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閑話 帆波美洋
しおりを挟む「……じゃあ特に理由も無く、マジでランダムに選ばれたの?俺」
雲の中のような、淡く曖昧な光に満ちた場所で、帆波美洋は、眼の前にいる奇妙な生き物に尋ねた。
額に青い宝石を埋め込んだ、大福のようにもこもこで白い毛玉のような体躯。愛らしい糸目と長い耳を持つ、ウサギめいた姿だ。長い耳の裏と、短い脚の肉球らしき部分は淡い水色に染まっている。
美洋の眼の前には、巨大なルーレットが天を衝くようにそびえ立っていた。回転を終えたそのルーレットの「当たり」を示すゾーンには、美洋の名前が誇らしげに記されている。
「うん、ごめんね。勿論全人類じゃなくて選別されてはいるんだけどね。君に今から転移してもらいたい場所は不安定な世界で、先程まで君が住んでいた世界から100年周期で飛んでもらっているんだけどね、」
もこもこは、その愛らしい顔でなんとも申し訳なさそうな気配を漂わせた。
「ふーん。まぁ、いいよ詳しい事は」
胡坐をかいていた美洋は、人さし指で頬をぽりぽりと掻きながら、もこもこの話を投げやり気味に遮った。
「えっ?説明いいの?」
「うん。知ってると思うけど、今日まで色々有りすぎて、ちょっとリフレッシュしたいなって思ってたところだったから」
「おおぅ……」
もこもこの感情は読みにくいが、驚愕の色は伝わってくる。美洋は、その大きなルーレットをちらりと一瞥すると、興味なさげに視線を戻した。
「別に魔王を倒せとか世界を救えとかじゃないんでしょ?なんか世界の均衡を護る、とかいう大層な理由だったよね」
「うん。行ってもらえるだけで、君の持つ『世界の断片』の魔力が、その世界の魔法的なシステムに組み込まれて、均衡を保つのに役立」
「うん。分かった分かった」
美洋は両手を振って、それ以上の説明を拒否した。彼の性格は、穏やかでありながら、同時に思い切りが良い。厄介なことに深入りせず、現状をサクッと受け入れる柔軟さがあった。
「その世界は、ゲイは存在する世界?」
「ゲ……?、う、うん。もちろんだよ」
「じゃあ大丈夫」
「君はなんというか……、見た目に反して色々凄いねぇ」
もこもこは、少々呆れたような、感心したような声を上げた。
美洋は、その言葉を褒め言葉と受け取ったのか、にっこりと微笑む。その微笑みは、後に彼を知る者たちを惑わせる、どこか妖艶な色気を秘めていた。
「姿とか年齢とか変えられるけど、どうする?」
「うーん。見た目はわりと気に入ってるから別にいいかな。歳も……老けたいとか、今更若返りとかしたくないかも」
美洋は自分のすらりとした体躯を見下ろした。185センチという長身に、余計な肉が一切ない、スリムで均整の取れた体型。彼はこの自身の容姿を気に入っていた。勿論、最低限ではあったが、日々の努力の賜物である。
「あ、強いていえば、今の髪色気に入ってるから伸びてもそのままがいいな」
美洋は、3日前にブリーチしたばかりのピンクベージュの髪を指先で梳く。
「分かった。他の個所の体毛と合わせて、その色が地毛だと変更しとくね」
「あっ!ちん毛以外のムダ毛は永久脱毛、とか出来る?」
「ちん……、分かった…」
もこもこは、ついにその愛らしい糸目を真っ直ぐにし、少々げんなりしはじめた。異世界転移者の中でも、ここまで妙な細部にわたる注文と、受け入れの早さを両立する者は珍しかった。
「……君は飲食店を開くのが夢だったみたいだね。じゃあそのあたりに必要な魔法やスキルを使える様にしておくよ。他には何か欲しいのある?」
美洋の眼の前に、半透明の光るウインドウが開いた。それは、この世界に合わせた、魔法に関するメニューだった。
「そうだねぇ……、何かに使えそうだから、水魔法と火魔法と光魔法が欲しいかな」
「分かった。どれもマスターランクで使える様にしておき」
「えっいいの?マスターランクって…」
「君は悪用とかしなさそうだもの。それに、君の魔力は世界の均衡に組み込まれるんだ。これくらいのサービスは当然だよ」
「あー、まぁね……。面倒事に巻き込まれるのはごめんかも」
それが彼の本心だった。穏やかな日常こそが美洋の望みだった。
「光魔法に関しては、ちょっとまだ色々有る世界だから、使用する時は気を付けてね」
「分かった」
「あとね、これだけは最後まで聞いてほしいんだけどね、光魔法は……」
………、
「……分かった。じゃあ、お互い合意の上でセックスしたら、そう出来るようにしといて」
「了解。君は本当に、欲望に正直だね」
もこもこは、もはや驚くこともなく、淡々とその機能を追加した。
美洋は立ち上がり、軽く伸びをする。彼の茶眼は、新しい世界への期待でわずかに輝いていた。
「じゃあ、こんな所かな?名前に肖って、セイルとして、新生活を始めるか」
新しい世界での彼の名前、セイル。帆波美洋という名前から取った、彼らしい名だ。
「うん。じゃあ、行ってらっしゃーい」
もこもこの声と共に、美洋の足元から淡い光が立ち昇る。光は彼の全身を包み込み、そのまま美洋、セイルを異世界へと誘った。
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