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第一章〈出会い〉
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早朝の市場は込み合っている。
夕刻と同じくらい活気に溢れており様々な人種が入り乱れていた。
その中心の道をリヤカーを引く男達がせわしなく動き回る。
その一人にザンがいた。
連なって歩いているライヤとアシュを見て目を丸くした。
「おはようザン」
「あ、おはようっておまえら?」
「もうおまえに心配してもらう必要ねぇから」
「あ? 誰がおまえなんかの」
「アシュだよアシュ、な」
「……うん、まあ」
調子の良い態度のライヤにアシュは伏し目がちに口ごもった。
そんなアシュの様子にザンはすぐに察知する。
「なんかアシュに吹き込んだろ」
するどい指摘に驚いたのはアシュであり、ライヤは飄々とした態度を崩さない。
「人を疑ってばっかりじゃ損するぜ」
「お前がいうか? 本当に大丈夫なのかアシュ、どこか痛いところとか……食欲は?」
「ありがとう。大丈夫」
何を言えばいいのか解らなくてそんな言葉しか伝えられなかった。
あんなに心配して貰ったのにあっさり解放されて。
こうして外に出て歩いているのは事実だが、ある意味で監禁状態は続いているとも云えた。
隣にライヤがいる限り。
ザンはライヤへの不信感をますます募らせ、そのザンのアシュへの気遣いがライヤを苛立たせていた。
険悪な雰囲気の二人に堪えかねて歩き出したアシュにザンは声をかける。
それは仕事はどうしたいのかという問い。
少し考えたい旨を伝えると足を進めてしまう。
後を付いて行く形になったライヤはアシュを追い越した。
そんな二人の後ろ姿を、ザンは見つめていた。
雨の日。
市場にはいつもの活気はなく早々に閉めている店が多い。
豪雨でも無い限り早々に店じまいなんて滅多に無いのだが、この日は様子が違っていた。
地下に埋められている筈のケーブルが、何故か地面を突き破りその姿を晒している。
中には火花を散らしているケーブルもあって、周囲には立ち入りを阻止する為の看板があった。
やる事もない従業員達はそれぞれの住居や店に篭り雑談を繰り広げる。
ザンもその一人。
仲間が囲む丸型のテーブル席で手元の携帯を眺めている。
「どしたザン」
「いや。またかって」
ザンの携帯は新しく換えたばかり。
乱暴に扱った記憶はない。
それが突然火花を散らして故障。
前の携帯と同じ症状だ。
声を掛けた中年男も腕を組んで首を傾げると文句を呟く。
「俺のもついこの間壊れたぜまったく」
「変だよな」
「市場が下がこれじゃあなあ」
あのケーブルも突然火花を放ち、一時は爆発で火が燃え盛り大変な状態だった。
この市場には電力を使用している店も多数ある。
ケーブルの修理には数ヶ月かかるらしく、その修理を担当する技術者は不足しておりそれが悩みの種だった。
このままでは暮らせない。そう判断した市場の従業員達は次々に出て行ってしまう。
近隣の町は決して安定はしておらず、町そのものから離れざる負えない者達もいた。
ザンにとってもひと事ではなく今後の生活を考え抜いた結果。
市場と町からも出て行く決意を固めた。
ザンが住んでいる町はアシュ達の住む町の隣町。
市場のおかげで職にありつけた者達の大半が住んでいる町だ。
アシュを気になっていたのだがライヤと共にやって来てから見かけていない。
それに家を訪ねる気にもなれず数週間経つ。
結局仕事には復帰しなかったようだ。
ずっと家に引きこもっているのかと心配でたまらなかった。
挨拶も兼ねて久しぶりに訪ねる事にした。
――あいつの顔を見るのは嫌だけど仕方無い。
どうにか冷静を保つよう自分に言い聞かせて坂道を上って行く。
質素なコンクリートのアパート。
その一階の部屋のドアをノックすると返事があったが。
「「なんだおまえか」」
と二人はお互いに同じ台詞で睨み合う。
ライヤは相変わらずの様子で見た目は少し痩せた気がする。
ザンは室内にアシュの姿を探したが居ない様だ。
まだ町を出て行く日まで数日ある。
出直そうと考えているとライヤから意外な言葉が発せられて思考が止まった。
「アシュのやつ見かけたか?」
「――は?」
てっきりアシュはライヤの言いなりになってしまったのかと思っていたらそうでもないらしい。
嫌な予感に襲われる。
「え、いないのか」
「帰って来るぜ毎日。でも、どこに行ってるかは言わねぇ」
「ちゃんと説明しろ! アシュは大丈夫なのか?」
つい興奮して問いつめるとライヤは気難しい顔をした。
「たぶん誰かとあってる」
「え」
「香水のにおいがした女の」
「それはまさか」
ザンが感じていた嫌な予感とは的が外れた気がするが、それはそれで気になる。
いつもの調子でアシュに聞いてもはっきりと答えないという。
なんだか長くなりそうなので部屋に入りソファに座る様に促された。
ローテーブルには栓を抜いたワインボトル。
それと切り分けられたチーズが小さな白い皿に盛られている。
まさか自棄になっているのだろうか。
ザンはまじまじとライヤの横顔を観察した。
アシュと同じくらいの歳だと思っていたが、こうして見てみるともっと幼く見える。
ちなみにザンは自分に関してはアシュよりは年上だと考えていた。
それでもまだぎりぎり二十代だ。
何か言おうとしたところで外の気配に気付く。
咳払いが聞こえて来た。何時の間にか誰かがドアの前に立っているようだ。
「アシュか?」
そう声をかけたのはザン。
しかしライヤは珍しく慌てた様に手を振った。
(黙ってろザン!)
と小声でザンに呼びかける。
そんな態度を取られたザンは訝しく思うだけ。
まさかこの来訪者がライヤにとって最も苦手な相手とは知らず。
「ライヤさん開けてください!」
知らぬ振りを通そうとしたライヤだが、ザンの声はしっかり耳に届いていたようでごまかしはできなかった。
夕刻と同じくらい活気に溢れており様々な人種が入り乱れていた。
その中心の道をリヤカーを引く男達がせわしなく動き回る。
その一人にザンがいた。
連なって歩いているライヤとアシュを見て目を丸くした。
「おはようザン」
「あ、おはようっておまえら?」
「もうおまえに心配してもらう必要ねぇから」
「あ? 誰がおまえなんかの」
「アシュだよアシュ、な」
「……うん、まあ」
調子の良い態度のライヤにアシュは伏し目がちに口ごもった。
そんなアシュの様子にザンはすぐに察知する。
「なんかアシュに吹き込んだろ」
するどい指摘に驚いたのはアシュであり、ライヤは飄々とした態度を崩さない。
「人を疑ってばっかりじゃ損するぜ」
「お前がいうか? 本当に大丈夫なのかアシュ、どこか痛いところとか……食欲は?」
「ありがとう。大丈夫」
何を言えばいいのか解らなくてそんな言葉しか伝えられなかった。
あんなに心配して貰ったのにあっさり解放されて。
こうして外に出て歩いているのは事実だが、ある意味で監禁状態は続いているとも云えた。
隣にライヤがいる限り。
ザンはライヤへの不信感をますます募らせ、そのザンのアシュへの気遣いがライヤを苛立たせていた。
険悪な雰囲気の二人に堪えかねて歩き出したアシュにザンは声をかける。
それは仕事はどうしたいのかという問い。
少し考えたい旨を伝えると足を進めてしまう。
後を付いて行く形になったライヤはアシュを追い越した。
そんな二人の後ろ姿を、ザンは見つめていた。
雨の日。
市場にはいつもの活気はなく早々に閉めている店が多い。
豪雨でも無い限り早々に店じまいなんて滅多に無いのだが、この日は様子が違っていた。
地下に埋められている筈のケーブルが、何故か地面を突き破りその姿を晒している。
中には火花を散らしているケーブルもあって、周囲には立ち入りを阻止する為の看板があった。
やる事もない従業員達はそれぞれの住居や店に篭り雑談を繰り広げる。
ザンもその一人。
仲間が囲む丸型のテーブル席で手元の携帯を眺めている。
「どしたザン」
「いや。またかって」
ザンの携帯は新しく換えたばかり。
乱暴に扱った記憶はない。
それが突然火花を散らして故障。
前の携帯と同じ症状だ。
声を掛けた中年男も腕を組んで首を傾げると文句を呟く。
「俺のもついこの間壊れたぜまったく」
「変だよな」
「市場が下がこれじゃあなあ」
あのケーブルも突然火花を放ち、一時は爆発で火が燃え盛り大変な状態だった。
この市場には電力を使用している店も多数ある。
ケーブルの修理には数ヶ月かかるらしく、その修理を担当する技術者は不足しておりそれが悩みの種だった。
このままでは暮らせない。そう判断した市場の従業員達は次々に出て行ってしまう。
近隣の町は決して安定はしておらず、町そのものから離れざる負えない者達もいた。
ザンにとってもひと事ではなく今後の生活を考え抜いた結果。
市場と町からも出て行く決意を固めた。
ザンが住んでいる町はアシュ達の住む町の隣町。
市場のおかげで職にありつけた者達の大半が住んでいる町だ。
アシュを気になっていたのだがライヤと共にやって来てから見かけていない。
それに家を訪ねる気にもなれず数週間経つ。
結局仕事には復帰しなかったようだ。
ずっと家に引きこもっているのかと心配でたまらなかった。
挨拶も兼ねて久しぶりに訪ねる事にした。
――あいつの顔を見るのは嫌だけど仕方無い。
どうにか冷静を保つよう自分に言い聞かせて坂道を上って行く。
質素なコンクリートのアパート。
その一階の部屋のドアをノックすると返事があったが。
「「なんだおまえか」」
と二人はお互いに同じ台詞で睨み合う。
ライヤは相変わらずの様子で見た目は少し痩せた気がする。
ザンは室内にアシュの姿を探したが居ない様だ。
まだ町を出て行く日まで数日ある。
出直そうと考えているとライヤから意外な言葉が発せられて思考が止まった。
「アシュのやつ見かけたか?」
「――は?」
てっきりアシュはライヤの言いなりになってしまったのかと思っていたらそうでもないらしい。
嫌な予感に襲われる。
「え、いないのか」
「帰って来るぜ毎日。でも、どこに行ってるかは言わねぇ」
「ちゃんと説明しろ! アシュは大丈夫なのか?」
つい興奮して問いつめるとライヤは気難しい顔をした。
「たぶん誰かとあってる」
「え」
「香水のにおいがした女の」
「それはまさか」
ザンが感じていた嫌な予感とは的が外れた気がするが、それはそれで気になる。
いつもの調子でアシュに聞いてもはっきりと答えないという。
なんだか長くなりそうなので部屋に入りソファに座る様に促された。
ローテーブルには栓を抜いたワインボトル。
それと切り分けられたチーズが小さな白い皿に盛られている。
まさか自棄になっているのだろうか。
ザンはまじまじとライヤの横顔を観察した。
アシュと同じくらいの歳だと思っていたが、こうして見てみるともっと幼く見える。
ちなみにザンは自分に関してはアシュよりは年上だと考えていた。
それでもまだぎりぎり二十代だ。
何か言おうとしたところで外の気配に気付く。
咳払いが聞こえて来た。何時の間にか誰かがドアの前に立っているようだ。
「アシュか?」
そう声をかけたのはザン。
しかしライヤは珍しく慌てた様に手を振った。
(黙ってろザン!)
と小声でザンに呼びかける。
そんな態度を取られたザンは訝しく思うだけ。
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