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1章 アンジェラス1は転生する

25 話 任務失敗

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男達を剣に吸い込ませた後、フェンリルに近寄る。

「フェンリル、大丈夫?」

「……」

全く反応がない。試しに脈を測ってみると止まっていた。

「死んじゃってる。」

外相は見当たらないのに、死んでいるのは本当に奇妙だと思う。
ただの拘束魔法で、縛られていたのに何故死んでしまったのだろうか。

けれど、原因を考えても何も変わらない為、取り敢えず蘇られることにした。

「蘇って。」

手を翳すと、フェンリルの体が光に包まれ、確かに脈が動いていた。

「後は起きるのを待つだけだね。」

流石に叩き起こすのは気が引ける為、暫くの間、待ってあげる。

「まだかな……」

けど、数分で面倒になってきた。
せっかく蘇らせてあげたんだから、早く起きれば良いのに。

「ねぇ、まだ起きないの?」

待つと決めて一刻も立っていないのに、起こしにかかる。

「ねぇってばー。」

ゆさゆさ体を揺らす。
でも体重の差で、あまり揺らせていない。

「おーきーて!」

思いっきり、助走をつけてフェンリルの背中に飛び乗る。すると、ビクッと毛並みが逆立った。

『!?!?』

少しだけ毛並みが痛かったが、今は元に戻っているから柔らかい。

「ねぇ、起きた?」

大して様子の変わらないフェンリルに話しかけると、今度は目がきちんと合った。

『先程、飛ビ乗ッタノハ貴様カ。』

「そーだよ。だって蘇らせてあげたのに、起きなかったんだもん。」

だから仕方ないよね!と笑えば、死んだことに唖然としていた。

「ねぇねぇ、もう生き返ったんだし、早く人間の街に行こうよ!私、やらなきゃいけない事があるの!」

『人間?何ダ、ソレハ。』

「え?」

『は?』

「……」

『……』

「……」

『……』

しばらく沈黙が続く。

そして、先に口を開いたのはフェンリルだった。

『貴様ノイウ、人間トハ、獣人ノ事デアルカ?』

「人間は人間だよ。獣人は尻尾と耳が生えてくでしょ?なら違うよ。」

『コノ世界ニハ、エルフ、獣人以外存在センガ。』

「え、で、でもさっきの人間達は尻尾と生えてなかったよ?」

『服ヤ装備ノ中ニ隠シテオルダケダロウ。』

「え……」

どういう事だろうか。

この世界には人間を知るために送られてきたのに、人間がいないって可笑し過ぎじゃないだろうか。

「こ、これじゃ話にならない。」

初めて絶望した。この世界に転生した理由を早々に失ってしまった。

「初めて、任務失敗したよ。」

初めて、命じられたことを遂行できなかった。
ヤバい、こうなったら一度死んで転生し直そうか。

『オイ、目ガ死ンデイルガ大丈夫カ。』

「大丈夫に見えるなら、貴方の目は節穴だね。」

『心配シテヤッテルノニ、ソノ言イ草ハ何ダ。』

「だってもう、生きる理由がないんだもん。」

『死ヌノカ?』

「人間がいないなら、意味ないもん。」

フェンリルに乗ったまま膝を抱える。

『ソノ体勢ダト落チルゾ。』

「あっ……」

落ちると同時に一回転した。ちょっと楽しかったかも。

『言ワンコッチャナイ。』

「ねぇ、もう一回やってよ。」

『子供カ。』

「育ち盛りなの!」

精神年齢と肉体は、普通の少女と何ら変わりない。アンジェラスは、ずっと精神は生まれた時と変わらないとしのままだ。

だから、私は18で生まれたから少し幼い言動と体をしていて、大人の魅力溢れるナイスボディは残念ながらしていない。

まぁ、胸はかなりある様に世界の意志様に変更してもらったけどね。

「にしても、本当にヤバヤバだよ。」

『セメテ、転ガルノヲヤメロ。説得力ガナイ。』

さっきからフェンリルが苦言を呈してくるがガン無視である。

「あー、どーしよー。」

『……』

ついには何も言わなくなってしまった。

暫くずっとフェンリルの背中から転がる遊びを繰り返していると、急に脳が世界の意志様と接続された。

「!?!?!?」

突然の出来事に、体制を崩して頭を打ちそうになる所をフェンリルに助けてもらう。

『ドウシタ。』

「せ、せせ世界の意志様とつながったの!!」

初めてこの世界で繋がって、ワクワクが止まらない。
大体、世界へ降りると繋がらないから。

「な、何でしょうか世界の意志様!!」

フェンリルの上で正座をして、待つ。

[アンジェラス1、すまないが送る世界を間違えた様だ。]

「な、なら、別の世界に移してくれるんですか?」

[すまないが、天寿を全うしない限りは無理だ。]

「え……」

[本当にすまない。そこのフェンリルをアンジェラスとして戻ってきた時に神獣とするから、この世界で好きに生きてくれーープツッ!]

何かを言う暇もなく、接続が一方的に切れてしまった。

「ま、マジなの……」

目的もなく生きることなんて、私にできるのだろうか?
いきなり放り出されても、何をすれば良いのか分からない。

『大丈夫カ?』

「……ねぇ、フェンリルは事情知ってる?」

神獣に昇格すると言ってたから、多分フェンリルにも事情を世界の意志様の力でデータを脳に送り込み理解させた筈だ。

『先程、送ラレテキタカラナ。』

「そっか。誰にも言わないでよ。」

『勿論ダ。』

取り敢えず、一人ではない事には安心する。

この世界のことを少なくともフェンリルは、私よりも知っている。だから、一般人の生き方も知っているだろう。

「ねぇ、まず何をすれば良いと思う?」

『近クニ、獣人ノ帝国ガアル。ソコヲ目指セ。』

「うん。」

フェンリルが立ち上がり、私を背中に乗せたまま走り出した。

「めっちゃ早くなってる。」

『世界ノ意志様に、体力ト魔力量ヲ底上ゲシテモラッタカラナ。』

「やっぱり世界の意志様は、最高だよね。」

『ナントモ言エン。』

「いや、絶対最高だよ。」

てっきり、同意の言葉が返ってくると思ってたから驚きだ。
でも、感じ方は人それぞれだから何も言わない。

それに、まだ会った事もないしね。これから死ぬまで会えないだろうし。

「獣人なら、フェンリルは一応獣人に分類されるの?」

『我ハ、純粋ナ獣ダ』

「四種族しかいないのに?」

『獣人ハ、獣トエルフノ、ハーフダ。』

「ふーん。じゃあ、生みの親であるフェンリルを殺そうとしてるのは、獣人族を獣に支配されない様にするためって事?多分エルフもソレに協力してそうだし。」

推測の範囲内で、聞いてみるとコクリとフェンリルは頷いたところで、洞窟を抜けた。

『ソノ通リダ。聡明ナノダナ。』

「世界の意志様から一番信頼されて最強だって言うお墨付きだからね!」

『ソウカ。』

「うん!」

私を褒めることは、世界の意志様を褒める事と同義だ。
世界の意志様が、私の脳を作ったのだから感謝するのは世界の意志様にだ。

「因みに、他のフェンリルは居ないの?」

『賢者ニ殺サレタ。』

「じゃあ、貴方が最後の生き残りってこと?。」

『ソウデアル。』

「ふぅん。絶滅しなくてよかったね。」

『我ハ、何方デモ良イガ、アノ場デ死ヌヨリカハ貴様と居タ方ガ良イト思エル。』

「なら、世界の意志様に感謝しなきゃね!」

『ソウデアルナ。』

「あ!アレが獣人の国?」

大きな帝国の城が見える。真っ赤な獣人の国を象徴する旗が小さく遠目から見えた。

「早く行こうよ!」

『ソウ急カスナ、落チルゾ。』

「はーやーくー!」

『シッカリ、掴マッテオルノダゾ。』

「はーい!!」

返事をした瞬間、ものすごい速さで森を駆け抜けた。

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