異世界に転移してサンドウィッチ屋を開いたら、騎士様の胃袋を掴んでしまった様です。

有永

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第129話 残酷なまでに、綺麗で。

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久しぶりに訪れた、予定のない休日。

セイルは、改装中の「リメイン」を覗いたり、馴染みの店を覗いたり、図書館に足を運んだり、充実した時間を過ごしていた。

ピンクベージュの髪を風に遊ばせ、時折、買い食いした串焼きを頬張るその姿は、周囲の目を惹きつけるほどに艶やかだ。


​しかし、貴族街の裏通りに差し掛かったところで、その平穏は無遠慮な声によって切り裂かれた。

​「おい、待ちやがれよ。お前がエリンジューム家の『三男』に収まったっていう色男か?」

​振り返ると、シナバーオレンジの騎士礼服をだらしなく着崩した男が二人――第三騎士団の団員だ。彼らは品性の欠片もない視線でセイルの体躯をなめ回し、逃げ道を塞ぐように薄暗い路地へと追い込んできた。

​「男のくせに男に媚を売って、侯爵家に潜り込むたぁ大層な身分だな。おまけに養子縁組という名の婚姻だと? 笑わせるぜ」

「アッシュ団長も可哀想に。こんな『子も宿せない』優男に。体で懐柔したんだろ? 聖人君子の団長をたぶらかすとは、とんだ淫乱野郎だ」

​セイルの茶色の瞳から、すうっと温度が消えた。
普段の穏やかな彼を知る者が見れば、即座に命乞いを始めるような冷徹な光。しかし、愚か者たちは、セイルのすらりとした細身の体躯に油断し、その顎に汚い手を伸ばす。

​「どうせ汚れてるんだ。俺たちにも少しはいい思いをさせろよ」

​「……その汚い手で、俺に触れないでくれるかな」

​セイルが低く、囁くような声で呟く。指先が空中で優雅に円を描いた。

「レクイエス」

抗えぬ深い眠りの魔法。二人の騎士は言葉を失い白目を剥いて、崩れ落ちる。セイルは倒れゆく彼らの体を「無限収納」の端へと放り込むと、自身の気配を完全に遮断した。

「……転移」




​​――領外、今の時間は人の立ち入らぬ峻険な森の中腹。


​冷たい風に打たれ、二人の騎士が意識を取り戻した。


「……ひっ!?」


最初に感じたのは、喉を締め上げる縄の感触と、足元の空虚感。そこは地上数十メートル、古木の太い枝の上だった。両腕両脚は、跡がつかない様に光魔法による不可視の拘束具で固定され、首には丁寧に編まれた縄がかけられている。


​「起きた?」


​枝の先に、重力を無視した軽やかさでセイルが笑顔で立っていた。夕陽を背負った彼は、神罰を下す天使のようであり、同時に魂を啜る悪魔のようにも見えた。


​「俺ね、バカにされるの嫌いなの。……でも、それ以上に許せないことがあるんだ」


​セイルは歩み寄り、一人の騎士の頬を愛おしげになでた。その指先は氷のように冷たい。


​「俺とアッシュの絆を……俺の愛するひとの選択を、君たちみたいなゴミに汚されるのが、耐え難いほど不快なの」


「ま、待て! 悪かった! 冗談だ!」

「助けてくれ、死にたくない!」


鼻水と涙で顔を汚し、無様に命乞いをする男たち。セイルはその様子を、慈しむような、それでいて底知れぬ空虚さを湛えた瞳で見つめた。


​「体で懐柔? 淫乱? ……ふふ、半分は正解かな。俺、アッシュの前では君たちの想像以上に乱れるよ? でもね、それはアッシュだけに見せる特権なんだ」


​セイルの唇が、妖艶に弧を描く。


​「君たちには、一生かかっても理解できない幸福。……じゃあ、バイバイ」


​「ひっ――」


​容赦のない一蹴。


​「ぎゃあああああ!!」


​短い悲鳴の後、縄が限界までしなり、嫌な音が響く。
セイルは無表情にそれを見届けた後、もう一人の股間に視線を落とした。恐怖で失禁し、震える男。


​「アッシュを侮辱した罪は、死んでも消えないよ」


​二人目も同様に蹴落とすと、森には再び静寂が訪れた。
完全に息絶え、その魂が肉体を離れたのを確認してから、セイルは淡々と光の拘束魔法を解除した。



残ったのは、高所から転落して首を折ったようにしか見えない、哀れな二つの死体だけ。



「さーて、帰ろっと」



セイルは背筋を伸ばしふわりと微笑むと、一瞬でその場から姿を消した。



エリンジューム邸に戻れば、そこには愛する伴侶と大好きな家族、温かい食卓が待っている。




―――​数日後。領外の森で、行方不明だった第三騎士団の騎士二名が変わり果てた姿で発見された。遺書はなく、状況からは「突発的な無理心中」と断定された。




二人の騎士が最後に見た「美しくも残酷な微笑み」を知る者は、この世界のどこにもいない。








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