隷属神官の快楽記録

彩月野生

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せめて最後は貴方の手で

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約束の刻が迫る。

リアムはそびえ立つ塔を見上げていた。
正装に身を包んで佇むリアムの背後には、補佐役の細身の男と、護衛役の戦士である屈強な男が並んで待っている。

彼らはリアムが失敗した時のための保険だ。
神官の身であったリアムは、他国へ遣いとして赴くこともあったので、交渉は本来得意なのだ。

国王は承知の上でこの二人をつけた。
即ち、クロヴィスを確実に殺すためだろう。

リュカが二人にも気を付けるように助言をくれたのを思いだし、気を引き締める。

ほどなくして塔の入り口の結界が解かれて、門番が中に進むように顎で促してきた。

「随分となめられたもんだな、なあ?」

護衛役の男が、リアムの肩に馴れ馴れしく手を置くと笑う。
無骨な手のひらの感触にリアムは顔がひきつるのを感じたが、護衛役は気にする素振りは見せない。

出迎える魔族の男達は見覚えがある。皆、リアムを蹂躙した輩だ。

最上階の部屋に案内される。
誘導されるままに室内へ歩を進めた。

漆黒の魔族が、ステンドグラスの窓を背にして腕を組み、ほくそ笑んでいる。

「わざわざご足労感謝する。リアム・フラハティ殿」
「こちらこそ話し合いの機会を頂き感謝いたします。主殿」

頭をそっと上げたら視線が交わり、リアムの心臓が跳ねた。
内心で焦るが、クロヴィスは表情を変えず、中央に備え付けられた卓の席へ座るよう手で示す。

リアムは真ん中の椅子に座り、二人はリアムを挟んで座る。
リアムの向かいにクロヴィスが座り、口を開いた。

「まずは、そちらの話から聞こう」
「はい。まずは、物資の……」

携えた資料を広げ、まずは交易について意見を交換する。
クロヴィス達の一団は国ではないので法律は存在せず、全てクロヴィスの意思により決定されているという。

交渉役としては、彼が何者であるのか理解した上で話を進めるべきだと考えていたが、国王は口を閉ざし答えてはくれなった。

一通りの意見交換を済ませ、リアムは改めてクロヴィスを見やる。

「お聞きしたい事があるのですが」
「何を?」
「………」

こうしてクロヴィスと普通に会話をしている事実に、どこか現実味がないと感じた。
それに、彼のリアムを見る目には何の感情も見受けられない。

――僕との出来事は、なかった事になっているのかな。

「フラハティ殿?」
「あ、いえ。なんでもありません」

クロヴィスの呼びかけに曖昧に返事をしてごまかした。
明日は意見交換した内容を精査した上で、魔族達の領土となった街の視察の予定だ。
それが終わったらユーディアに戻り、王に報告しなければならない。

つまり、クロヴィスを抹殺する機会は今夜か明日の、国に帰るまでという事。

このまま夕食という流れになったが、リアムは気分が優れないと伝えて、ひとまず先にあてがわれた部屋へこもる事にした。


連れの二人は一緒の部屋で待機となっている。

リアムは寝台の上に腰を落ち着けると、毒入りの小瓶を隠していた小袋から取り出す。
それを目の前にかざして見つめていると、扉が誰かに叩かれて慌てて隠した。

「どうぞ」

声をかけると、静かに扉が開いて少女が顔を覗かせる。
それは良く知っている顔だった。

「サーシャ?」

使用人の格好をしたサーシャがリアムの夕食を運んできた。
魔族側の人間になったのは本当だったのかと驚く。

「私、使用人として働く事になったんです」
「そうなんだね。酷いことはされてない?」

リアムはスープを受け取りつつ訪ねた。
何せ、旅人を捕まえて蹂躙する連中なのだ、非力な少女に手を出す可能性は十分にあり得る。
だが、サーシャは意外にも目を丸くして顔を横に振った。

「よくして貰っています。ユーディアにいた頃よりもずっと……」

サーシャがあっと口元を手のひらで押さえるのを見て笑う。

詳しい話を聞くと、住む場所も仕事も与えられており、丁重に扱われているようで安心した。

彼らはサーシャのような立場の人間には優しいのかも知れない。

リアムはクロヴィスの神に仕える者を憎んでいるという言葉を思い出していた。

長居はできないとサーシャははにかんで立ち去った。

短い時間の中で、サーシャからクロヴィスの部屋を聞き出せたのは幸いだった。

空腹を感じていなかったリアムは、食事に手をつけず深夜になるのを待つ。

護衛も補佐も寝ている様子で、見張り役もおらず、不信感が募るが好機と考えて階段を登る。

突き当たりの部屋にクロヴィスがいる筈だ。
リアムは扉の前で立ち止まると軽く叩いた。

「夜分にすみません。リアム・フラハティです」

声をかけると「鍵はあいている」と返事がしてゆっくりと扉をあける。

寝台から這い出てきたクロヴィスに思わず息を飲むが、冷静になるように努めた。

「来ると思っていたぞ」
「……何故ですか」
「その剣にかけられた術を見ればわかる」

あらかじめ予想はしていた事態だ。
リアムは再び口を開く。

「それなら話は早い。私と勝負して下さい」

率直に伝えるとクロヴィスは口の端を釣り上げ、寝台の傍に立て掛けてある剣を手にする。

「付いてこい」

クロヴィスに導かれ、塔の外へ出ると後ろへまわった。
月明かりが煌々と照らし出すクロヴィスは禍々しくも美しい。

リアムは剣を抜くと唾を飲み込む。
実際にクロヴィスの剣捌きを見たことなどなかったが、リアムのような素人に勝てるはずがないのは容易に想像できる。

クロヴィスも剣を構え、その瞳には殺気がこもっていた。

――ああ、彼は本気なんだ。

胸がチクリと痛むが剣に心中で語りかけ、意識を集中する。
体が熱い。 

「参る」

クロヴィスの言葉が開始の合図となった。
リアムは瞳を見開き剣を振るう。
だが、クロヴィスが眼前にせまり、その一撃をかわすのに精一杯だ。
お互いの剣がぶつかる甲高い金属音が夜の中に響き渡る。
凄まじい力にリアムの腕が悲鳴をあげた。

「うあっ!?」
「話にならんな!」

ガキッと剣が砕かれるのをリアムは呆然と見つめて後方に吹っ飛ぶ。
背中から地面へ打ち付けられ、全身の神経に痛みが走る。

「うう……」

呻くリアムの胸ぐらをクロヴィスが掴み、引っ張りあげられた。

「何か言い残すことはあるか?」
「あ、うう」

恐怖や歪んだ喜び、さまざまな感情に支配されて震えるしかないリアムだったが、どうしても伝えなければならない話があるのだ。

――言わなきゃ。

呼吸が乱れる中、リアムはある願いを口にする。

「リュカ様と、ディランを、許してあげて、ください」

リアムは語気を強め、まっすぐにクロヴィスの瞳を見つめた。

「彼らは、愛しあっているはずなんです、ふ、二人を貴方の仲間として、受け入れてください、お願いします」

見つめていたクロヴィスの目に揺らぎは見てとれなかった。
それでも勇気を振り絞り伝えることはできた。
今のリアムには、これが精一杯なのだ。

「言いたい事はそれだけか」
「……はい」

そう返事をすると、首に剣先を突きつけられた。

リアムは覚悟を決め、そっと瞳を閉じて……愛している男に殺されるのを待った。


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