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29二人だけの世界の為に
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家族の元気な姿が見れた事で、フリオの胸は温かさで満ちていた。
顔を見れればそれで良かった。
一泊もせずに祖国の王都をそっと去ったフリオは、振り返る事なくサビーノと共に帰路についた。
振り返れば、なくした日々を思い出して動けなくなってしまう。
隣で並んで歩くサビーノの腕にすがるようにしがみつくと、腰に腕を回された。
まるで支えてくれているようで口元が緩む。
空を見上げるとすっかり日が傾き、星が輝いているのが見える。
人間一人なら、山道を行くのは危険だが、最強のケダモノが一緒なので怖くはない。
それに本来であれば馬車で行く道を、サビーノが連れて行ってくれるので助かる。
なんとなく、このまま帰りたくないなと名残惜しく感じて足を止めた。
歩調をあわせてくれたサビーノが、首を傾げる。
「なんだ、どこか寄りたいか?」
「……あ~、そうだ」
ふいにオディロンとジョエルのことを思い出し、彼らに会いに行けないかと聞いてみると、頷いてくれた。
辺境の地へと追いやったと説明されてはいたが、実際には森の最奥という事でいけない距離ではない。
大分痛手を負った筈だ。サビーノは怒り心頭だったからな。
嫉妬心むき出しの姿を思い出し、くすくす笑っていると頭を小突かれて、よろけた。
オディロンの元に辿り着いた時は深夜となっており、森の中では知能の低い魔獣達になんども襲われたが、その都度サビーノが撃退してくれていた。
フリオも剣で応戦はしていたが、歯が立たず、悔しい思いをする。
腕が鈍っていると言うよりは、剣そのものが効かないのだ。
そんなフリオの頭をぽんぽん撫でたサビーノが、出迎えたオディロンに向かって挨拶をする。
「久しいな、我が弟よ」
「……随分と仲良しになったんだな」
「そういうオマエは、例の生贄とはやっかいな関係になっているようだな」
オディロンにしがみつき、フリオとサビーノをにらみつけている、ジョエルが威嚇するように唸るのを見て、どっと疲労感に襲われた。
オディロンはさして困っている様子でもなく、その大きな口を開き牙を覗かせて笑うと食堂に招き入れてくれた。
サビーノは、オディロンとフリオの思惑には気付いていた様で、オディロンを問いただすような事はせず、ただこの森の奥へ追いやったらしい。
温かな料理と酒を振舞われた後、サビーノとオディロンは別室で話があると席を立ってしまい、食堂にはフリオとジョエルの二人きりとなってしまった。
「……」
なんとなく気まずい雰囲気が流れるが、ジョエルは気にする素振りも見せず、酒をあおり、つまみを口に放り込んでいる。
酒の甘い香りが漂っていた。ジョエルは頬をうっすらと染めて、視線だけフリオに向けて声を掛けてきた。
「フリオ様って結局どっちなんですか」
「え?」
何の話だとジョエルの言葉を待っていると、ジョエルは肩をゆすってさらに酒をごくごくと飲み干す。
頬が真っ赤になっているのを見るに、酒には強くない様子だ。
「おい、もうやめておけ」
「僕の事はいいんです! オディロン様とサビーノ様、どちらが好きなんですか!?」
「!? な、なにを言っているんだ?」
「はあ? だいたいフリオ様が僕のオディロン様に言い寄ったのがいけないんですよ!? オディロン様からフリオ様の名前がでる度にイライラしてイライラして――!!」
「お、おい、落ち着け」
このままでは暴れ出しそうだったので、仕方なくフリオは己の気持ちを伝える事にする。
酒の雫がついた杯を見つめ、淡々と口にした。
「オマエの心配は無意味だ。俺は、最初からオディロンに恋や愛といった感情は持っていない」
「それは無責任じゃないですか!?
「そうだな。それはきちんと謝罪したい。でもな」
フリオは自分で言葉にしながら、己の胸に刻むように言葉を吐き出す。
「俺は、サビーノの傍にいたいと願っているんだ。俺を、罰してくれるサビーノの傍に……」
それだけ言うと、そっとジョエルに向き直った。
ジョエルは目を丸くして酔いが醒めたような顔つきに変わる。
頬を緩めると卓に突っ伏してしまう。
「お、おい?」
「……ふ、ん……」
「寝たのか」
なるほど、これはオディロンも振り回されるわけだ。
始めて会った時はオディロンに虐められているのでは、と心配をしていたが、二人の関係の均衡は取れているらしい。
ジョエルに何かかけるものを持ってこようとして、食堂から出て行こうと扉に手を掛けた時、ちょうどあちらから開いたので息を飲む。
サビーノが顔を覗かせていた。
「サビーノ」
「フリオ、我はオマエと二人で生きていくと決意した」
「? あ、ああ」
「だから、我が国を弟に譲る」
「――は、はあ!?」
思わず大声を出してしまうと、背後でジョエルがうめく声が聞こえてきて口元を両手で覆う。
どいういう事なのかをサビーノに詳細を聞いてみると、オディロンとは話がついており、サビーノはフリオとある場所を目指して旅立ちたいという。
「どこへ?」
「オマエと我の死に場所だ」
――死に場所。
その言葉自体は絶望的な響きをしてはいたが、要するに、二人きりの時間を謳歌して最期を迎える場所を探したいという意味であろう。
サビーノは、何もかもを捨てて、フリオとの生を選んでくれたのだ。
「……それが、オマエの望みなら俺はついていくよ」
瞳を伏せると、目の奥が震えてきて、自然と涙が溢れてきた。
顔を見れればそれで良かった。
一泊もせずに祖国の王都をそっと去ったフリオは、振り返る事なくサビーノと共に帰路についた。
振り返れば、なくした日々を思い出して動けなくなってしまう。
隣で並んで歩くサビーノの腕にすがるようにしがみつくと、腰に腕を回された。
まるで支えてくれているようで口元が緩む。
空を見上げるとすっかり日が傾き、星が輝いているのが見える。
人間一人なら、山道を行くのは危険だが、最強のケダモノが一緒なので怖くはない。
それに本来であれば馬車で行く道を、サビーノが連れて行ってくれるので助かる。
なんとなく、このまま帰りたくないなと名残惜しく感じて足を止めた。
歩調をあわせてくれたサビーノが、首を傾げる。
「なんだ、どこか寄りたいか?」
「……あ~、そうだ」
ふいにオディロンとジョエルのことを思い出し、彼らに会いに行けないかと聞いてみると、頷いてくれた。
辺境の地へと追いやったと説明されてはいたが、実際には森の最奥という事でいけない距離ではない。
大分痛手を負った筈だ。サビーノは怒り心頭だったからな。
嫉妬心むき出しの姿を思い出し、くすくす笑っていると頭を小突かれて、よろけた。
オディロンの元に辿り着いた時は深夜となっており、森の中では知能の低い魔獣達になんども襲われたが、その都度サビーノが撃退してくれていた。
フリオも剣で応戦はしていたが、歯が立たず、悔しい思いをする。
腕が鈍っていると言うよりは、剣そのものが効かないのだ。
そんなフリオの頭をぽんぽん撫でたサビーノが、出迎えたオディロンに向かって挨拶をする。
「久しいな、我が弟よ」
「……随分と仲良しになったんだな」
「そういうオマエは、例の生贄とはやっかいな関係になっているようだな」
オディロンにしがみつき、フリオとサビーノをにらみつけている、ジョエルが威嚇するように唸るのを見て、どっと疲労感に襲われた。
オディロンはさして困っている様子でもなく、その大きな口を開き牙を覗かせて笑うと食堂に招き入れてくれた。
サビーノは、オディロンとフリオの思惑には気付いていた様で、オディロンを問いただすような事はせず、ただこの森の奥へ追いやったらしい。
温かな料理と酒を振舞われた後、サビーノとオディロンは別室で話があると席を立ってしまい、食堂にはフリオとジョエルの二人きりとなってしまった。
「……」
なんとなく気まずい雰囲気が流れるが、ジョエルは気にする素振りも見せず、酒をあおり、つまみを口に放り込んでいる。
酒の甘い香りが漂っていた。ジョエルは頬をうっすらと染めて、視線だけフリオに向けて声を掛けてきた。
「フリオ様って結局どっちなんですか」
「え?」
何の話だとジョエルの言葉を待っていると、ジョエルは肩をゆすってさらに酒をごくごくと飲み干す。
頬が真っ赤になっているのを見るに、酒には強くない様子だ。
「おい、もうやめておけ」
「僕の事はいいんです! オディロン様とサビーノ様、どちらが好きなんですか!?」
「!? な、なにを言っているんだ?」
「はあ? だいたいフリオ様が僕のオディロン様に言い寄ったのがいけないんですよ!? オディロン様からフリオ様の名前がでる度にイライラしてイライラして――!!」
「お、おい、落ち着け」
このままでは暴れ出しそうだったので、仕方なくフリオは己の気持ちを伝える事にする。
酒の雫がついた杯を見つめ、淡々と口にした。
「オマエの心配は無意味だ。俺は、最初からオディロンに恋や愛といった感情は持っていない」
「それは無責任じゃないですか!?
「そうだな。それはきちんと謝罪したい。でもな」
フリオは自分で言葉にしながら、己の胸に刻むように言葉を吐き出す。
「俺は、サビーノの傍にいたいと願っているんだ。俺を、罰してくれるサビーノの傍に……」
それだけ言うと、そっとジョエルに向き直った。
ジョエルは目を丸くして酔いが醒めたような顔つきに変わる。
頬を緩めると卓に突っ伏してしまう。
「お、おい?」
「……ふ、ん……」
「寝たのか」
なるほど、これはオディロンも振り回されるわけだ。
始めて会った時はオディロンに虐められているのでは、と心配をしていたが、二人の関係の均衡は取れているらしい。
ジョエルに何かかけるものを持ってこようとして、食堂から出て行こうと扉に手を掛けた時、ちょうどあちらから開いたので息を飲む。
サビーノが顔を覗かせていた。
「サビーノ」
「フリオ、我はオマエと二人で生きていくと決意した」
「? あ、ああ」
「だから、我が国を弟に譲る」
「――は、はあ!?」
思わず大声を出してしまうと、背後でジョエルがうめく声が聞こえてきて口元を両手で覆う。
どいういう事なのかをサビーノに詳細を聞いてみると、オディロンとは話がついており、サビーノはフリオとある場所を目指して旅立ちたいという。
「どこへ?」
「オマエと我の死に場所だ」
――死に場所。
その言葉自体は絶望的な響きをしてはいたが、要するに、二人きりの時間を謳歌して最期を迎える場所を探したいという意味であろう。
サビーノは、何もかもを捨てて、フリオとの生を選んでくれたのだ。
「……それが、オマエの望みなら俺はついていくよ」
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