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ユー・メイク・ミー!(4)
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桜那に感想を尋ねられ、宏章は迷う事なく答えた。
「表情とか、視線の動かし方とか……、あとはどの瞬間を切り取っても綺麗なところかな。例えば映像をコマ送りで再生したとしても、どのコマも表情を意識して美しく魅せているところとか、本当にプロだなって思ったよ!」
宏章は真剣な眼差しで、熱く語った。
桜那はまさかそんなところを見ているなんて思いもしなかったので、驚きから目を見開いたまましばらく固まっていた。桜那が急に静かになったので、宏章は次第に焦りからオロオロし始めた。
……あれ?俺なんか変な事言ったかな?
桜那は不安げにオロオロする宏章の表情に、思わず吹き出してしまった。
「そんな事初めて言われたよ。どうせ絡みだけしか見てないんだと思ってたから。でも嬉しいよ、そこは私が撮影で一番意識してるところだから。ありがとう」
そう言って嬉しそうに笑う桜那に、宏章はドキッとしてしまった。
「あ、いやまぁ……、俺も男だから絡みのところは興奮するけど……」
宏章が正直に答えると、桜那は「ふーん」と呟いて、ニヤリと笑った。
……だけど、どうせこいつも所詮男なんだろ。
……私の裸にしか、きっと興味ないんだ。
……早く脱がしたいって思ってるんだろうな。
「へぇ、じゃあここでヤッちゃう?私のファンなんでしょ?ラッキーじゃない?あわよくばって思ってたでしょ?」
桜那はあろう事か、いきなり宏章を試すかのようにけしかけた。
いくら穏やかそうに見えても相手は男だ。普段の桜那なら間違いなく警戒し、軽はずみな事など絶対にしないはずが、どういうわけだか完全に油断して舐めてかかっていた。
宏章のペースに、桜那は調子が狂っていたのだ。
さて、どう出るかな?ラッキーとばかりにそういう雰囲気に持ち込むかな?と構えてみるが、反応が無い。宏章は急に黙り込んで、心底不快とばかりに眉間に皺を寄せ、怒気を含ませた声で静かに言い放った。
「……しないよ、そんな事」
宏章は急に低い声を出し、さっきまでの人が好さそうな雰囲気が一変して、まるで別人の様だった。
……やば、怒らせちゃった。
桜那は一気に酔いが醒めて、みるみる血の気が引いた。途端に冷静になり、自分は何をやってるんだろうと焦った。
……いくらストレス溜まってたとはいえ、この人には何の関係もないのに。
そう思ったら急に自己嫌悪感が襲ってきて、桜那は俯いて黙りこくった。
宏章は桜那の様子にハッと我に返った。宏章もまた、ムキになって咄嗟にキツい態度を取ってしまった事に焦っていた。
宏章は慌てて顔を上げた。
「あ!ごめん……」
「そうだよね……、失礼な事言ってごめんなさい。私、帰るね 」
桜那は俯いたまま、タクシーを呼ぼうと鞄をゴソゴソし始めた。
宏章が気まずそうにオロオロしていると、桜那が「……あれ?」と言って、次第に焦り出した。
「どうしたの?」
宏章が心配そうに尋ねると、桜那がいきなり鞄をひっくり返した。
「財布がない!」
「ええ⁉︎」
宏章は驚いて大きな声を上げた。
そんな宏章をよそに、桜那は「どうしよう!」と涙目でオロオロしていた。
「ここまでタクシーで来たんだろ!? お金払ったんじゃないの?」
「お金はちゃんと払ったよ! 降りるときに落としたのかも!」
「俺、外探してくる!」
宏章はライトを手にして、外に飛び出していった。
桜那も宏章の後についていって、外を探し始めた。植え込みや側溝など、ライトを照らしてくまなく探したが、一向に見つからない。
小一時間ほど探した頃、宏章が携帯で時刻を確認すると、もうすでに日付を跨いでいた。
「ないなぁ……、もう誰かに拾われたかな」
宏章がつぶやくと、桜那は「え!?」と泣きそうな声を上げた。
「……もう!何やってんだよ!」
宏章は頭を抱えて、思わず大きなため息をついてしまった。
だが「ごめん……」と呟いて、しゅんと肩を落として小さくなっている桜那が可哀想になり、これで足りる?と言って、ポケットの財布から二万円を差し出した。
「そんな!悪いよ……」
「いいよ。元はと言えば俺が財布落としたわけだし。もう電車もないし、明日仕事なんじゃないの?」
そう言って、宏章は笑った。
「マネージャーに迎えに来てもらうし……」
桜那は済まなそうに言いかけたが、「もう十二時過ぎてるし、来てもらうのも大変だろ?」と宏章に諭されてしまった。
タクシーはものの数分で到着した。桜那が後部座席に乗り込むのを見届けると、宏章が車を覗き込んだ。
「じゃあ、気をつけて」
勝手に押しかけて、こんなに迷惑をかけたのに……。突き放したりせず穏やかに笑う宏章を見ていたら、桜那は胸の奥が苦しく、なんだかこそばゆい気持ちになった。
「お金、ちゃんと返すから!」
「そんなのいいって!気をつけて帰りなよ」
桜那は慌てて訴えかけるが、宏章にあっさり返されてしまった。桜那は照れくさそうに「……ありがと」と呟いた。
「あと……、余計なお世話かもしれないけど、もうこういう事はしない方がいいよ。じゃあ、おやすみ」
宏章はそう言うと、笑顔で桜那を見送った。
タクシーが見えなくなり、宏章はホッと一息ついて夜空を見上げた。
冬の空気は澄んでいて、月がくっきりと白く輝く。
……あーあ、給料入ったばっかだったのにな。今月も切り詰めるか。
宏章は苦笑いするが、ふと別れ際に照れくさそうにお礼を言う桜那の顔が浮かんだ。
……まあいいか。
宏章は小さく笑ってため息をつき、部屋へと戻って行った。
「表情とか、視線の動かし方とか……、あとはどの瞬間を切り取っても綺麗なところかな。例えば映像をコマ送りで再生したとしても、どのコマも表情を意識して美しく魅せているところとか、本当にプロだなって思ったよ!」
宏章は真剣な眼差しで、熱く語った。
桜那はまさかそんなところを見ているなんて思いもしなかったので、驚きから目を見開いたまましばらく固まっていた。桜那が急に静かになったので、宏章は次第に焦りからオロオロし始めた。
……あれ?俺なんか変な事言ったかな?
桜那は不安げにオロオロする宏章の表情に、思わず吹き出してしまった。
「そんな事初めて言われたよ。どうせ絡みだけしか見てないんだと思ってたから。でも嬉しいよ、そこは私が撮影で一番意識してるところだから。ありがとう」
そう言って嬉しそうに笑う桜那に、宏章はドキッとしてしまった。
「あ、いやまぁ……、俺も男だから絡みのところは興奮するけど……」
宏章が正直に答えると、桜那は「ふーん」と呟いて、ニヤリと笑った。
……だけど、どうせこいつも所詮男なんだろ。
……私の裸にしか、きっと興味ないんだ。
……早く脱がしたいって思ってるんだろうな。
「へぇ、じゃあここでヤッちゃう?私のファンなんでしょ?ラッキーじゃない?あわよくばって思ってたでしょ?」
桜那はあろう事か、いきなり宏章を試すかのようにけしかけた。
いくら穏やかそうに見えても相手は男だ。普段の桜那なら間違いなく警戒し、軽はずみな事など絶対にしないはずが、どういうわけだか完全に油断して舐めてかかっていた。
宏章のペースに、桜那は調子が狂っていたのだ。
さて、どう出るかな?ラッキーとばかりにそういう雰囲気に持ち込むかな?と構えてみるが、反応が無い。宏章は急に黙り込んで、心底不快とばかりに眉間に皺を寄せ、怒気を含ませた声で静かに言い放った。
「……しないよ、そんな事」
宏章は急に低い声を出し、さっきまでの人が好さそうな雰囲気が一変して、まるで別人の様だった。
……やば、怒らせちゃった。
桜那は一気に酔いが醒めて、みるみる血の気が引いた。途端に冷静になり、自分は何をやってるんだろうと焦った。
……いくらストレス溜まってたとはいえ、この人には何の関係もないのに。
そう思ったら急に自己嫌悪感が襲ってきて、桜那は俯いて黙りこくった。
宏章は桜那の様子にハッと我に返った。宏章もまた、ムキになって咄嗟にキツい態度を取ってしまった事に焦っていた。
宏章は慌てて顔を上げた。
「あ!ごめん……」
「そうだよね……、失礼な事言ってごめんなさい。私、帰るね 」
桜那は俯いたまま、タクシーを呼ぼうと鞄をゴソゴソし始めた。
宏章が気まずそうにオロオロしていると、桜那が「……あれ?」と言って、次第に焦り出した。
「どうしたの?」
宏章が心配そうに尋ねると、桜那がいきなり鞄をひっくり返した。
「財布がない!」
「ええ⁉︎」
宏章は驚いて大きな声を上げた。
そんな宏章をよそに、桜那は「どうしよう!」と涙目でオロオロしていた。
「ここまでタクシーで来たんだろ!? お金払ったんじゃないの?」
「お金はちゃんと払ったよ! 降りるときに落としたのかも!」
「俺、外探してくる!」
宏章はライトを手にして、外に飛び出していった。
桜那も宏章の後についていって、外を探し始めた。植え込みや側溝など、ライトを照らしてくまなく探したが、一向に見つからない。
小一時間ほど探した頃、宏章が携帯で時刻を確認すると、もうすでに日付を跨いでいた。
「ないなぁ……、もう誰かに拾われたかな」
宏章がつぶやくと、桜那は「え!?」と泣きそうな声を上げた。
「……もう!何やってんだよ!」
宏章は頭を抱えて、思わず大きなため息をついてしまった。
だが「ごめん……」と呟いて、しゅんと肩を落として小さくなっている桜那が可哀想になり、これで足りる?と言って、ポケットの財布から二万円を差し出した。
「そんな!悪いよ……」
「いいよ。元はと言えば俺が財布落としたわけだし。もう電車もないし、明日仕事なんじゃないの?」
そう言って、宏章は笑った。
「マネージャーに迎えに来てもらうし……」
桜那は済まなそうに言いかけたが、「もう十二時過ぎてるし、来てもらうのも大変だろ?」と宏章に諭されてしまった。
タクシーはものの数分で到着した。桜那が後部座席に乗り込むのを見届けると、宏章が車を覗き込んだ。
「じゃあ、気をつけて」
勝手に押しかけて、こんなに迷惑をかけたのに……。突き放したりせず穏やかに笑う宏章を見ていたら、桜那は胸の奥が苦しく、なんだかこそばゆい気持ちになった。
「お金、ちゃんと返すから!」
「そんなのいいって!気をつけて帰りなよ」
桜那は慌てて訴えかけるが、宏章にあっさり返されてしまった。桜那は照れくさそうに「……ありがと」と呟いた。
「あと……、余計なお世話かもしれないけど、もうこういう事はしない方がいいよ。じゃあ、おやすみ」
宏章はそう言うと、笑顔で桜那を見送った。
タクシーが見えなくなり、宏章はホッと一息ついて夜空を見上げた。
冬の空気は澄んでいて、月がくっきりと白く輝く。
……あーあ、給料入ったばっかだったのにな。今月も切り詰めるか。
宏章は苦笑いするが、ふと別れ際に照れくさそうにお礼を言う桜那の顔が浮かんだ。
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