復讐のために生贄になった筈が、獣人王に狂愛された

彩月野生

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27最愛の魂は空にとけて

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 ああ……これは、マリユスだ……。

 顔を歪ませて涙する姿を見つめて、内心で呟いた。
 魔力で身体の自由を拘束されている為、マリユスは泣く事しかできず、嗚咽を漏らす。
 思わずその頭をそっと撫でてやると、瞳を見開いてフリオを見つめる。

「兄上」
「もういい。泣かなくていい。何があったのかを話してくれないか?」
「僕は……」

 フリオからサビーノに視線を移すと、瞳を伏せる。
 それからとつとつと語り始めた。
 件の呪術師とはこの城で出会ったという。
 正確には夢に出てきて、夜中庭に行くと彼が立っていたのだという。

『貴方は自分を愛してくれない獣人王に復讐をしたいと願っている。ならば、いい方法を教えて差し上げよう』

「どんな?」

 フリオの問いかけに、マリユスは瞳を伏せたままで呟いた。

「僕とサビーノ様が一つになる方法。でも、呪術師の最期の呪術の実行に加担する事が条件だった」
「オマエが我に心臓を喰らえと願った事と関係あるんだな?」
「はい」
「どういう意味なんだ?」
「僕が死んだ時、呪術師の肉体に僕の魂が入るように、あらかじめ術を施しておいたんだ。そして、サビーノ様が僕の心臓を喰らった時、僕は呪術師の身体でこの世界に蘇る」
「……それは、まさか」

 フリオは不安を声に滲ませると、サビーノがため息をついた。

「我の命を吸って、オマエは生きながらえているのだな」
「――っはい」
「マリユス、どうしてそな真似を」
「だって……! サビーノ様は、僕を愛してくれなかったから! 僕が兄上の話をしたら、兄上の事ばかり気にしてて!」
「? そんなわけないだろ、だって日記には」
「サビーノ様が兄上の話をするのなんて、書きたくなかったんだ!」
「……」
 
 その話を聞いて、ようやく整理できた。

 サビーノに愛されなかったマリユスは絶望し、やがて憎しみに支配された。それでもサビーノと繋がりを持ちたかったマリユスは、一つになる術を呪術師に持ちかけられ、つい応じてしまった。

 呪術師は呪術の大技である、憎悪を使った術をどうしても使いたかった。呪術師は長い生に疲れ果てて、マリユスに取引を持ちかけたのだ。

「次にお姉様を生贄に選べば、きっと兄上が守ろうとすると思って」
「だからあんな都合よく、呪術師が尋ねてきて孕む術を授けたんだな……しかし、あの時も、王都でオマエとあった時も、声も雰囲気も呪術師そのものだっだぞ?」
「声だけは、彼の声を出せるんだ」
「マリユス……」
「兄上、僕、神様のもとへいきたい」
「……!」

 マリユスの声には、様々な気持ちが込められているのがわかる。
 フリオはマリユスに身を寄せて、その身体をきつく抱きしめた。
 冷たい身体だ。でも、心臓は確かに動いている。

 もう手放したくない。

「フリオ」

 頭に大きな獣の手の平を乗せられて、フリオは顔を上げる。
 サビーノが穏やかな目でフリオを見つめて、深く頷いた。
 呼吸が苦しくなって言葉が吐き出せず、叫びたい衝動をおさえたくて唇を噛みしめると、小さく囁いた。

「わかってるよ」

 マリユスをもう一度強く抱きしめると、そっとその身体を抱えた。
 お姫様だっこの形で抱えて、おもむろに歩き出す。
 足は、自然と天空の庭へと向かっていた。

 サビーノは無言で後ろをついてくる。
 両腕に抱えた重みが苦しい。
 
「はあ……はあ……」

 どうしてもまとな呼吸ができない。
 マリユスが動けないはずの腕をあげると、頬をそっと指で撫でてくれた。

「あにうえ」
「いいんだ。何も言わなくても。俺は、オマエを苦しめてしまったんだ」
「ちがうよ、僕、あにうえの気持ちを、知ってて」
「いいんだ」

 無理矢理頬を緩めると、マリユスは微笑んでくれた。
 フリオが愛した笑顔で。

 ――まさか、こんな形で弟を見送る事になるなんて。

 最期を見届けられず後悔をしていた。
 けれど、こうして見送る事になると、様々な感情がこみ上げてきて冷静になどいられない。
 
 マリユスの墓石の前にその身体を横たわらせた。
 ゆっくりと呼吸を繰り返し、空を見つめている。 
 
「こうして兄上に見送られるのも、悪くないね」
「マリユス……」
「……二人は、離れないで……」
「マリユス!!」

 思わずその身体を抱きしめると、後ろからサビーノに包み込まれ、その温もりに瞳を閉じる。
 サビーノが呪文を唱える声が聞こえてきた。
 
 腕の中のマリユスの肉体が、さらさらと破片となっていく。
 フリオは獣のようなうなり声を上げることしかできず、唇を血が出るほどに噛み、その姿が消え去るまで泣きながら見届けた。

 ついにマリユスが空へととけると、ようやく声を上げて泣き叫ぶ。

「――っ」

 自分で何を言っているのか理解できない。
 ただ、サビーノが包み込んでくれているその温もりだけが、救いだった。
 いつまでも、愛しい弟が消えた空を見つめていた。  
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