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26悲しき業
しおりを挟む「マリユス……? 本当に、マリユスなのか……?」
「うん。そうだよ兄上」
雰囲気は大分変わってはいるが、その顔も声も確かにマリユスだと、心が告げている。
何故、どうして、死んだ筈じゃ。
疑問が溢れそうになっても、言葉にできず、ただその場で立ち尽くす。
「オマエが、マリユスだと?」
背後から聞こえてきたのは、サビーノの声だ。
その声音は静かだが、震えている。
困惑しているのがわかり、フリオも同じ気持ちを抱えているのだと、視線で伝えた。
サビーノが右手を掲げて拳を作ると、ぽつりと呟く。
「あのとき、確かにその心臓を喰らった筈……その身体も、土へ返した」
「……じゃ、じゃあ。あれはマリユスじゃないっていうのか?」
「ああ……、だが」
何かに気付いたようにサビーノは双眸を細めると、踏み出してマリユスの顔をした呪術師の前に進み出る。
呪術師は花が咲くような笑顔になり、サビーノに抱きついて歓喜の声を叫んだ。
「やっと! やっと会えた! 嬉しい!」
「オマエは、やはり――」
すうっと右手を手刀の形で掲げたのを見たフリオは、咄嗟に飛び出すと、その腕を掴んで動きを止めた。
「フリオ、何をする!?」
「攻撃はしないでくれ!」
「兄上」
声をかけられると、やはり〝マリユス〟の柔らかな声音にそっくりで、涙腺が刺激されてしまう。
サビーノから顔を上げて、フリオを見つめるその綺麗な顔を見ると、どしてもマリユスとしか思えず、両腕を伸ばす。
「マリユス、なんだな?」
「邪魔」
――え?
冷たい声音と共に、フリオの身体が宙に浮かび、後方へ吹っ飛ばされた。
「フリオ!!」
「サビーノ様も、嫌いだ!!」
ザシュ!!
肉が切れる鈍い音がした途端、赤い飛沫が飛び散る。
それはサビーノの腹からで、その巨体がぐらりと傾ぐ。
「ぐぬ……!」
「サビーノ!?」
石床に叩きつけられたフリオは、痛みに痺れる身体を両腕で支え、顔を上げる。サビーノは腹をおさえ、膝をついて呻いていた。
いつもと様子が違う。
まさか傷が深すぎて、自慢の再生能力が発揮できないのだろうか。
呪術師がフリオを睨み付けて両手を宙へと翳すと、その手の平が淡く光る。
それが強力な魔力を内包しているのだと直感で分かるのと同時に、殺意を感じて息を飲んだ。
――俺とサビーノを、殺そうとしているのか!?
それが事実だというなら、サビーノが危ない!!
フリオが忠告せずともすでに身構えてはいるが、これではまともに攻撃を受けてしまう。
「やめろ!!」
呪術師を止める事が先決だと判断し、四肢に力を込めて突進する。
「わ!?」
飛びつく事に成功して、一緒に床に転がって壁に激突した。
頭を強くぶつけた呪術師は、フリオを虚ろな目で見据えると気を失ってしまう。
「……どうして」
あどけない寝顔は、紛れもなく弟の寝姿だ。
何かの術でこの世に蘇ったのか……そんな淡い期待は失せた。
抱きしめた肉体は人の温もりなどなかったからだ。
寝息を立てている少年を抱えて、サビーノの元へ歩み寄り、そっと顔を見せる。
サビーノはようやく傷が塞がった様子で、浅い呼吸を繰り返しながら囁く。
「これはマリユスであってマリユスではない」
「じゃあ、なんなんだ?」
「心当たりはある。拘束するぞ」
「……」
さっきのようにまた暴れたりしたら大変だからな。
理解はしているが、自由を奪うのはなんとなく気が引けた。
本当に弟の紛い物なのだろうか。こんなにもマリユスそのものなのに。
「――!」
ぎゅっと抱きしめると少年はかるく身じろぐ。
サビーノに宥められて、苦い気持ちで少年を差しだした。
「乱暴にしないでくれ」
「ああ。承知している」
サビーノは宣言通り、力加減を考えて優しい手つきで魔力を使い、少年の身体を動けなくした。
後は正体を確認するだけだ。
そう簡単に明かさないだろうとは思うが、弟の姿をしている少年を放ってはおけない。
聞きたい事はたくさんある。
「もし、マリユスだったらオマエはどうするつもりだ?」
「どうする、って?」
「先ほどの力、あれをまともに喰らえば、我とて防ぎ切れる自信はない」
「……そんなに強いのか?」
「ああ。あの力、呪術の力と魔力があわさった強力な力だ。楽観視はできぬ」
「そうか……この少年は、マリユスなのか? 教えてくれ」
「……」
少年を城の奥の部屋に運び、寝台の上に寝かせた。
起きる気配のない少年の寝顔を見つめ、想いを巡らせていると、隣に佇むサビーノが腕を組み、ため息をつく。
「やはりオマエは戦うことなどできないか」
「戦う?」
「これは、別の肉体を乗っ取ったマリユスだ」
「……!?」
その言葉の意味を確かめようと口を開くと、うめき声と共に少年が目を覚ます。
幼さを残したその顔を見つめた。
小さな唇がうすく開かれて、柔らかな声が吐き出される。
「あにうえ?」
「マリユス! マリユスなんだな!?」
「サビーノ、様?」
「ああ」
「僕……」
ぽろぽろと涙を流し、震える声で囁いた。
「憎しみに、勝てなかった」
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