀬翔(ながせかける)
優心のクラスメイト。地方在住しながらモデルや俳優、動画配信もしている完璧イケメン。優心に想いをひっそり寄せている。優心と一緒にいる時間が好き。前向きな言動多いけれど実は内気な一面も。
恋をして、ありがとうが溢れてくるお話です🌸
***
お読みくださりありがとうございます
可愛い両片思いのお話です✨
表紙イラストは
ミカスケさまのフリーイラストを
お借りいたしました
✨更新追ってくださりありがとうございました
クリスマス完結間に合いました🎅🎄
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる