復讐のために生贄になった筈が、獣人王に狂愛された

彩月野生

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15人狼の歪んだ愛

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 オディロンとジョエルの喧嘩がようやく収まり、フリオは地下部屋に案内された。
 ジョエルは自室に引きこもり、ふてくされてしまったようで罪悪感に苛まれてしまう。
 どうやらあの子は、この横柄な人狼を好いているらしい。
 生贄としてぞんざいに扱われていると思っていたが、二人の間にしかない絆が垣間見れた。
 
 獣人と人間が好きあうだなんて、到底納得できないが。
 マリユスの日記を思い出すと、めまいがしてきた。

「う」
「おい、どうした」
「い、いや。大丈夫だ」
「埃っぽくて暗い部屋だろ」
「……書庫に似てるな」
「書庫?」
「俺の弟の日記が保管されてい場所だ」

 ミールという、猫の獣人の好意で見せて貰ったと説明する。
 書庫いっぱいに詰められた生贄達の日記は、まるで悲鳴を上げているように見えて、息がつまる感覚がしたのを覚えている。
 実際には、歪んだ愛に捕まってしまった、愛憎に翻弄された叫びだったようだが……一人一人の生贄の思いを確認したわけではないので、単なる想像である。

 ただ、弟はサビーノを愛していたようだ。
 その事実をオディロンは鼻を鳴らして拒絶を示す。

「相変わらず気色のわるい奴だ」
「サビーノは昔からああだったのか?」
「……どうだったかなあ」

 オディロンに促されて本を受け取った。
 大きすぎて両手で抱えないと持てない。
 重たくて足がよろけた。立ったままだと広げられそうもないので、床に座り、ランプで照らして広げてみた。
 この部屋には椅子も卓もないので、こうして床に直接座るしかない。
 尻が床の固さのせいで痛くて、痺れてくる。
 せっかく広げた本は、なんて書いてあるのか読めず、オディロンに上目遣いで説明を求めた。

 オディロンは本の中身は熟知している様子で、腕を組んでこの国の歴史について語り始めた。

「王が生贄を求めるようになったのは、最近の話だ」
「最近……あ、前王からだと聞いたが」
「そうだ。俺たちの父が生贄を求めるようになった」
「……」

 何やら複雑な事情があるらしく、長くなりそうだ。
 とりあえず、こんな床に座ったまま聞きたくはない。
 場所を移そうと誘うと、舌打ちをされるがちょうど夕食の時間なのもあり、食堂へ向かう事にした。

 いつもならジョエルと一緒に食べるらしいが、やはり引きこもったままで姿を見せず、二人で食べる事になった。
 サビーノの城が大きすぎたのかもしれないが、オディロンの城の食堂は若干狭く感じる。
 出てきた料理も素材をそのまま生かした味付けであり、良く言えば身体に良さそうだ。
 大きな葉っぱに巻かれた肉料理は香辛料の味しかしないし、パンは固くてパサパサ。同じようなパンをサビーノの城でよく出されていたが、ほんのり甘かったし、しっとりした部分もあった。

 獣人はきっとこういう物を好んで食べるのだろう。
 ジョエルはうんざりしていないのだろうか。

「どうした」
「あ、いや」

 パンをつまんでぼんやりしていると、オディロンに訝しむ目を向けられて、急いで残りのパンを頬張り、咀嚼する。何故かしゃりしゃり言っているので、感触が嫌でさっさと飲み込む。
 杯に汲まれた果実酒で喉を潤すと、先ほどの話を教えてくれと促した。

 オディロンは酒をあおりつつ、父親について言葉を紡ぎ始める。

「父は、人間を愛していた」

 大きな魔力と生命力を秘めた、人狼の寿命は長い。
 サビーノとオディロンの父は、長い生の中で、人間に対して特別な想いを抱くようになったという。
 性別も年齢も関係なく、様々な相手に恋をして愛したという。
 
 だが、誰も、父を愛してはくれなかった。
 誰もが人狼の牙とその存在に怯え「喰わないでくれ」と命乞いをしたのだという。
 古より、獣人と人間の力は圧倒的に獣人が有利であり、戦いは繰り返されてきた。
 その小競り合いの繰り返しで、とうとう人間は疲弊し、人間という種族そのものが獣人に命乞いをする状況に陥った。

 前獣人王――サビーノとオディロンの父は、人間に愛を受け入れられない苦しみを、戦をする事で憂さ晴らしをしていた。
 人間を追い詰めた決定的な戦となり、人間を統べる大国とある契約をすることで、一時休戦を受け入れたのだ。

 それが、生贄を差し出す事である。

 オディロンと話を交わす中で、改めて互いの種族の確執を実感した。
 
「父は、生贄どもを愛したが、やはり生贄は父を愛することはなかった」
「……一人もか」
「ああ。数百人はいたはずだけどな……あの時の人間共は、ただただ獣人を怖がっていただけで、怪物に愛されたって憔悴するだけだった」
「なあ、サビーノは、生贄制度と、休戦については賛成してたのか?」
「ああ。父の姿を見て、父の望みを叶えてやりたいっておもってたさ……生贄から愛されなければ、父が報われないと」
「……そうなのか」

 サビーノのあの妙な生贄への接し方と執着を、少し理解できた気がした。
 疑問はまだまだ胸中に渦巻いている。

「マリユスは」
「あ?」
「弟は、サビーノを愛していたようなんだが……生贄に愛されたなら、もうサビーノは満たされていい筈なんじゃないか?」

 だからといって、人との戦いを終わらせようとは考えないだろうが。
 何かが引っかかる。
 オディロンは酒をぐびぐび飲むと、ぶはっと息を吐いた。

「それが本当だとしたら、次の生贄に愛されたいと望んだんじゃねえのか」
「じゃあ、いつまで生贄になる人間の犠牲者を出せばいいんだ?」
「知るか。あいつが生贄をいらねえって思う時は、人間への憎悪を抑えきれなくなった時だろうよ。その時は戦争を再開させるぜ」
「……ならば、俺がこんな国を崩壊させてやる」
「オマエと俺の子が、だろ? まあ、俺が新しい王になったら人間どもとはもう関わらねえからそこは安心しろ」
「オディロン……」
「愛だの、憎しみだのめんどくせえ。大いなる自然と生きる俺たちが、こざかしい人間どもと小競り合いして、時間をとられるなんざくだらねえ」
「……」

 フリオはオディロンを少し見直す。
 強姦された相手ではあるが、サビーノよりまともに見えるのだ。
 
 オディロンの話を聞けて良かった。
 サビーノは父の幻影に取り憑かれているのだと、知れたのだから。
 
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