異世界に転移してサンドウィッチ屋を開いたら、騎士様の胃袋を掴んでしまった様です。

有永

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閑話 Crazy for you

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「なぁアッシュ、ベットを買い変えようかと思ってるんだけど、キングか、クイーンを2つ買ってくっつけるのと、どっちがいいと思う?」

昼休み、宮廷騎士団の激務から解放され、リメインで遅い昼食にありついていたアッシュは、その言葉にフォークを落としそうになる程、硬直した。

「セイル……それは……どういう意味だ?」

黒髪に黒眼の、絵に描いたような真面目な騎士団長は、顔色一つ変えずに告げたセイルの言葉の真意を測りかねている。
客は他にテーブル席に2人。今は客足が落ち着いているので、レティスもその常連2人と話をしていた。

「アッシュが泊まりに来る様になったからね。今はダブルを使ってるけど、俺たちタッパも幅もあるからさ、抱き合うだけなら問題無いけど、横並びだとやっぱり狭いからね」

セイルは片目を閉じて端正な顔を少し傾けた。その仕草の一つ一つに、男性なのに妙に色気が漂う。その妖艶さは、先日ようやく隣の席の座を手に入れたばかりのアッシュを、未だに毎回動揺させる。

「俺は、アッシュと身体が触れ合ってる方が好きだけど、流石に一晩中身動きが取れないのは堪えるだろう?もし毎日一緒に寝る様になったら、って事も、考えるとね」

セイルは「ふふ」と悪戯っぽく笑いながら、アッシュの前に置かれた空のサンドウィッチの皿を下げて、空のグラスにデキャンタから水を注いだ。まだサラダとスープが残っているが、アッシュはそれどころではない。

「セイル! お、俺は……君と毎晩、隣で眠ることは、吝かではないが……」

真面目なアッシュは、セイルの「泊まりに来るようになった」という言葉を、まるでプロポーズの様な重さで受け止めていた。彼氏になったとはいえ、まだ数回しかセイルの家に泊まれていない。

「ふふ、そんなに硬くならないでよ、アッシュ」

セイルはクスリと笑うと、少し身を乗り出した。その瞬間、セイルから漂う甘い香りに、アッシュの胸が高鳴る。

「毎日、とは言わないよ。騎士団長の激務は知ってるから。でも、アッシュが望むなら、毎日でも歓迎するよ。広いベットで、俺をたっぷり抱いてくれるなら、ね?」

最後の言葉は、妖艶な笑みと共に囁きに近い甘い声で告げられた。アッシュの顔は、ネイビーブルーの騎士礼服に負けないくらい青くなっている。

「セ、セイル……っ! ここは、店の中だぞ……!」

常連客と話していたレティスが、一瞬こちらを振り返った様な気がして、アッシュは慌てて小声でセイルを窘める。

「んー、じゃあ、クイーンを2つくっつける方向で検討しようか」

セイルは、動揺するアッシュを楽しんでいるのか、さらに追い打ちをかけるような甘い言葉を続ける。

「どっちにしても、アッシュが泊まりに来る頻度が増えるってことだろう? キングだと、俺の淫乱な体が物足りなくなるかも知れないし、クイーン2つなら、後背位(バック)でも十分余裕が有りそうだもんね」

アッシュはゴクリと喉を鳴らした。想像しただけで身体が熱くなる。普段、絵に描いたような真面目さで通っているが、セイルの色気と甘い誘いに、身体が熱くなるのを感じる。だが、セイルの「淫乱」という言葉に反応して、アッシュの真面目さに隠された独占欲が顔を出した。

「クイーンを二つ、か……」

アッシュは低い声で繰り返した。

「ああ、ベッドは広ければ広いほどいいだろう?特にアッシュは筋肉質で幅があるから、抱きしめ合う時以外でも、存分に俺を堪能できるよ」

セイルはにっこりと笑い、さらに誘いを深める。
アッシュは、フォークをぎゅっと握りしめた。

「セイル」

「何?アッシュ」

「俺は、君が淫乱であるというなら、その全てを受け止めてみせる。君が物足りないなどと、絶対に言わせない。毎晩、君の望む通りに、君の身体を俺のモノにして、他の何も考えられないように、満たしてみせる」

アッシュの黒い瞳が、獲物を捉えたかのように鋭く光る。普段の真面目な彼からは想像できない、獰猛な男の顔だった。セイルは目を丸くして、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「それは、楽しみだね、アッシュ。じゃあ、クイーン2つで決定だ。早速、注文の手配をしようかな(自分で作ってもいいけど」

セイルは笑顔でカウンターキッチンの奥へ消えていった。
アッシュは、残りのサラダとスープを一気に平らげた。ネイビーブルーの騎士礼服の下で、熱を持った身体を冷やそうと、空になったグラスに注がれた水を一気に飲み干す。

(キングで十分だと思ったが、クイーンを二つか……。

騎士団長として職務に忠実なアッシュだが、セイルが絡むと途端に独占欲が沸き上がり、真面目さの仮面の下にある男らしい激情が顔を出す。

「アッシュさん、大丈夫ですか?顔が少し赤いですよ…?」

常連客との話を終えたレティスが、心配そうにアッシュの側に寄ってきた。

「ああレティス。大丈夫だ。少し、今日の訓練メニューを考えていただけだ」

アッシュは平静を装い、すぐにいつもの真面目な騎士団長の顔に戻る。

「…アッシュさん、アッシュさん達貴族と違って俺たち平民は仕事以外やる事無いから、ある程度の歳以上になると、人によっては性欲強くなるんですよ。平民はあまり学校とか行かないですからね」

レティスは何を思ったのか、そんな事を言い出した。

「な、何の話だ、レティス。急に」

アッシュは不審に思いながら尋ねた。

「いやその、開店準備してる時にセイルさんから『アッシュが泊まりに来る回数が増えるから、ベッドを大きくするんだ♪』って聞いてたんで……。もしかして、そっちのことで熱くなってるのかと」

レティスはそう言うと、持っていたデキャンタからアッシュのグラスに再度水を注いだ。

「そ、そんな訳ないだろう。仕事の話だ」

アッシュは、レティスの純粋な誤解に、むしろ安堵した。セイルとの濃厚な会話の内容など、誰にも知られたくない。

「そうですか。なら良いんですけど。そもそも、キングとかクイーンとかって、何ですか?」

「えっ?」

アッシュは素っ頓狂な声を出す。

「俺たち平民もベットは使わないわけじゃ無いけど、簡易的なものだったり体に合わせて作った手製のものだったり、ですもん。ダブルとかキングとか、何が何やら」

新しい客が入ってきて、レティスは「いらっしゃいませー」とアッシュの元を離れた。

(…平民と貴族で、そこまで差があるのか?


アッシュは、レティスの言葉を頭の隅で反芻した。確かに、貴族は幼少から教育を受け、社交や政治など、常に頭を使うことが多い。一方、平民は肉体労働が主で、夜には他に娯楽も少ないと聞く。


(…そういえば、セイルは貴族なのか平民なのか、どっちなんだ?

アッシュは、セイルの過去について、知っていることが少なすぎることに気付く。セイルは自分自身の事を多くを語らない。だが、彼の持つ知識や立ち振る舞いは、貴族のそれにも平民のそれにも当てはまらない、不思議な魅力がある。実際、この建物のセイルの住居部分は貴族や平民とは趣きが全く違う感じがする。2階はカーペットの部分が多く、何より玄関や、店舗側から続く扉以降は土足厳禁なのだ。不思議な作りだ。

(今度、ゆっくり聞いてみよう。……いや、そんな時間があるなら、クイーン2台のベッドで、セイルを徹底的に愛し抜く方が先決か。

アッシュは決意を新たにし、立ち上がった。そろそろ昼休みが終わる時間だ。




「ああ…アッシュ…、中に出してっ…!」

対面座位で、セイルはアッシュの首元に両手をまわし、激しく突き上げられながら、セイルは顔を紅潮し目尻に涙を溜めながら懇願した。

休みの初日、アッシュは久しぶりにセイルの家に泊まりに来ていた。昼勤二日目だったリメインでの会話から三日後。セイルは本当にクイーンサイズのベッドを二つ並べていた。その広大な空間で、二人の体は自由に、そして激しく絡み合っている。

ちなみに、結局ベットはセイルのお手製である。

「セイル……っ、お前が、そんな顔で頼むから、俺はもう……っ、我慢できない……!」

アッシュはセイルの腰を両手で掴み、さらに深く突き上げる。セイルの熱い内壁がアッシュを締め付け、快感が全身を駆け巡った。セイルのピンクベージュのセミロングが乱れ、左前髪が汗で額に張り付いている。

「はぁ……はぁ……っ、お願い…っ、アッシュ……っ!」

セイルは甘く喘ぎながら、アッシュにしがみつく腕に力を込める。アッシュはもう理性の限界だった。

「っく……!セイル、出るっ!」

アッシュは叫ぶように告げると、セイルの奥深くに白濁をほとばしらせた。セイルの体も大きく震え、ふたりの腹筋を汚した。全身の力が抜けたようにアッシュの腕の中に倒れ込んだ。

「ん……っ、アッシュ……」

セイルは蕩けた瞳でアッシュを見下ろし、唇を求めた。アッシュは、汗と熱に濡れたセイルの唇を、深く、そして優しく受け入れた。セイルの甘い香りが、アッシュの全てを包み込む。

「ああ…アッシュ、アッシュ」

セイルはアッシュの舌を舌で貪る。射精を終えたばかりなのに、セイルの屹立は未だ萎えない。白濁にまみれたアッシュを包む内壁は、まだ妖しくうねっていた。

「…物足りないのか、セイル」

アッシュは息を整えながら、セイルの頬を愛おしそうに撫でた。真面目な彼が隠し持つ獰猛な感情が、今も燻っている。

「…アッシュ、君はまだ知らないんだ。俺が君を狂わせてるんじゃない。…君が、俺を狂わせてるんだ…。君の体を見るだけで、俺の奥は疼いて疼いて、せつないんだ…。欲しくて欲しくて、堪らなくなるんだ」

セイルはアッシュに再度しがみつくと、後孔をきゅっと締める。

「…くっ!」

アッシュはその刺激に眉間に皺を寄せる。

「…ほら、すぐに勃ってしまう。アッシュのそういうところが、俺をどうしようもなくさせるんだよ」

セイルはアッシュの黒髪ショートヘアに顔を埋め、甘い声を上げる。

「セイル、お前は……」

アッシュは、もう一度セイルを抱き上げ、広大なベッドのシーツに横たえた。

「何度でも、お前の気が済むまで抱いてやる。この広いベッドを、お前への愛で満たしてやる」

アッシュの眼差しは、真剣そのものだった。セイルの淫乱な部分を全て受け止め、それを独占しようとする男の激情が、彼の体から溢れ出ていた。

「…好きだよ、アッシュ」

セイルは、心底幸せそうな妖艶な笑みを浮かべた。その言葉が、アッシュの理性を完全に吹き飛ばした。

「俺もだ、セイル」

アッシュは、セイルのピンクベージュの髪を愛おしそうにかき混ぜると、再び、その熱い身体を貪り始めた。クイーンサイズのベッドが二つ繋がれたこの空間は、二人の愛の激情を受け止めるには十分過ぎる広さだった。

(これで、物足りないなどと、二度と言わせない……!

真面目な騎士団長の、熱く、獰猛な夜は、まだ始まったばかりだった。







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