焔の龍刃

彩月野生

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第四章【聖と闇の舞踏】

第16話〈交わり爆ぜる力〉

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 グラストンベリー上空。
 轟音とともに現れた光の渦の中心には、歪の教会が浮かぶ。 
 力を通して教会の中を見たアールシュは、小高い丘にて相対する剣をふるうメイドの女に向かって叫んだ。

「2つの聖なる魂がやってくる。剣をおさめよ」
「私は、貴方を信じていません」
「当然だな。だが、私はあくまでも人々のため……」
「ルーナ様を利用しようとする者は赦さない!!」
「仕方があるまいな」

 アールシュは、短剣を懐から取り出すと彼女の刃とこすれさせた。
 周囲の状況は能力で把握している。
 住人の避難は済んでいるようだ。
 ただ、正体不明の兵器とみなされた教会が、いつ軍の攻撃をうけるか懸念されるだろう。
 アールシュは剣をふるいながら、攻撃をどうにか避けていく。足元がふらついて、あやうく転びかけるが、普段このようなミスなどしない。
 何かの力を感じる。
 我に返った時には、切っ先を地につきさして、膝をついていた。

 ――しまった……!

「覚悟!!」

 剣をふりかざし、上から薙ぎ払う攻撃をかわす隙がない。
 やむ負えずどうにか身体をずらし、肩に一撃をくらうにとどまる。
 するどい痛みが電流のように全身にかけめぐった。
 血が流れ出る傷口をおさえつつ、後退した時、爆風に丘の上を転がってしまう。
 うっすらと視界には、まばゆいばかりのミカエル像が見えた。

 アールシュの胸が震える。

 ――こ、これが! 歪の教会!

 世界に流れる聖なる力を変質させ、人類をあるべき生命の本流に戻す力。
 唇をかみしめ、女剣士の姿を探した。

 教会の中は常に揺れ動き、夕都も朝火ももはやまともに立つことさえできず、マッテオの力に翻弄されるばかりである。
 マッテオは、ミカエルの力を存分に駆使して二人を翻弄させた。

 夕都は朝火をささえながら結界を張り、どうにか光の渦をやり過ごす。

「くっ……あいつ、ますます力を増してる!」
「歌が、きこえる」

 朝火が刀を握りしめながら膝を擦り、なおもマッテオにはむかおうとする。
 その様を見る夕都の胸の中は、熱い感情に満たされていた。
 確かに、ルーナ達の歌声がする。脳内には美しい賛美歌がひろがり、精神を優しくつつみこむ。
 ふいに振動がとまり、足裏を石床にこすりつけてたえた。
 とうとうグラストンベリーに着いたのだ。

 マッテオが翼を羽ばたかせて外へと飛翔していく。迂闊にも見逃した夕都は慌てるが、教会が傾き始めたためにまともに歩けない。
 朝火と身体をささえあって、ようやく外に顔を出すが、霧におおいつくされており、視界がぼやける。

 どこからか声がした。声の方角に視線を向けると、うっすらとある光景が見えた。
 ここは、丘の上らしい。



 グラストンベリー。
 屋根のない旧聖ミカエル教会が、神秘的な輝きを放つ。
 明らかに夕都やマッテオの力に呼応しているのはわかる。

 丘の上に踊るようにまう2つの影を見つけた。夕都は飛び出しかけるが、朝火がうめいて肩を掴むのでためらう。
 マッテオは、ミカエル教会に降りたった。2つの影はこちらに近づいてくる。
 顔がはっきりと見えた。

 アールシュ、それにメイド姿の女性が剣を手に今にも振りかざそうとしている。

 “ミーレスよ!! 敵じゃない!! お願いだから、戦うのをやめて!!”

「ルーナか? 分かった!」

 脳内にひびくルーナの言葉を信じて、アールシュとミーレスを止めるべく、金色の力をそそいだ。
 丘の上の二人はくずおれ、お互いに刃を手放すと大人しくなる。
 声も発せない様子で、こちらを見やるアールシュの目は、やがて閉じられた。

「朝火、いくぞ」
「ああ」

 マッテオがミカエル教会の上を舞い踊り、光を放つ。高笑いがこまくを震わせて、夕都の不快感は増していく。

 もはや、躊躇など不要だった。

 夕都は朝火と共に歪の教会からとびだし、まっすぐにマッテオに向かう。

「お前を必ず止める!」
「やれるものなら……!」

 金色の光が溢れ、丘を、2つの教会をつつみこんだ。
 どこからともなく歌声がひびきわたり、ぶつかる力の爆音に溶けた。

 そんな中、男の怒声があがる。

 アントーニオが、マッテオを呼ぶ声だった。
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